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2/10

緑の回廊

昨日の朝から今日の早朝まで、断続的に激しく降り続いていた雨に路面は黒く輝き、新緑は鮮やかにきらめいている。窓を開ければ緑の香りが車中に広がりそうだ。


私は三半規管が弱いので、バスの中でやれる事といえば、音楽を聴く事か、窓の景色をのんびり眺める事位である。ああ、こういう時間にゲームが出来たら、どんなに良かったろう。


お姉ちゃんはといえば、羨ましい事に全く乗り物酔いしないので、隣で楽しそうに法医学の本を読んでいる。うん、楽しそうで良かった。


それにしても比較的狭いマイクロバスの中が伽藍としている。私達以外には、バスに乗る前に見た女性が私達から離れて座っている位で、あとは奥田さんが運転席に座っているだけだった。


他の人は先に行ってるのかな?

私としては、ゆったりバスに乗れて良かったけど。



だいぶ山の中に入って来た。


ふと、女性の方へ目をやると、さっきまでスマホをいじっていたみたいだったけど、いつの間にか寝てしまったようだ。


髪型はセミショートで、背は私と同じ位。服装はポリエステルの白いスウェットに、綿の黒いタイトスカートという感じで、顔は可愛い方だと思うし、さっきの会話の雰囲気からも、表向きは人当たりが良くて明るい印象なので、多分男性にモテるタイプなんじゃないかなと思った。


奥田さんは、髪型が分け目の無いショートで、身長はお姉ちゃんと同じ位かちょっと低め。服装はデニム生地(綿)の青いワークシャツに、ナイロンのベージュのチノパン。真面目で良い人っぽいけど、とても気弱そうで、人に何か頼まれると断れないタイプな気がする。



緑一色の森の景色が延々と続く――と思っていたら突如、外壁がクリーム色で青い屋根の建物が見え始めて来た。


あれが会場かな。午前10時にバスに乗って、今12時過ぎだから2時間ちょっとか。周りに民家の気配が全く無いので、だいぶ人里離れた所にあるのかもしれない。


まさかイベントの為にわざわざ建てたとも思えないし、このお屋敷は一体どういう目的で建てられたものなんだろう?



それなりの広さの駐車場にマイクロバスが停車した。


「皆さん、お疲れ様です!目的地に到着しました!」


奥田さんに促され、私達はバスを降りた。


外に出ると新緑の香りが辺りに漂い、森林浴をしている気分になる。


固くなった体を解すため、思いっきり伸びをしつつ周りを見渡すと、他にも何台か車が駐車してあるのが見えた。スタッフの人の分もあるだろうけど、やっぱり他にも参加者がいるっぽい。


「気づいたら山の中でびっくりしちゃった!」


「ふふ、お姉ちゃんらしいね」


お姉ちゃんだったら、こっそり海外に連れていっても同じ事を言ってるような気がする。



奥田さんに案内され、私達は洋館の玄関扉の前に到着した。高さは優に3m以上、幅は4m近くあるのではないかと思われる、立派な茶色い木製の扉だった。


奥田さんが扉を開けると、10m位の長さの廊下が前方に続いていた。正面突き当たりには固定窓があり、中庭らしきものが見えた。廊下の向かって右手には扉が見える。私が館の主なら、応接室か談話室辺りにする所だろう。


床には、えんじ色の絨毯が敷き詰めてあり、左右の壁紙は深めの紺色で統一されている。全体的に暗い感じがするが、その分余計に中庭の景色が際立って見える感じがするから、その辺りは設計者の計算があったのかもしれない。


固定窓の側まで近づくと、洋風の見事な中庭が目の前に広がった。手入れ大変だっただろうな。


中庭を囲む形で、こちらと同じ様な固定窓が左右前方にもあって、向こうの廊下らしきものがうっすらと見えている。


「おっ!ご苦労様!」


右斜め後ろから、ドアが開く音がしたと思ったら、突然、男の人の声が聞こえた。


「田辺先輩もお疲れ様です」


田辺さんと呼ばれた男性の事が苦手という程ではなさそうだが、何処かやりづらそうな雰囲気が奥田さんから感じられる。


「飲み物でも飲んで少し休憩したら?談話室のクーラーボックスの中に飲み物がまだ残ってるから、飲んできなよ」


「はい、お言葉に甘えさせていただきます」


奥田さんが談話室に入った。やっぱり談話室だったんだ。


「真姫ちゃんもいらっしゃい!良く来てくれたね!」


と、爽やかなスポーツマン、或いはビジネスマンという雰囲気の田辺さんが、私達と一緒に来ていた女性に明るく声をかけた。


「今日は招待して下さって、ありがとうございます!雰囲気があって良い所ですね!私すっごく楽しみ!」


どうやら真姫さんと呼ばれたこの女性と田辺さんも知り合いらしい。しかも田辺さんと話をする時に、窓の前で明るいにも関わらず瞳孔が拡大し、手を相手に向けて髪を触る仕草もあった。


ああ、なるほどね。奥田さんがちょっと気の毒だった。


「そちらのお二人はもしかして....?」


「はい、クラスのお友達が急遽参加出来なくなってしまって、代わりに参加させていただく事になった月代です。姉妹で参加させていただきます」


田辺さんの問いにお姉ちゃんが答える。


「ああ、やっぱり!ご参加いただきありがとうございます!今日は楽しんでくださいね!」


声の明るさや言葉づかい、表情とは裏腹に、喉仏が急に少しだけ動くのが一瞬見えた。ストレスを感じた時の典型的な無意識下の体のサインだ。もしかしたら歓迎されてないのかもしれない。それは田辺さんが計画を大事にする完璧主義者で、イベントというのは田辺さんにとって支配欲を満たす場である事を意味する可能性がある....が、まあそんな事はどうでも良いか。


「ええ、ありがとうございます!楽しませていただきますね」


私は微笑みながら、そう返した。



「今から昼食までに、こちらの屋敷を案内させていただきます」


田辺さんに案内され、私、お姉ちゃん、真姫さんは屋敷を時計回りに見て回る事になった。


この屋敷は、どうやら中心部を中庭とした、ちょうど”回”の字の回廊作りになっているみたいだ。一辺の長さは30mといった所だろうか。


私達が出発した地点は、廊下を正方形に見なした時の下辺の中心部になる。そこから田辺さんに案内してもらった順に1~10まで番号を割り振る事にすると―――


挿絵(By みてみん)


下辺左側 1~2


1.男子トイレ:中は見てない。


2.女子トイレ:わざわざ確認する必要もなさそうだったが、私は一応確認した。ウォシュレット付きで、自動開閉式の清潔感溢れるトイレだった。和式もある。恐らく男子トイレも同じ様な感じだろう。腰窓が入り口正面に一ヶ所ある。



左辺 3~4


3.厨房:ちらっと中を見たが、セミロングの髪を後ろに束ね、歳は奥田さんや真姫さんと同じ位。綿のコックスーツとズボンを穿いていて、背は私より小柄。そして顔立ちが整っていて気が強そうな女性が忙しそうにしていた。


腰窓が入り口正面に二ヶ所、左に一ヶ所。設備はしっかり整っていて本格的だったが、他に特に気になる事はなかった。ただ、部屋が広いので、一人で作業してる女性が大変そうだなと思った。


物凄く美味しそうな匂いがしていて、いつまでもここにいたくなる程だったが、邪魔になるといけないのでその場を後にした。


4.食堂:ここの扉は両開きで、内側に開放されていた。


部屋の中は広く、入り口の正面から大きな腰窓が三ヶ所並んで見える。テーブルと椅子が幾つか置いてあって、雰囲気はなんとなく学食っぽい。


部屋の隅には、何かの置物に白いシーツが掛けられていた。



同じテーブルで男の人が二人寛いでいるのが見える。


一人はボサボサの髪で、歳は多分田辺さんよりも少し上という感じ。綿の青いチェックのTシャツに、デニム生地(綿)の紺のオーバーオールという服装で、背はお姉ちゃんと同じ位。全体的な雰囲気がナマケモノにそっくりだ。


もう一人は真ん中分けの髪に、ポリエステルの白いYシャツ&黒いスラックスという服装で、一見ナマケモノさんよりも年上に見えるけど、疲れた感じが無ければ、もしかしたら同じ位かもしれない。座っているので背は分からないが、体格的には小柄に見える。知的な雰囲気の会社員という印象を受けた。


ナマケモノさんがこちらに気づき、ニコニコしながら近付いて来る。


「こんにちは~!君達も参加者なのかな?実は僕もそうなんだ!名前は海藤新かいとう あらただよ。今日はよろしくね!」


なんか一方的に話が進んだ気がするけど、悪い人ではなさそうだな。何よりちょっと面白い。


「私は月代華凛です。こっちは姉の華澄。こちらこそよろしくお願いします」


と私は笑顔で答えた。


「私は真田真姫さなだ まきです。よろしくお願いします」


真姫さんが愛想良く、明るく挨拶する。


「うんうん!いやぁ、良い人ばかりで、なんか嬉しいなぁ!因みに僕は、向こうで座ってる榊潤一さかき じゅんいちくんと一緒に来たんだ!なんでも、サークルの後輩くん達が中心になってミステリー系のツアーをやるって事で、ミステリー好きの僕は居ても立ってもいられなくなっちゃったってわけ。好きとか言いながら、僕はミステリー研究会には所属してないんだけどね、あははは!」


大袈裟なジェスチャーをまじえながら、海藤さんがそう語ると、私達の横で会話を聞いていた田辺さんが


「ええ、OBになった後も色々相談に乗って下さったりして、榊先輩には色々お世話になったので...。今回のツアーが上手く行ったら、本格的に商売にしてみようという話はあるんですけど、先ずは先輩とご友人の方達に一緒に楽しんでいただけたらと思いまして――改めて言葉にすると少し照れ臭いのですが。ただ、私達だけで企画したり場所を用意するのは難しかったので、実はそういった関係に強いある方に相談して、他のスタッフの行動とかがヒントにならないよう、別々に指示を受けているという形になっているので、私達が中心というには、かなり人任せになってるのが申し訳ないなとは感じてます」


と、今回のイベントの経緯を説明した。


さっきの田辺さんの雰囲気だと、企画立案や人選は田辺さんが中心だと思っていたけど、今の話が本当なら、あれは榊さんの友人以外が参加する形になった事に対するストレスが表出しただけだったのかもしれない。


「いやいや、そんな申し訳なく思う事なんかないよ!良い後輩くんを持って、榊くんも喜んでるよ!

ねえ!榊くん?」


海藤さんが榊さんにそう問い掛けると、向こうの方に座っていた榊さんは、少し照れ臭そうに頭を掻いていた。


「ね?ちゃんと君の気持ち、榊くんに届いてるでしょ?」


「はい!ありがとうございます!」


海藤さんとの会話を終え、田辺さんによる屋敷の案内が再開した。



上辺 5~7


5.遊戯室:ここのドアも内側に開放されている。食堂程ではないが、それなりの広さで、入り口から見て右側にはダーツ、部屋の中央にはビリヤードがあり、入り口正面に見える二つの腰窓の近くにはボードゲーム用のテーブルもあった――が、なんと言っても取り分け私の注意を引いたのは、入り口から見て左側に並んで設置してあるアーケード筐体だ。最近のゲームも勿論触るけど、どちらかといえばレトロゲームが大好物な私にとっては、まるで楽園の様な場所だった。まさかこんな嬉しい誤算があったなんて。自由時間とかあったら絶対プレイしたい....


きっと思わず顔がにやけてしまっていたのだろう。お姉ちゃんがニコニコしながらこっちを見ていた。


うぅ、なんか恥ずかしい.......


6.休憩室:他の部屋に比べると狭いけど、ゆったりした印象を受ける。入り口正面には腰窓があり、その近くに安楽椅子や観葉植物が置かれている。


部屋の中央付近には、本皮製のソファが2台とガラス製のテーブルが一台置いてある。ここで寝ようと思ったら割りと気持ち良く寝れそうだ。


入り口付近両側には、クローゼットらしきものもある。ちらっと中を見てみたが何も掛かっていないし、何も入っていなかった。まあ当然と言えば当然かもしれないけど。


7.書斎:ここもドアが内側に開放されている。広さ的には遊戯室と同じ位に見えた。


入り口から向かって右側に腰窓があるが、電気をつけないと、やや薄暗いなと思った。まあ本を保存する為にも、窓からの明かりはこれ位で良いのかも。


腰窓付近にはテーブルと椅子がある。何人か座れそうだ。


それにしても結構本があるけど、誰が集めたものなんだろう?さっき田辺さんが言っていた「ある人」なんだろうか?


「お姉ちゃん、気になる本ある?」


私がそう聞くと、お姉ちゃんは首を振って


「ううん。ここにある本で興味ある分野のものは、もう全部読んでるし、他に興味を惹かれる本も無かったわ」


この部屋に入ってまだ間も無い気がするけど、もう全部確認してたんだ。相変わらず凄いな、お姉ちゃん。


「そっか。残念だったね」


「ふふ、そんな事ないよ。気にかけてくれてありがとう。華凛ちゃん」


お姉ちゃんが優しく微笑んだ。



右辺 8~9


8.物置:入り口の正面付近に、大きな腰窓が一つ見える。


床にはブルーシートが敷かれていて、水が入ったバケツが置いてある。雨漏りでもしてるのかな?


また、幾つかの箱や台車、業務用の大きなアルミラックが壁際に並んでいる。


「実はこの洋館の正面から見て右側の部分――つまり、今私達がいる部分が老朽化していまして、一応確認の為、皆さんにご覧いただいてはいるのですが、危険があるかもしれませんので、イベントの間はこちらの方は立ち入り禁止という形になります」


と、田辺さんが説明してくれた。


「そういえば、この建物って、どういう目的で建てられたものなんですか?」


さっきの食堂での田辺さんの話からすると、知らないかもしれないとは思いつつも、ずっと気になっていたので聞いてみた。


「ああ、私も気になっていたので、この場所を提供して下さった方にお話を聞いてみたんですが、どうも秘密の社交場という趣旨で建てられたみたいですね。裕福な方の考える事は良く分かりませんが、手放されて廃墟同然だったので、私達が手入れをするならという事で提供していただいたんです。私が相談した方はその時、その仲介人になって下さいました」


「そうだったんですね。それじゃあ、ここまで建物の状態を改善するのは凄く大変だったでしょうね」


「ええ、掃除や修繕など自分達で出来る範囲の事は自分達で出来るだけやって、どうしようもない部分は業者にやってもらったのですが、お金が無いのでこちらまでは手が回らなかったという次第でして....。実は隣の部屋で今、溝口剛みぞぐち たけしというスタッフ――私の同期でサークルのメンバーなのですが、彼が空いた時間に修繕作業等に取り組んでくれてます」


「そんな、言って下さったら、私も手伝いましたよ先輩!」


真姫さんが不満そうだ。


「はは、ありがとう真姫ちゃん」


「真田さんと田辺さんってお知り合いなんですか?」


なんとなく気になってた事を質問してみた。


「うん!私が高校生の頃、先輩に家庭教師をしてもらってた事があって、それを機に進路の事とか色々相談にのってもらったの。それで私、今凄く充実しててね。それも全部先輩のお陰だって感じてるんだ。だから先輩が困ってるなら、私が助けになって先輩に恩返しがしたいの。でも今回も先輩のお世話になってばかりな気がして....」


話が進むごとに、真姫さんの表情が落ち込んで行くのが分かった。


「全然そんな事ないよ真姫ちゃん!先ず参加してもらえた事自体が嬉しい事なんだよ。それに今回は、出来るだけ自分達のサークルだけでやりたいって思ってたから、そもそも大学も違うし、君に手伝ってもらうのはちょっと違うかなって......だからさ、君が力になりたいって思ってくれてるなら、後で今回のツアーの感想、聞かせてくれないかな?」


「....はい!分かりました先輩!」


うんうん。話が丸く収まったみたいで良かった。



次の部屋に向かう途中――位置的には9と10の部屋の間にちょっとしたスペースがあり、1.5m程の高さの階段を上がった先の壁に、なにやら細い人が一人位通れそうな四角い穴がぽっかり空いているのが見えた。


「あの穴はダストシュートですか?」


私と同様に気になってたのだろう。お姉ちゃんが田辺さんに質問した。


「はい、そうです。何せ人里離れた場所に建ってますから、処理出来るゴミは自分達で処理するという事だったんでしょうね。ちゃんと許可もとってありますし、実際便利なので、この建物を利用する時は、いつも使ってます」


「という事は、もしかしてここから直接焼却炉につながってるんですか?」


気になったので、今度は私が質問してみた。


「ええ、そうです。なので、ゴミを焼却する時は焼却炉の方の入り口が自動的に閉じられ、こちらに煙が流れないようになっています。外にある焼却炉の近くにスイッチがあるのですが、そちらを切るまでは、毎日午後3時に自動で入り口が閉まり、ゴミを焼却するというシステムになってます」


「それは便利ですね」


なかなか面白いシステムだなと思った。



9.予備室:この部屋のドアの、廊下を挟んだ向かい側には、中庭に出られる木製のドアがあった。


まだ用途が決まってないので、予備室と名付けられたというこの部屋の中は雨漏りが酷く、壁が一部崩れているような有り様だった。大きな腰窓が入り口の正面に2つ並んでいて、差し込む光が荒れ果てた部屋を照らしていた。


そんな中、お姉ちゃんよりも背が少し高めで、体格の良い男の人が黙々と作業していた。あの人がさっき田辺さんの言っていた溝口さんだろう。


髪型はスポーツ刈りで、服装はナイロンの白い半袖のポロシャツに、綿の青いジーンズ。パッと見はミステリー研究会の人というより、ラグビーとかのスポーツをやっていそうな雰囲気である。


因みに田辺さんの髪型は、髪先をツンツン立てたスパイキーヘアで、ポリエステルのグレーのYシャツに、ナイロンの紺のチノパンという服装。背は溝口さんと同じ位だろうか。溝口さんがラグビーなら、田辺さんはテニスでもやっていそうな感じである。


「剛、ご苦労様!」


田辺さんが溝口さんに声をかけた。


「おう!太一もお疲れさん!可愛い女の子ばっかで羨ましいな、おい!」


溝口さんが豪快に笑いながら田辺さんを弄る。


田辺さんの名前は、田辺太一たなべ たいちっていうのか。そういえば今まで聞くのを忘れてた。


「茶化すなよ!ところで進捗はどうだ?」


「見ての通りってとこだな。流石にこれ以上は業者に来てもらわねえと難しいかもな」


「そうか....。しばらくは立ち入り禁止という事にするしかないな」


「仕方ねえだろうな」


「頑張ってくれたのにすまないな。それにしても最初の頃に比べればかなり良くなったよ。手を尽くしてくれてありがとう」


「わはは!良いって事よ!じゃあ、俺はこれから食堂で配膳の手伝いに行って来るわ!」


「ああ、よろしく頼むよ。こっちも案内が終わり次第向かうから」


この部屋で他に気になる事も無かったので、私達は最後の部屋に向かう事にした。



下辺右側 10


10.談話室:入り口正面に腰窓が2つ並び、右手にはもう一つドアがある。あれは玄関から続く廊下で見たドアだろう。絵画が何点か飾ってある他、棚も置いてあるが何も飾られてはいない。


中央付近には、大理石のテーブルを挟んでソファが二台、入り口から見て右側と左側に置いてあり、左側には奥田さんが座って休んでいた。


テーブルの上にはクーラボックスと飲みかけのペットボトルが2本置かれていた。一本はさっきまで奥田さんが飲んでいたものだと分かる。


「あっ!皆さん!」


そう言って急いで立ち上がった瞬間に、奥田さんが立ち眩みを起こし倒れそうになった――が、咄嗟にお姉ちゃんが奥田さんを支えた。


「大丈夫ですか?」


お姉ちゃんが心配そうに尋ねると


「....あっ、はい、すみません。なんかさっきからちょっと頭がクラクラしていて.....」


見ると、奥田さんの顔が少し青白くなっていた。


「この日まで凄く気を張りつめてたし、疲れが出たのかもしれないな。気付かなくて、すまなかった啓一。あとは僕達に任せて休憩室で休んでてくれ。付き添おうか?」


田辺さんがそう言うと真姫さんが


「それなら、私が行きます!行こう奥田くん」


と申し出た。


「ありがとう。よろしく頼むよ真姫ちゃん」


田辺さんがそう言ったあと、真姫さんが奥田さんに付き添って部屋を出た。


「お騒がせしてすみません。これで案内は終わりますが、何か気になった事などはありましたか?」


「プライベートな質問になってしまって恐縮なのですが、奥田さんと真田さんって知り合いなんですか?」


なんとなく気になったので質問してみた。


「ああ、はい。確か昔から家が近所で同い年の幼馴染みだと聞いてます」


なるほど、そういう事だったのか。今までの流れが全部つながった気がした。


「ありがとうございました。因みに田辺さんはどんなミステリー小説が好きですか?」


「う~ん。それは難しい質問ですね....。叙述トリックが肝のものなんかが私は好きですかね」


「ああ、分かります!小説ならではって感じで良いですよね」


「ええ、最後の最後で全部持っていかれるみたいな驚きがありますよね」


ああ、そういうタイプの人ね。


「ふふ、今日のツアーの目玉、楽しみにしてますね!」


「はい、楽しみになさっていて下さい!」


応接室を出て、私達は食堂へ向かった。



ここまでの案内で分かった事を付け加えると、部屋のドアは全部内開きで、中庭のドアは外開き。色はそれぞれ玄関のドアの茶色を薄くした様な色になっていて、全体的に色調が暗めの建物の中では比較的目立つ印象があった。


廊下の窓はそれぞれの中間辺りにのみ存在し、四隅にはほんのり明るい照明がついている。


あと、上辺側の三部屋――遊戯室、休憩室、書斎――のみ、他より天井が低めになっていて、尚且つ天井は梁が剥き出しになっている。梁までの高さは大体3m位だろうか。


また、例えば左辺廊下から上辺、下辺廊下の状況を確認するには、上下隅からと窓越しからしか出来ない。従って誰がどの部屋に入ったかというのは、廊下の窓の前にある1.男子トイレや、近くにある4.食堂、6.休憩室が辛うじて見える位で、あとは同じ廊下に居ない限りは分からないようになっている。


それと、時計はトイレと右辺の部屋――物置、予備室――以外の全ての部屋にあり、食堂だけが柱時計で、他は全部壁掛け時計だった。私のスマホと時間を見比べてみたけど、全て正確だった。


因みにスマホの電波はギリギリ届いていた。この洋館に今のところ電話が置いていなかったのは、その為かもしれない。



さっ、まとめも終わった事だし、食事の時間はまだかな~♪



















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