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第6話 とある休日の話(導入篇)

ある休日の話である。

昼食を終えたセイヤは正面に座るユアに向かって頼みごとをしたことから話は始まる。


「ユア、実はお願いがあるんだけど」

「わかった……シャワー浴びてくる……」


 セイヤの言葉を聞いてユアは席を立ち上ろうとする。

 しかしユアが立ち上がるよりも先にセイヤが尋ねた。


「どうして急にシャワーを?」


 セイヤの知る限り、休日のユアは朝にシャワーを浴びるのが習慣だ。そしてこの日もいつも通り朝にシャワーを浴びている。そもそも頼みごとをするというタイミングで何故シャワーを浴び始めるのかセイヤには理解できなかった。


セイヤが理由を問うとユアが頬を赤らめながら答える。


「初めては最高の思い出にしたいから……」

「初めて?」


 確かにセイヤがユアに頼みごとをすることは珍しい。こうして面と向かって頼み込むことは居候を始めてから初めての事であった。


 だからといってシャワーを浴びる必要があるだろうか。


「シャワーは後じゃダメ?」

「ダメ……セイヤには綺麗な私を見てほしい……」

「ユアは今でも十分きれいだよ?」


 同じ屋根の下に暮らすセイヤから見てもユアは可愛い。居候の身であることを忘れたならば、きっと恋心を抱いたに違いない。


 セイヤの言葉にユアが頬を赤らめる。


「嬉しい……でも初めては身体を清めないと……」

「別にそんな構えなくても大丈夫だよ」

「セイヤは臭いフェチ……?」


 小首を傾げる姿は小動物のように愛らしかった。


「別にそういう訳じゃないけど……」

「…………なら一緒に浴びる?」

「どうしてそうなった!?」


 頼みごと一つでここまで準備してくれる気持ちは嬉しかったが、セイヤのお願いはそれほど畏まるほどの物でもない。


「むしろシャワーは事後の方がいいと思うよ」

「セイヤは激しいことを所望……?」

「まあ、言い方によってはそうかもしれないかな」

「じゃあ二回浴びる……一緒に入ろ……?」


 テーブルの上に置かれたセイヤの手をそっと取ると、ユアは大浴場の方へ向かおうとする。


「まずは頼みごとの内容を聞いてほしいんだけど……」

「大丈夫……わかっているから……」


 セイヤが居候を始めて一ヶ月以上が経過している。もしかすると互いの考えが口にしなくてもある程度はわかるのかもしれない。


 セイヤがそんなことを考える。


「じゃあいいの?」

「問題ない……むしろその気になってくれて嬉しい……」

「ありがと、ユア。こんなことを頼めるのはユアくらいしかいないから助かったよ」

「最高の初体験にしよ……」


 ユアが両手でセイヤの手を取ると頬を緩ます。その表情はセイヤだけにしか見せない顔だ。しかしセイヤの顔は浮かなかった。


 むしろ額には脂汗が見えており、その表情からは気まずさが見て取れる。


「ところでなんだけどさ、僕のお願いが何かわかってる……?」

「エッチじゃないの……?」


 ユアから発せられた予想外の言葉にセイヤは言葉を失う。


「ち、違うから! まだ僕たち十六歳だよ!?」

「セイヤが相手なら構わない……」

「そういうのはもっと大人になってから!」


 セイヤのツッコミを聞いてユアが残念そうに腰を落ち着ける。


「じゃあお願いって……?」

「僕と模擬戦をしてほしいんだ」

「わかった……」

「本当にいいの?」


 ユアの事だから自分と刃を交えることは忌避すると思っていたセイヤには意外な反応であった。


「問題ない……私とセイヤはいつも一緒だから……」

「ユア」


 セイヤの居るところにユアがいる。


 それならば模擬戦であろうとも同じ時を過ごすことに変わりはない。

「でも一つだけ条件……」

「なに?」

「勝った方の言うことを一つ聞く……」


 ユアからの提案を聞いてセイヤはしばし考え込む。


「何でもはなしね。実現可能なことだけだよ」

「わかった……」

「あと、エッチなこともなしだからね」

「……………………わかった……」


 長い沈黙の後にユアはセイヤの条件を承諾したのであった。


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