論理の欠片と一つの真相
お姉ちゃんに見せてもらったメモは次の通りだ。
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○月代 華凛
2:00~15 食堂で海藤、真田と会話
退室時、田辺と会う
2:15~20 遊戯室でゲーム
その後、華澄が海藤の落とし物を届けるため退室
2:20~30 引き続き遊戯室でゲーム
途中、溝口が来てゲーム鑑賞
2:30~33 華澄、海藤と合流し、引き続きゲーム
2:33~38 女子トイレへ
代わりに華澄がゲームをする
行きはドアが開いていたので薄暗い食堂を見たが、帰りはドアが閉まっていた
行き帰り共に、厨房で片付け、掃除をする下山、溝口、真田を見る
行き帰り共に遊戯室でダーツをする海藤を見る
2:40~52 華澄、海藤と共に前列に座り、映像を見る
途中で真田の声を聞く
2:52~3:00 カードの問題を解く
○月代 華澄
2:00~15 食堂で海藤、真田と会話
退室時、田辺と会う
2:15~20 遊戯室でゲーム鑑賞
海藤と溝口が会話しているのを見る
榊が東から西に通り過ぎるのを見る
2:20~30 海藤の落とし物に気づき書斎へ
海藤と会い、少し会話
退室時、廊下で溝口、真田と会う
海藤と共に遊戯室へ
2:30~33 遊戯室で華凛と合流し再びゲーム鑑賞
2:33~38 華凛に代わりゲームをする
2:38~40 華凛が戻って来たが、そのままゲームを続行
2:40~52 華凛、海藤と共に前列の席に座り、映像を見る
2:52~3:00 カード探し
○海藤 新
2:00~15 食堂で月代姉妹、真田と会話
食堂から出る時に田辺とすれ違う
2:15~20 遊戯室入り口付近で溝口、榊と会話
途中榊が西側廊下へ
その後、書斎へ
2:20~30 華澄が落とし物を届けに書斎に来る
その後、華澄と少し会話
退室時、廊下で溝口、真田と会う
華澄と共に遊戯室へ
2:30~40 遊戯室でダーツ
華凛と合流
2:40~52 月代姉妹と共に前列の席に座り、映像を見る
2:52~3:00 カード探し
○真田 真姫
2:00~15 食堂で月代姉妹、海藤と会話
2:15~25 食堂で田辺と会話
途中、榊、溝口の順番で合流
2:25~30 奥田の様子を見に休憩室に行く
退室時、海藤、溝口、華澄と会う
2:30~40 溝口と共に厨房に向かう
途中、食堂で田辺がイベントの準備をしているのを見る
厨房に着いた後は二人で下山を手伝う
2:40~52 死体に扮する田辺に驚き声をあげる
初めは溝口と共に後列の席に座り、映像を見る
途中、溝口が席を立ち、後から下山がその席に座るのを見る
2:52~3:00 カード探し
書斎に行って榊の死体を発見
○田辺 太一
2:00~5 トイレ
2:05~15 厨房で下山と会話
2:15~25 食堂で真田と会話
途中、榊、溝口の順番で合流
2:25~40 そのまま食堂でイベントの準備
食堂と厨房の間のドアは閉めきったが、廊下側のドアは閉め忘れた
35分辺りでドアが開いている事に気づき閉める。
2:40~3:00 死体に扮する
悲鳴が聞こえ、食堂を最後に出る時に柱時計の鐘の音を聞く
○溝口 剛
2:00~15 書斎で榊と会話
退室時、海藤と会う
2:15~20 遊戯室入り口付近で海藤、榊と会話
2:20~25 食堂で田辺、真田、榊と会話
2:25~30 遊戯室でゲーム鑑賞
廊下で海藤、華澄、真田に会う
2:30~40 真田と共に厨房に向かう
途中、食堂で田辺がイベントの準備をしているのを見る
厨房に着いた後は二人で下山を手伝う
2:40~52 初め真田と共に後列の席に座り、映像を見る
途中席を立って映像を見る
映像の終わり際、自分が座っていた後列の席に下山が座るのを見る
映像が終わった後カーテンを開ける
2:52~3:00 カード探しの説明と問題の答え合わせ
○下山 多恵
2:00~5 食堂で食器の後片付け
2:05~15 厨房で田辺と会話
2:15~30 厨房で後片付け
2:30~40 真田と溝口に後片付けを手伝ってもらう
厨房の掃除を始める際、換気のためドアと窓を開ける
2:40~51 後片付け、掃除を終え、廊下側入り口から食堂へ
2:51~52 後列の席に座り映像を見る
2:52~3:00 カード探しのため遊戯室へ
○奥田 啓介
ずっと休憩室で寝ていた
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以上である。
テーブルに肘をつき、無意識に両手の指の先を会わせ、口許に寄せていた。私はどうも考える時にこのポーズをとる癖がある。
一つ一つのピースが正しい位置にはまって行き、一幅の絵が完成していく。
――ああ、そういう事ね。
論理は帰結した。
警察が来る前に済ませてしまった方が良いだろう。
私が声を発しようとした瞬間
「あっ!そういえばさ、今回のイベントの犯人って結局誰だったのかな?」
と海藤さんが話し出した。
「ああ、それは......」
「被害者の息子であるBさんですよね?」
田辺さんが答えようとするのを遮って私が答える。
「えっ、どうして......」
田辺さんが驚いた顔でそう言うのを、さらに途中で遮る。
「先ず、”Dさんは女性である”というヒントから、Dさんが行ったトイレというのは女子トイレのこと。つまり東側廊下にいるBさんに、女子トイレから出るDさんの姿を目撃出来たはずがありません。だって廊下の窓から見えるのは男子トイレの方だけなんですから」
私はテーブルを離れ、先程まで座っていた席の方に戻る。皆が一斉に私に注目する。
「ここからは私の想像になりますが、被害者は胸部をナイフで刺され、血が出ていた。ですから返り血の問題がある訳ですが、目撃証言を検証しても容疑者がB~Dにしか絞れなかったという事は、血がついた人を目撃した人が誰もいないという事になるので、犯人のBさんは何らかの形で血を防いだ事になる訳です」
田辺さんが息を呑む。
「では何で防いだのか?それが恐らく食堂に隠されていたもう一つのヒントで、私はレインコートや手袋だと思いました。科学捜査を出来る限り逃れようと思ったらマスクも使ったかもしれませんね。隠してある場所もそのヒントに含まれるとしたら、物置じゃないかな」
私はさらに続ける。
「そして、それをどうやって処理したのか?これが最後のヒントで、恐らくあのパーティーは午後3時前に行われたとか、パーティーのすぐ後に焼却炉のタイマーが設定されていたとか、そういう事かなと思うんですが。まあ、たぶん前者かな。というのも、あのパーティーが何時頃行われたものなのか言及されていませんでしたから。そう考えると、カーテンを閉めて部屋を暗くしてたのは、ミスリードだったとも考えられます」
田辺さんが目を伏せる。
「具体的に犯行の流れを説明すると――物置に隠しておいた、恐らく色付きのポリ袋に入ったレインコート一式を着用し、談話室にいるCさん位しか人がいない南側廊下を経由して食堂に向かおうとしたところ、Dさんが女子トイレから出て来るのが見えた。ですがDさんがBさんを目撃していたという証言がないという事は、この時Bさんは南東隅の陰か、あるいは玄関前廊下の陰に咄嗟に身を隠したという事でしょうね。後述する理由から、ここでは前者とします。その日は激しい雷雨だったので、レインコート姿を見られても、今から外へ様子を見に行くつもりだったとか言えば一応誤魔化せはするものの、極力見られたくなかったのではないかと思います」
ここで私は一旦間を置いてから先を続ける。
「少しして、Bさんは南西隅に向かって、陰から西側廊下の様子を伺い、誰もいない事を確認したあと、食堂へと急いだ。しかしこの時、Dさんは厨房に様子を見に行っていた。これだけ出来る限りリスクを回避しようとするBさんの事ですから、それが分かっていたらDさんと鉢合わせするリスクがある事を考え、犯行を躊躇したかもしれません。しかしそうしなかったのは、玄関前廊下の陰から様子を見ていたという訳ではなかったからです。というのも、玄関前の廊下は正面突き当たりに窓がありますから、西側廊下の窓にDさんがいつまでも姿を見せなければ、厨房に行ったという事はすぐに分かるからです」
お姉ちゃん以外、全員驚いた表情をしている。
「そして食堂に着いてAさんを殺害。凶器はAさんが儀式の為に用意していたナイフです。その後は元々レインコート一式を入れていた色つきのポリ袋に、使用済みのレインコート等を入れ、雷雨がうるさく状況が掴めにくいものの細心の注意を払いながら食堂を出て、南側廊下を経由して東側廊下へ。最悪ポリ袋を持った状態で見つかっても、玄関前の廊下辺りであれば、外に様子を見に行った時に拾ったゴミが入ってるとでも言ってその場をしのげる。しのげさえすれば証拠は焼却炉で燃えて、仮に後でBさんに疑いがかかったとしても証拠不十分というわけです。ですから誰かが仮に、Bさんがダストシュートの方に行ったのを窓越しから目撃したとしても致命的な問題ではなかったという事ですね」
私はお腹の辺りで腕を組んで先を続ける。
「また、食堂から玄関前廊下までは30m程度なので、直角のカーブが有る事を考えても、走れば10秒もかかりませんし、ここの絨毯は音がしにくく、パーティー当日は激しい雷雨だったのだから、走っている音も聞こえない。窓は身を屈めても良いけど、雷雨で見えづらくなっているし、通り過ぎる時間も極めて短い。ですから、そのまま走って行った方がかえって安全でしょう。こんな感じでどうですか?」
田辺さんに向かって問いかける。
「せ、正解です...。因みに儀式に見立てた動機は?」
少し動揺しつつも田辺さんが尋ねてきた。
「単に凶器の都合上そうなった、とも言えない事はないんですけど、犯人であるBさんはAさんの儀式の事を知っていた訳ですから、恨みを晴らすだけだったら、他の参加者の方に儀式の事を暴露すれば良いだけのはずです。また、殺したいほど憎かったのだとしても、Aさんは儀式のため、参加者を皆殺しにしようとしていた訳ですから、目撃者を作りつつ、正当防衛を主張すれば良かった。ですから私は、儀式の計画を隠す事で、Aさんの名誉を守りたかった為に、狂信者の犯行に見せかけようとしたのだと思います。そうする事でAさんの息子であるBさん自身の名誉を守りたかったのか、Aさんに対する愛憎の様な感情だったのかは分かりませんけど、出来る限りリスクを回避しようとしている事を考えると、この場合は多分前者かな。」
「その通りです...」
田辺さんが俯きながら悔しそうに言った。
「...ホントすげぇな嬢ちゃん......あんた一体何者だ?」
溝口さんは若干引きぎみだ。
「凄い!本当に名探偵みたいだったよ華凛ちゃん!そっかぁ、やっぱりBさんが犯人で良かったのかぁ……」
海藤さんが感動していた。
「それでは、もう一つの真相についても、お話しましょうか?」
「もう一つの真相....って?」
私の問いかけに対して、逆に多恵さんが問いかける。
「ふふ、もちろん、今回の絞殺事件の犯人についてです」
○キャー華凛チャーーーン!!!!
......という事で、全ての手がかりが出揃いました!
もちろん華凛ちゃん、華澄ちゃんは犯人ではなく、よって証言に嘘はないとすると――
犯人は誰か?どうやったのか?
皆さんも是非推理してみて下さいね♪
次回から解決編です!○




