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9話

男はゆっくりと私に近づく。距離を取ろうと後ろに下がるが、当然行き止まり。

彼はすぐに距離を詰め、私を逃さないようにした。まぁ、くることはわかっていたけどね。


「また、私を襲いにこられたのですか?」

「おいおい、前のお前はそんな知識なかっただろう?誰に教わった?馬小屋のジジィか?」


ネチネチと不快な笑みを浮かべる。確かにアンジュにはそう言った知識はほぼ皆無だ。今までだって、こいつに襲われていた時に自分が何をされそうになっていたのか理解していなかったのだから。


「はしたないですよお兄様。それに、私だってもう大人です。それなりの知識はもちわせています」

「おいおい強がんなよ。安心しろよ、今回はちゃんと俺が何をしているのか教えてやるからよ」

「……はぁ、お兄様も凝りませんね。今まで何度もそのようなことをして、結果どのようになったかお忘れですか?」


アンジュの記憶の中に、このクズ兄に犯されそうになったものがいくつもある。性的知識のないアンジュにとっては、兄が自分に何をしているのか理解していない。ただ、彼女が感じ取ったのは恐怖だった。目の前の男に恐怖を感じ、必死に抵抗をした。結果、その全てが未遂に終わった。普通なら力で勝てるはずがない。だけどアンジュには特別な力があった。


「お兄様に、被虐的なご趣味があったとは思いませんでした」


そのどれも、アンジュの特別な力。相手を弾く力によって、兄はいつもベットから落とされる。

もちろん兄も諦めなかったが、その後も何度も弾かれ続けて、結果萎えて部屋を出て行く。それの繰り返し。


「それに、いつも思っていましたが、妹に手を出すほど女に飢えているのですか?」


目の前の男があまりにも哀れで、思わず蔑み、嘲笑った。

癇に障ったのか、兄は勢いよく私の胸ぐらを掴んだ。これぐらいでキレるとか短気すぎでしょ。あぁ、昔私をリンチした女の彼氏思い出すな……。


「どうしたアンジュ。今回は随分と反抗的だな。昼間といい夕食といい今といい。なんだ、今更俺に逆らうつもりか?」


彼の怒りが目に見えてわかる。まぁそうだよな。妹とは言え、呪いを持った家畜以下の扱いをしているやつにこんなことを言われちゃね。

これは、明日が怖いなぁ……

でも、やめてやんないよ。あんたが、私に何をしたのか……忘れたわけじゃないでしょ。


押さえつけられた頭が痛かった。

冷たい水で体が冷えて寒かった。

酸素がなくて苦しかった。


———私はもう、お前が知ってるアンジュじゃないんだよ!


私は怒り狂う兄に、優しい微笑みを浮かべる。

どんなに虐げられても、この家の娘。姉や妹に劣らない容姿を持つアンジュの微笑みは、それは美しいものだ。


「そう言えばお兄様、つかぬ事をお聞きいたしますが」


王子の心さえ虜にする笑みを浮かべながら、私はこのクズに尋ねる。

アンジュだけが知っている、このクズの弱み。




「先月は、何人目の子供がお生まれになったのですか?」


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