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僕の猫〜正確には元僕の猫たち〜  作者: スアップ


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第2話:引き裂かれた境界線

別れてから数ヶ月、僕の生活は「猫たちに会うまでのカウントダウン」で回っていた。離婚という結末はあまりに唐突で、僕の人生のすべてを奪い去ったが、唯一、誓約書に記された「3ヶ月に一度の面会」という文言だけが、乾ききった心に灯る小さな明かりだった。


僕と元妻の間で、数週間に一度、事務的な連絡は続いていた。猫たちの近況、健康状態、たまに送られてくる写真。画面越しにのーすやアースが少し大きくなったのを確認するたび、僕は「次は直接会える」という確信を糧に生きていた。


あの日も、そうだった。

その地域に仕事の用事ができたとき、僕は迷わず彼女にメッセージを送った。「ついでに猫たちに会いたい。残した荷物も整理したい」と。

画面に「既読」がつくまでの数秒間、僕は高揚していた。ついにのーすの頭を撫でられる。アースの重みを感じられる。モコとベルの無邪気な姿をこの目で追える。そんな当たり前の日常が、ようやく戻ってくるのだと。


しかし、返ってきたメッセージはあまりに冷淡だった。


「今、風邪を引いているから家には来ないでほしい」


僕は一瞬、自分の目を疑った。風邪? そんなことか。なら、荷物は玄関先に置いておいてもらえばいいし、猫たちと少しだけ遊ぶ時間は外で確保すればいい。僕は必死に、彼女の心を開こうと打ち返した。猫に会いたい、荷物も整理しなければならない。数ヶ月も会っていないんだ、少しだけでも顔を見せてくれと。


だが、送られてきた次の言葉が、僕の人生を決定的に引き裂いた。


「あなたはもう、この家に一歩も立ち入ることはできません」


指先が冷たくなるのを感じた。僕は慌てて、机の引き出しの奥にしまい込んでいたあの「誓約書」を引っ張り出した。離婚時の混沌の中で、僕が十分に確認せず、ただ早くこの悪夢から抜け出したくてサインしたあの紙切れだ。

そこには確かに「3ヶ月に一度の面会」という、僕を繋ぎ止めるための甘い蜜のような言葉が書かれていた。しかし、そのすぐ下に、米粒のような小さな文字で、こんな一文が追記されていたのだ。


『ただし、面会は元妻の事情により中止することがある。その場合、動画のみの対応とする』


喉の奥から、言葉にならない嗚咽が漏れた。これは、面会の約束などではない。彼女がその気になれば、僕をいつでも猫たちから永久に遮断できる、完全な「拒絶の契約」だったのだ。


「もう来ないで。これからは一切、会わせることはない」


メッセージはそこで途切れた。僕が送った問いかけには、二度と既読がつくことはなかった。残されていた荷物も、僕と猫たちが一緒に暮らした証も、すべてが彼女の名義という「絶対的な壁」の向こう側へと封印された。僕は、数ヶ月に一度会えるという希望を餌にされ、ただ都合よく手懐けられていただけだったのだ。


部屋の隅で、僕は膝を抱えた。あの一行の「小さな文字」が、僕の猫たちとの未来を、紙切れ一枚で灰に帰してしまった。


「……動画なんて、いらない」


僕は震える指で、そう打ち込んだ。送られてくる動画は、僕を慰めるものではなく、むしろ僕を嘲笑うための餌のように思えた。画面の中で、僕の知っているのーすやアースが走り回っている。けれど、彼らは僕の声に応えない。僕の匂いを嗅ぐこともない。その「触れられない現実」を切り取った動画は、僕にとっては拷問に等しかった。


「そんなもの見せられて、納得すると思っているのか」


僕の送ったその返信を最後に、彼女からの連絡は完全に途絶えた。

そうして僕は、自ら「猫たちの近況」を知るための唯一の糸さえも、断ち切ってしまったのだ。


電話をかけても繋がらない。メッセージを送っても既読すらつかない。誓約書という名の檻に閉じ込められた僕は、ただ自分の怒りと後悔を糧にして、誰もいないこの部屋で呼吸を繰り返すことしかできなかった。


「動画ならいらない」と強がったのは、せめてものプライドだった。偽物の絆で繋ぎ止められたくはなかった。けれど、その強がりが、結果として彼らとの繋がりを物理的にも完全に消し去ってしまった。今日から、僕はのーすたちがどこで何をしているのかさえ、知る術を失ったのだ。


彼らは今、どこにいるのか。元妻の新しい生活の中で、彼らはどんな顔をして過ごしているのか。僕の不在を、彼らはどう受け入れているのか。


夜、ふと目を覚ますと、部屋のあちこちに彼らの幻影が見える気がした。

のーすが玄関のマットで僕を待っている。アースが膝の上で重い温もりを伝えてくる。モコが靴紐にじゃれつき、ベルがカーテンの陰から僕を覗いている。

すべては幻影だ。どれだけ手を伸ばしても、そこにあるのは冷たい床の感触だけ。


僕は誓約書を破り捨てた。だが、その破片が散らばる床の上で、僕はただ、自分が何一つ守れなかったという事実に、打ちのめされ続けるしかなかった。


「会いたい」という言葉が、喉の奥で詰まって出口を探している。

「元気でいるか」と問いかける相手さえ失った今の僕には、この空っぽの部屋だけが唯一の居場所だ。


これが、僕の「永遠の不在」の始まりだった。

のーす、アース、モコ、ベル。君たちがかつて僕の足元で眠っていたあの廊下も、僕の愛したあの温もりも、すべては名義という檻の中に消えてしまった。僕は、彼らを失ったのではない。彼らを愛した自分自身の命の半分を、あそこに置いてきてしまったのだ。


明日の朝、目が覚めたとき、僕のスマホに届くはずの「彼らの動画」はもうない。

その清々しさと、どうしようもない絶望が、僕の胸を静かに、けれど確実に削り取っていく。僕はただ、暗闇の中で四つの名前を呼び続けた。届くことのない約束を、この胸に抱きしめたまま。

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