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6話

父と王子は仕事の話を始めた。勿論、次期後継者である兄も同席してだった。

私や姉、弟と妹と母は、黙ってそのやりとりを見つめる。

基本的に話の内容は報告と対応だった。

この家の業務は領土の管理は勿論だが、龍族と王都の仲介役。だけど、正直言ってその二つをしっかりとやっているところをアンジュの記憶の中にはなかった。この家族は、アンジュ自身も呪いという欠点はあるが、家族それぞれにも人間的に欠点が一つは存在している。その欠点を、唯一アンジュだけが全員のを把握している。


(ある意味、弱みだからな。使い所によっては使えるよね)


正直このことを口にすれば脅しにはなるが、何をされるかはわからない。下手をすれば殺される可能性だってある。

自分の安全がしっかりと確保されている状態で、口にするべきだよね。


(ただ問題は……)


ちらりと、父の隣で人当たりの良さそうな顔で同席している兄の顔をみる。

嘘で塗り固めたような外ズラ笑顔は本当に気分が悪い。

私の頭を思いっきり桶に押し込んでいた人物とは到底思えないほどだった。


「今回も問題なさそうですね」


話が終わり、クルシュ様がそう口にした。長い長い報告はやっと終わったみたいだった。

ずっと立ち続けるのは疲れる。早く部屋に戻ってベッドにダイブしたい……。


「いつも通り、今日1日は泊まらせてもらうよ。我々は明日一番でここを立たせてもらう」

「はい。精一杯もてなさせて頂きます」


家族全員で頭を下げる。

ふと、視線を感じて顔をあげると、クルシュ様が私の方を見ていた。まるでエフェクトがかかっているかのように、周りがキラキラと輝いている。これが王子ってやつか……目が会うたびに輝いてるよ。しかし、これはまずい。若干一名の反感を買っただろう……。めんどくさいな……


「それでは、我々は部屋で休ませてもらうよ」


王子と護衛はメイドたちに案内されて部屋を出て行った。

少しだけ緊張の糸が切れそうになったが、それよりも先に私は胸ぐらを掴まれた。


「どういうつもりよ!!」


随分とお怒りのお姉様のお顔がドアップである。あーあ、ちゃんとしていれば綺麗なのに、人間って表情ひとつで印象って変わるよなぁ。

そういえば、ここにきてから何度か目にしているが、この、姉の体から出ている黒い靄は何だろう。

よくよく思い返せば、部屋で私の世話をしていたメイドたちからも出ていたな。

アンジュの記憶の中にも、その光景ははいくつもある。自分の周りにいる人たち。アンジュを嫌うものたちの体から溢れる黒い靄。どうにも見えているのは私、つまりアンジュだけみたいで、小さい頃にそれを口にすれば、嘘つきだのおかしいだの色々言われて、怒鳴られて、殴られて、エトセトラ……

本当に、アンジュがかわいそうだ。


「何よ、その生意気な目は! クルシュ様に気にかけてもらえてるからって、調子に乗るんじゃないわよ!」

「やめないか。まだ近くに王子がいるのだから」

「でもお父様!」


あまりにも理不尽だ。好意を向けている相手が自分じゃなくて他の子だからってこんなことされちゃたまったもんじゃない。むしろ、令嬢としての振る舞いをしっかりしたことを褒めて欲しいぐらいだ。


「どう、とはなんのことについてでしょうか?」


正直姉の言葉の意味は「王子に色目使うなんてどういうつもり」ということなのだろうが、あいにくアンジュは王子の好意には全く気づいていない。だから、姉の言っている意味をこの子は理解できない。


「私は、王子に不審がられないようにしっかりと令嬢としての振る舞いをしました。そして、その振る舞いはお母様とお姉様のおかげだと言いました」


別に二人を貶したわけではない。しっかりとたてた発言だった。できの悪い娘に呆れることなく、親身に教える母と姉。これほど好印象なことはないのだ。


「……それに関しては流石に文句はない」


父も咎めなかった。まぁいつも通りだったら怒鳴られていただろうけど。流石の父も、王子が好印象だったから罵倒することもできなかっただろう。現にちょっと悔しそうだし。


「それでアンジュ。先ほどのドレスの発言は事実か」


父の鋭い視線。まぁそうだよね。王子からの指摘は唯一そこだったのだから。そして、それに対して私は誰が用意したかは知らないと答えた。


「えぇ、事実です。正直、私にドレスを選ぶことはできないので、用意されたものを素直に着ました」


遠回しに、自分の立場はわかってると示す言葉だ。

呪いでひどく虐げられている自分が、王太子がきてるからって服を選べるわけもない。


「ドレスルームへの出入りができるのはお前ら3人だな」

「貴方!私たちを疑ってるの!」


疑うも何も、実際、母か姉、妹ぐらいしか準備はできない。メイドは3人の支度以外でドレスルームには入れないのだからまず無理だ。

父だってそれはわかっている。父は汚い部分が明るみになるのを恐れている。

彼自身が行なっていること、そして私のこと。だから、ちょっとのことでも王太子に悟られることは地獄に一歩近づいたということだ。


「今後は差をつけるな。それに、王太子に悟られるような行動もとるな。わかったな」


父は頭を抱えながら部屋を出て行き、その後に続いて兄と弟が出て、母と妹は一瞬こちらを睨んだ後にうっすらと黒い靄を出しながら出て行く。

そして最後……


「調子に乗るんじゃないわよ!」


頬がヒリヒリとする。

姉は私をぶって罵声を浴びせ、そのまま部屋を出て行く。

私の頬を叩いた時、とても黒く大きな靄が体から出てきた。まるで、今の彼女の怒りを目に見えるように形作るように。

天井を見上げる。誰かを苦しみ、絞りあげた金で豪華に飾られた天井を、私は奥歯を噛み締めながら見上げる。


「それはこっちのセリフよ」


誰もいない部屋の中で、私は小さな声でそう呟いた。


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