第8話:共闘する!
――――――――――シアノイツ軍を降伏させて。偽聖女ニーナ視点。
とりあえず作戦はうまくいったね。
首尾よくシアノイツ軍を降参させて武装解除させた。
めでたし!
進み出てきた司令官と副官らしき人を尋問する。
あれっ? エセルバート殿下って若いのな?
あたしやアラスター殿下と年齢変わらんように見える。
「シアノイツ軍総司令官、エセルバート第一王子殿下で間違いないですか?」
「間違いない。こちらはオレの副官を務めていた将軍ブレナン・パーキンズだ。言えた義理ではないが、部下達には寛大な処置を望む」
「ひょー、殿下おっとこまえ! 眉毛が凛々しい!」
「ニーナちゃん、男は顔じゃないって知ってるだろ?」
「アラスター殿下が顔だけ王子だって?」
「そんなこと言ってないよ!」
アハハと笑ってたら、エセルバート男前殿下が不思議そうな顔になった。
シアノイツ人にはリサルチアジョークが通じないのかな?
あ、自己紹介してなかったわ。
「小官はリサルチア軍司令官の中将デレクです」
「あたしはヒーラーとして従軍している偽聖女ニーナだよ」
「偽? 聖女ニーナといえば、当代一の聖属性魔力の持ち主で、アラスター王太子殿下の婚約者だという?」
「過去形だね。婚約者と聖女をクビになっちゃったの。今は偽聖女を名乗ってるんだ」
「えっ?」
「それで今回の戦争にも従軍してもらってるんですよ。……正直王都に残ってる聖女どもが従軍に耐えられると思えなくてですね」
「あれ? 聖女教会に従軍要請は出したんでしょ?」
「一応ね。まあ聖女教会も大司教猊下とニーナちゃんが抜けてガタガタだろう? 要請に応じてもらえるとは思ってなかったな」
「そーかー」
聖女教会も信用自体がなくなっちゃってるんだな。
人数が減ってるし、今後やっていけるのかしらん?
偽聖女教会が吸収しちゃうぞ?
いや、ゾリバス帝国に攻められてリサルチア王国自体がなくなっちゃうかもしれないんだった。
あれ、結構ぶっちゃけてるのに、男前殿下ったら首かしげてるぞ?
副官の何とかさんも。
何で?
「……何か咎があって婚約破棄されたのか? クビなのに何故従軍している?」
「あたしの事情に突っ込むのかー。アラスター王太子殿下はカトリーヌちゃんっていう公爵令嬢が好きみたいで。あたしは邪魔者だったんだよ」
「現在は偽聖女扱いされてますが、俺はニーナちゃん以上のヒーラーを知りませんのでね。ムリを言って従軍してもらったんですよ」
「偽聖女扱いってゆーか、自分でそう名乗ってるんだぞ? そんでべつにムリでもないよ」
「……よくわからんが、聖女ニーナは今の境遇に満足してるんだな?」
「満足満足。王太子殿下から解放されてとにかく満足!」
「ひどい」
ハハッ、あれ、デレクのおっちゃん笑ってないじゃん。
今のは笑いどころなのに。
「ニーナちゃんがクビになったのは、もう何ヶ月も前の話なんですよ。我が国を調査されてるはずの殿下が御存じないのは何故なんですかね?」
「そーだ、あたしも疑問があるわ。国王夫妻が外遊中の時じゃなくて、今攻めてくるのは何でなん?」
もっとも戦争するかしないかを決めるのは司令官の仕事じゃないかもしれないな。
男前殿下は何と答えるだろ。
苦々しげに呟くように言う。
「……オレは第一王子で唯一の正妃の子ではあるが、母は既に亡くなっているから」
「「ははあ」」
つまり次期王位を狙う王子が他にいて、そっちが後ろ盾もしっかりしてるってことなのか。
だから総司令官でありながら情報が制限されていて、しかも不利な状況で戦争して死んでこいってわけだな?
男前殿下可哀そう。
「ブレナン殿もまた同じ見解ですか?」
「うむ。それがしはエセルバート殿下を王にしたかった。最も優秀な王子であるから。リサルチア戦に勝利することができれば、エセルバート殿下を認めさせることができたのだが」
天を仰ぐブレナンさん。
名前覚えた。
「それがしの力が足りず、殿下を王にできなかったのが無念だ」
「そー決めつけちゃうのは早計だと思うけどね」
「「えっ?」」
「ところでシアノイツの王子様事情はどうなってるん? ブレナンさんによるとエセルバート殿下が一番いい男みたいだけど」
「ヴァーノン第二王子、ギルバート第三王子もまた有力だって聞くね。主に後ろ盾がしっかりしているって意味で、個人の能力についてじゃないけど。末子のユリエル第四王子も溺愛されてるって話だし」
「ふーん。どこの国にもバカみたいな話ってあるんだなあ」
「ニーナちゃんどう思う?」
「あたしはお買い得だと思うけど」
「決まりだな」
デレクのおっちゃんも男前殿下を気に入ったみたい。
口説き落とそう。
いい男を口説くってドキドキするなあ。
「リサルチア遠征で大功を挙げて、少なくとも将兵の支持くらいは得ておかないと、殿下は将来いい夢見られないってことなんでしょ?」
「そういうことだ。現実はこうして捕虜になっているわけだが」
「諦めるのは早いですよ」
「ふむ?」
「あたし達も困ってるの。知ってるでしょ?」
「ゾリバスに侵攻されている件か?」
「そうそう。リサルチアにとってはこんな局地戦で殿下を捕虜にしたって、何の旨みもないわけよ」
「エセルバート殿下に御協力いただきたく」
じろっと見てくる男前殿下。
「……我が軍をもってゾリバス軍を追い払うのを手伝えと」
「そゆこと。そーすりゃ殿下はリサルチアの救国の英雄。リサルチアの支持は欲しくない?」
「殿下凱旋の際は、俺がリサルチア軍を率いてお供してもいいですよ」
「あっ、あたしもついてっていい?」
勝手に話を進めてたけど、ブレナンさんも賛成してくれるみたい。
「殿下。これは大変にいい話だと思いますぞ。正直それがしは乗ってみたいです」
「ゾリバスって結構ヤバげな国じゃん? 遮二無二来そうで人死にが多くなりそうなんだ。兵力を揃えて、戦うのがムダだって思わせたいんだよね」
「あの異常なほど信賞必罰の国の軍の指揮官は、負けて国に帰れば処刑ですからね。人間に対して優しくない。俺は嫌いなんです。エセルバート殿下はどう思われますか?」
「……ゾリバスは異質な帝国だ。危険だということは我が軍の将達にも話した。ちょっと受け入れがたい。あんな国と隣国になるくらいなら、まだ価値観の似ているリサルチアと共闘したいと思っていた」
「やたっ! 殿下おっとこまえー!」
「男前関係ないだろ」
とにかく共闘は決まったってばよ。
今日の敵は明日味方って熱いなー。
あたしこーゆーの大好き。
「ところで我が軍を谷底に引き込んだ、あの霧は何だ?」
「あ、霧が怪しいってバレちゃった? 幻霧の魔法だよ」
「魔法だと? あんな大規模な?」
「まー聖女時代はあんな魔法は使わなかったけど、今偽聖女だからいいかなって」
「あの霧は特に条件は関係なく使えるのか?」
「使えるよ。今日は谷とゆー好条件に助けてもらって、効果が大きく出たってことはあったけど」
「……ほぼ損害を出さずにゾリバス軍を一網打尽にできるのではないか?」
「地形次第ですな」
損害なしでゾリバス軍を降参させられるかもしれない、か。
あたしの魔法次第となるとやる気になるなー。
人死にが少なくなるような魔法の使い方なら、あたしに力を授けてくれた神様もきっと喜ぶだろ。
頑張っちゃうぞ。
「お腹減っちゃったよ。谷底の兵隊さん解放して御飯にしよー」
ハハッ、ようやく男前殿下が笑顔になったわ。
素敵な王子だなー。
ビビッと来るわ。
あたしを婚約破棄した誰かさんとは大違い。




