第9話:間に合うか?
――――――――――王都パリスに向けて逆進撃。偽聖女ニーナ視点。
「ふんふーん。絶好調だ!」
いや、何が絶好調かって、うまいことムーブを掴んだから。
『……というわけで、エセルバート第一王子殿下旗下にあるシアノイツ軍が、義によって我らに助力してくれることになった!』
『『『『『『『『うおおおおおおおおおおお!』』』』』』』』
いや、ふつーに考えれば敵国だったシアノイツ軍が味方になったって、ちょっとわけわからんじゃん?
果たして信用できるのかとゆー問題があるし。
ところがこっちが戦争の間にドロボーネコみたいに攻め込んできたゾリバス帝国は卑怯で許せん、とゆー理屈が人々にヒットした。
助太刀してくれるシアノイツに感謝、みたいな。
おまけにエセルバート殿下が演説上手で、帝国がどんなに異質で怖い国かってことを話したんだよ。
いっぺんにシアノイツは味方だ、帝国やっつけろって雰囲気になった。
エセルバート殿下おっとこまえなだけじゃなくてメッチャ有能。
副官のブレナンさんが王にしたいって言うだけあるわ。
ちゃんとしてる王子ってきゅんと来るわ。
シアノイツ軍が受け入れられるなら、特に難しいことないの。
リサルチアとシアノイツの連合軍ならば、攻め込んできたゾリバス帝国軍以上の兵力になるから。
今帝国軍は王都パリスを囲んでるって情報があるんで、連合軍が囲みの外から攻めかかれば王都守備隊と挟撃も可能。
勝利は我にあり!
総司令官のデレクのおっちゃんも満足げ。
男前殿下が話しかけてくる。
「勝てそうな気配ではないか」
「まあねえ。王都陥落に間に合いさえすれば」
「……勝てそうな時ほど注意だぞ。オレもリサルチアに勝てる気でいたんだ。リサルチア軍の撤退時に呼吸を合わせて追撃しさえすれば、と」
「ごめんね、騙しちゃって」
「いや、聖女ニーナの魔法はすごい」
「えへへー」
「どうしてなのだ? 聖女の定義とは、聖属性の莫大な魔力を持った女性のことなのだろう? しかしニーナはどんな魔法も得手不得手なく使いこなせるではないか」
初めて会った日も思ったけど、男前殿下は聖女とゆーものに興味があるみたい。
つまりあたしに興味があるってことか。
ドキドキするわ。
「あたしは全属性持ちなんだ」
「全属性持ち? 聞いたことないぞ、そんなの」
「リサルチアでも田舎町の生まれでさ。元々回復魔法を使えたから、ケガした人を治してお小遣いもらうってことをしてたの」
「ふむ、聖女らしいエピソードだな」
「そお? その内教えてもらいさえすればどんな魔法でも使えるっぽいことに気付いて。王都に行って宮廷魔道士に調べてもらったら全属性持ちだってことが判明して。筆頭聖女だ王太子殿下と婚約だ婚約破棄だってことになったの」
「ダイジェストで説明ありがとう」
アハハ。
楽しいなー。
「ニーナは神に愛されているんだろうな」
「かもね。神様もうまく使えって意味であたしに力をくれたと思うんだ。とゆーことで神様の意向に反することはしたくなくてさ」
「それでオレとシアノイツ軍も救ってくれたのか」
「リサルチアの都合もあったけどね。皆さんムダ死にはしたくないだろうし、ウィンウィンのケースだったじゃん?」
「感謝する」
感謝されちゃったぜ。
あたしみたいな平民に素直に頭を下げられる男前殿下は偉いなあ。
元婚約者の顔だけ殿下とは大違い。
「……ゾリバス軍にも救うという理屈で臨むのか?」
「帝国のやり方はともかく、人とゆーのはそんな性根変わらんものだと思うよ。帝国軍を丸々寝返らせちゃえば、もう帝国に他所を攻めようなんて兵力はないわけじゃん? 平和になるよ」
「ニーナはそんなことを考えていたのか」
「デレクのおっちゃんもあたしの魔法があれば可能と考えてるっぽいね」
実際はどうかわからんけど。
でも帝国軍は逃げ帰ると指揮官の人は処断されちゃうらしい。
勝敗なんて兵家の常なんだから許してやりゃいいのにな。
あたしは人を大事にしない考え方は好きじゃない。
ともかく帝国軍は成果を欲しがる。
とゆーことは何が何でも王都パリスを落とそうとするはず。
連合軍が間に合うかはかなり微妙なんじゃないの?
「ところで聖女ニーナは何をしているんだ?」
「これは大地を祝福しているんだよ。こーすると農作物は豊作で、実りも早くなるんだ」
「ほう? 聖女とはそんなこともできるのか」
「聖属性魔力を持ってりゃ使えるようになる魔法だね。シアノイツ軍もいるし義勇軍も増えそうだし、行く先々で祝福しとかないと兵糧が足んなくなっちゃう」
「うむ、道理だな」
多分大司教のじっちゃんもわかってる。
帝国軍に気付かれないように聖女達を総動員して、王都近辺の集落の農業生産量を上げようとしてるんじゃないかな。
「さて、次の畑に行こっと。殿下も行く?」
「うむ、お供しよう」
やったぜデートだ!
◇
――――――――――一方その頃、リサルチアの王宮にて。王太子アラスター視点。
ごおん、ごおんとゾリバス帝国軍の攻城兵器の音がする。
睡眠不足にもすっかり慣らされてしまった。
が、ゾリバスもさる者。
力押し、地下掘削、魔道兵器による空爆と、あの手この手で攻めてくる。
今のところ騎士と憲兵、宮廷魔道士部隊、並びに市民の志願兵により何とか撃退しているが……。
「もうダメだ。降伏しよう」
「陛下、何を仰せられますか!」
王都を包囲するゾリバス軍のひっきりなしの攻撃に、父陛下が弱気になっている。
……王家の求心力が落ちているのだ。
筆頭聖女ニーナをクビにしたのがそもそもの間違いで、シアノイツとゾリバスによる侵略の原因となったという論が急浮上しているから。
唯一の世界基準聖女ニーナの存在が改めて浮き彫りになった形になった。
世界基準聖女でかつ全属性の魔法を使えるニーナは、戦力としても突出しているという。
ゾリバスの宣戦布告を受けて、慌てて偽聖女ニーナを招集しようとした。
しかしニーナは対シアノイツ戦に従軍しているという。
そんなことも把握していないのかと、王家はまた批判の対象になった。
「我がリサルチアの誇る将軍デレクは必ず間に合います。気を落としてはなりません!」
「う、うむ……」
もっとも私はニーナを戦力として見たことなんかない。
あの陽気で無礼で頭の回る少女は、人懐こくて脅威を感じさせないからだ。
擬態だったのか?
私がニーナの真価を見極められなかったのか?
最近私が『バカ王子』と呼ばれていることは知っている。
しかし父陛下が意気消沈してしまっている今、私が鼓舞せねばどうするというのだ!
「しかしもう食料がないのだろう?」
「三ヶ月は持ちます!」
ウソだ。
切り詰めても一ヶ月が限度。
たとえ援軍が間に合っても戦いが長引けば王都は飢え、悲惨なことになる。
王都を守る騎士や憲兵は、既に王家の指揮下にない。
現場指揮官の命令で場当たり的に動いているだけだ。
それでも彼らの奮戦は大したものだが。
カトリーヌが掌握している聖女教会は私の言うことを聞いてくれる。
しかしそもそも戦力ではないしな?
せいぜいヒーラーとして駆け回っているだけだ。
ニーナやテオドール大司教がいた頃の勢威は既にない。
「あなたはリサルチアの王なのですぞ! 正義は必ず勝ちます! 盗人のように攻め寄せてきたゾリバス帝国などに神は味方しません!」
「う、うむ……」
信じていない神に縋ってしまう自分が嫌になる。
何を間違ってこうなったのだろう?
いや、私まで折れてはならぬ。
たとえ敗戦の憂き目を見るとしても、リサルチアの王族らしい最期を……。




