第4話:アース ― 地震の夜と、一番の甘えん坊
アースを迎えたのは、2018年の9月のことだった。
元妻が休日や仕事帰りにふらりと立ち寄っていたペットショップで、あの子は彼女の視線を釘付けにした。一目惚れだった。まだ僕たちが、何の問題もなく笑い合えていた頃の話だ。彼女から熱心に相談を受け、僕もそのショップへ足を運んだ。ガラス越しに見る小さな生き物の瞳には、何ものにも代えがたい魅力があった。僕たちは迷わず、あの子を家族として連れて帰ることに決めた。
初めての多頭飼いだった。すでにのーすという長男がいる我が家に、新しい命を迎え入れる。先住猫ののーすとの相性も計り知れず、慎重を期して、普段は服を置いている部屋にゲージを設置した。慣れるまではそこをアースの聖域とし、少しずつ距離を縮めていく計画だった。
あの日、あの夜のことは、今も鮮明に焼き付いている。
2018年9月6日、午前3時。
突如として、大地が咆哮した。北海道胆振東部地震だ。
寝室を襲ったかつてない激しい揺れに、僕はベッドから一歩も動くことができなかった。隣で眠っていたのーすも、あまりの恐怖に身を硬くして、ただ立ち尽くすことしかできない。家全体が悲鳴を上げ、物が倒れる轟音が響き渡る。
揺れがようやく収まったとき、僕は真っ先にアースのいる部屋へ駆け込んだ。
足元が震えていた。部屋の扉を開けた瞬間、息が止まった。
大型のタンスが、すさまじい勢いで転倒していた。その重厚な家具が倒れ込んだ先は、アースが入っているはずのゲージの、本当にすぐ隣だった。もしゲージの設置場所があと数センチでもずれていたら。もし地震の揺れでゲージが数センチでも動いていたら。アースは間違いなく、タンスの下敷きになっていた。
「アース、生きててよかった……」
震える手でゲージの扉を開け、そこにいた小さな命を抱きしめたとき、僕は心底からそう叫んだ。それが、この子との本当の出会い直しのようだった。この小さな命が守られた奇跡に、震えが止まらなかった。
アースはその後、そんな危機を乗り越えたとは思えないほど、穏やかに、そして健やかに育った。マイペースで、どこか達観しているようでいて、その実、四匹の中で誰よりも僕のそばにいてくれた。
僕がソファに座れば、すぐにやってきて膝の上に乗り、重たい体を預けてくる。僕が横になれば、その顔のすぐ横に陣取り、撫でてくれるのを待つ。顔を撫でられるのが何よりも好きだったあの子。指先がその柔らかい毛に触れるたび、僕はアースの温もりを通じて、生きていることの平穏を確かめていた。
のーすに次ぐ次男として、あの子は僕の人生の「避難所」だった。
仕事で疲弊し、心身ともに削り取られるような夜でも、アースの重みが僕の膝の上にあるだけで、世界はまだ捨てたものじゃないと思えた。
今はもう、膝の上は空っぽだ。
タンスの下敷きにならず、奇跡的に生き延びたあの子は、今どこで誰の顔を撫でてもらっているのだろうか。
アース。
あの日、僕が震える手で君を抱きしめたのは、君を守るためじゃない。君の温もりに、僕自身が救われていたんだ。
君が僕の膝の上で鳴らしていた喉の音は、今も僕の耳の奥で、静かに鳴り続けているよ。
いつかまた会えるなら、その時はまた、君の顔をずっと撫でていたい。
君は僕の、一番の甘えん坊で、一番の守り神だった。




