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第22話 セイヤの実力

 セイヤを含めたバジル一行がダリス大峡谷の谷底へと降り立つと、そこには悲惨な光景が広がっていた。その光景を見てバジル隊の一人であるワルツが言葉を漏らす。


「これを学生魔法師がやったって……?」


 他の面々も口には出していないがワルツと同じ感想を抱いていた。


 彼らの前に広がる光景は頭部を失った魔獣たちの死骸だ。例外なく頭から上を失っている魔獣たちの判別はできないものの、それらが凶悪な魔獣であったことはわかる。そのような魔獣たちの死骸が遥か先まで続いていたのだから彼らが驚くのも当然である。


「まさかここまでとはな」

「捜索対象は既に上級魔法師と聞いていたが、これは上級魔法師の範疇を超えてるだろ」

「あの雷神の娘ということを考えれば納得はできるけど……」


 口々にユアへ対する畏怖の声をあげる隊員をみてバジルが注意する。


「それでも学生魔法師だ。必ずどこかで限界はくる」


 どれほどの実力者であっても度重なる連戦には疲弊をする。ユアが限界を迎えるよりも先に救出に向かいたいバジルの足が速くなった。


 けれども進路を妨害するように新手の魔獣が姿を現す。


「おっと、ようやく出番か」

「少しは準備運動になるかな」


 三体の大型魔獣の出現にバジル隊の面々が武器を構える。隊長であるバジルも武器を構えたが、彼らが手を出すよりも先に魔獣は殲滅された。


「僕がやります」


 バジルたちを制止すると同時に双剣ホリンズを手にしたセイヤが前に出る。


 三体の魔獣の内、一体は既にセイヤも遭遇したことのある熊型の魔獣であった。体格こそ異なるが基本的な動作は同じだ。


 セイヤは一瞬で加速すると熊型魔獣の懐に入り込む。魔獣はとっさに防御姿勢を取るもセイヤの刃の方が早かった。ホリンズで急所を一突きされた熊型魔獣が意識を失って倒れる。


 セイヤはホリンズを抜くと上空へ目を向けた。


 そこにはセイヤの動きを見て距離を取った鳥型魔獣の姿がある。高度を上げた魔獣はセイヤのホリンズでは射程範囲外だ。


 後方にいたバジルたちが援護しようとするがセイヤには必要なかった。


「大丈夫です」


 セイヤが上空の魔獣に向けてホリンズを構える。


 両者の間にはとても長い距離が空いている。絶対に届かない距離のはずだった。しかし次の瞬間、鳥型魔獣は胸を貫かれて撃墜される。


「《光延》」


 セイヤの右手に握られていたホリンズの刃が魔獣を貫いたのだ。


 その刀身は黄色い魔力を帯びていた。ホリンズが纏う光属性の魔力が足りない長さを補填するかのように魔力の刃が形作られている。


 魔獣は魔力の刃によって急所を貫かれたのだ。


 セイヤの使った魔法は単純な光属性の魔法である。魔力で刀身を増長することで武器を一時的に長いものにする魔法だ。


 これだけでは脅威にはなりえない。普通ならば相手に読まれて回避行動を取られてしまうからである。


 この魔法は魔力の許す限り距離に限界はないが途中で曲げることができない。つまり相手は直線上を避けることで射程圏内から容易に逃れることができる。


 しかしセイヤの場合は別であった。詠唱をせずに一瞬で魔法を発動したセイヤの攻撃は回避行動を取る時間さえ与えない。相手からすれば武器を構えると同時に刃が自らの肉体に到達した感覚であっただろう。


 魔法行使の速度にバジルを含めた一同が感嘆の声をあげた。


 セイヤは構わずに三体目の魔獣を相手にする。


 三体目の魔獣は象に似た大型の魔獣である。先の二体に比べて速度はないものの力強さは随一だろう。しかも緑色の魔力を纏って自身の肉体を硬化させている。


 硬化された巨体がセイヤたちに向かって突進を始める。足元には風属性の魔法陣が展開されており、加速の一端を担っていることがわかる。


 瞬く間にトップスピードに入った巨体がセイヤに迫る。


「させないよ」


 セイヤが呟いた刹那、魔力の波が巨体に襲い掛かる。直後、巨体が纏っていた風属性の魔力と加速を手助けしていた魔法陣が跡形もなく消える。


 突然の出来事に象はバランスを崩して壁に衝突した。


 激しい衝突音と共に土埃が巻き上がる。何が起きたのかバジル隊の面々にも理解はできなかった。


 この中で闇属性の存在を知るバジルだけが闇属性の魔力で象の魔力を消滅させたということを理解していた。それでもセイヤの使う闇属性はバジルが見聞きしたものとは別物であった。


 セイヤの闇属性はバジルが知る限りで最も洗練されたものである。


「終わりにしようか」


 壁に衝突した魔獣に向かってセイヤが黄色い魔法陣を展開する。

 もちろん詠唱などは唱えたりしない。


「《光矢》」


 無数の光の矢が巨体を襲って命を刈り取る。


 セイヤの姿は魔法師との戦いというよりも一方的な蹂躙であった。この程度の相手ならばバジル隊の面々であっても難なく対処することはできるだろう。けれどもセイヤのように一方的な蹂躙になることは有り得ない。


 多少の攻防を経ての勝利は可能だが、相手に何もさせずに完封することはバジルのような十三使徒でなければ不可能である。


 セイヤの戦いを見たグリスが言う。


「今時の学生魔法師って化け物しかいないのか?」

「いや、流石にアレは例外だろ」

「でもセナビアならあり得るな。あそこは人外育成機関なのか」


 長年、聖教会の魔法師として前線で戦ってきた彼らの目に映るセイヤの姿は怪物であった。少なくとも自分たちよりは実力があると認めざるを得ない一同。


 そこにある感情は嫉妬などのような醜いものではない。ただ感嘆するばかりであった。


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