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第15話 クイック・メーカー


 セイヤが向かった先に目当ての人物はいた。


 全身を白い鎧に包み込んだ銀髪の男性だ。その男の名はバジル・エイト。


 クイック・メーカーの異名を持つ十三使徒序列八位であり、今回ユアを追いかけるために派遣された魔法師である。


 十三使徒とは聖教会に所属する十三人の魔法師であり、特級魔法師と並びレイリア皇国の頂点に君臨する魔法師集団の総称である。そして聖教会こそがレイリアを統治する行政機関だ。


 皇国と呼ばれているレイリアに皇族はもういない。


血統が途絶えた皇族に代わって施政権を握った聖教会は各地方に教会を置くことで中央集権国家として国家の安寧を保っている。


 現在のレイリアは聖教会の最上位に位置する七賢人たちによって支配されていた。しかし聖教会の玉座は二十年前から空席のままである。


 七賢人たちは代理者にすぎず、本来レイリアを支配すべき君主の姿はない。


 二十年前、当時の支配者であった女神リーナ・マリアが忽然と姿を消して以降は聖教会の玉座は空位のままとなっている。国民の中には君主不在の体制に懸念を抱く者たちもいたが、長年に渡って次なる君主が誕生しなかったことには理由がある。


 それは君主になる資格を持つ者が現れなかったからだ。


 レイリアの君主にして聖教会のトップに求められる条件はたった一つである。条件を満たす者ならば出自や経歴は一切不問とされ、即日国家元首になることが許されるのだ。


 その力こそが聖属性である。


 このレイリアの君主になるためには奇跡の力とも呼ばれる聖属性の使い手であることが条件であった。


 現代の魔法体系では全ての魔法属性は基本四属性のどれかに分類される。けれども聖属性だけは特別である。四属性を基本とした魔法体系から逸脱した神の如き特別な力なのである。


 歴代のレイリア君主は例外なく聖属性の使い手であり、姿を消したリーナ・マリアも聖属性の使い手であった。聖属性の発現条件は不明であり、遺伝とされる魔法適性の考え方も通用しない。


 魔法論理の世界では聖属性は特別変異であるとまで言われるほどに謎が多い属性であるが、その力はあらゆる魔法を凌駕する。


 聖属性の特性は発生だ。


 無から有を作り出すことのできる力は正に国を治める者に相応しい力である。それゆえに次なる聖属性の使い手が現れない内は七賢人たちがレイリアの舵取りをしていた。


 そして今回ユアの追跡に十三使徒の派遣を決めたのも七賢人たちであった。


 十三使徒は聖教会が保有する最大戦力であるとともに、聖教会の軍事的な象徴である。その一人を暗黒領に派遣すること自体は珍しくはないが、ユアが姿を消して丸一日も経っていない状態での迅速な判断は異例である。


 ユアが特級魔法師一族であることが関係していることは明白であった。


 セイヤは暗黒領に向けて準備を進めるバジルに近づく。


「あの、十三使徒の方ですよね」

「君は?」


 セイヤに声をかけられて振り向くバジル。


「僕はセナビア魔法学園のキリスナ・セイヤと申します」

「確かに私は聖教会所属の十三使徒だ。でも悪いが今は急いでいる」


 そういってバジルはセイヤの前から立ち去ろうとする。

 十三使徒はレイリアでも有名な魔法師集団だ。中には握手やサインを求める者たちもおり、バジルはセイヤもその手合いだと思った。


「ですから、お願いだけです」


 相手はレイリアでも有数の魔法師だ。

 本来であれば礼儀を大事にしなければならない。

 しかし今は一刻を争う状況だ。

 セイヤは端的に自分の思いを請願する。


「僕も暗黒領に連れて行ってもらえませんか」

「君は一体……?」


 セイヤの言葉を聞いて足を止めたバジルは少しだけ驚いた様子を見せる。


 今回の任務は内容もさることながら、発生からの時間も経っていないため詳細は一部の関係者の間で留められている。一介の学生魔法師が知るはずがなかった。


「事情は聴いています。無理も承知です。その上で、お願いします」


 通常、学生魔法師が十三使徒の任務に同行を許されるはずがない。ましてや目的地が暗黒領となれば尚更のことである。


「理由を聞いてもいいかい?」

「ユアが僕にとって大切な人だからです」


 バジルに向かって強い眼差しをぶつけるセイヤの瞳には覚悟が宿っている。

 ユアを守る魔法師になるという強い覚悟だ。

 その覚悟を見たバジルが呟く。


「貫け」


 次の瞬間、バジルの右手に水色の魔法陣が展開されると氷で形作られた剣が姿を現す。たった一言で魔法陣を展開する姿こそがクイック・メーカーと呼ばれる所以であった。


 バジルは氷の剣をセイヤの首元につきつける。


「壁の外は言葉など通用しない戦場だ。もし私が魔獣なら君は死んでいる」

「…………」


 突然のことに反応できなかったセイヤはバジル言葉に詰まる。


「今の我々に足手まといを連れて任務をこなす余裕はない」

「でも、それでもユアは僕にとって大切な人なんです。荷物持ちでも雑用でも何でもするのでお願いします」


 自分に向かって頭を下げるセイヤを見てバジルが問う。


「壁の外に行けば君も死ぬかもしれないんだぞ」

「わかっています。それでも僕は行きたいんです」

「どうしてそこまで拘る」

「ユアと約束したからです。僕がユアを守る存在になると」


 セイヤの言葉を聞いたバジルは剣を捨てるとセイヤの肩に手を置いた。


「それならば、なおさら君を連れて行くわけにはいかない。君の大切な人が帰ってきたときに君が待っていないと悲しむに違いないからね」


 バジルはそう言い残してセイヤの前を後にする。


 セイヤはバジルのことを追いかけようとしたが動くことができなかった。足元が氷によって動けなくされてしまったから。セイヤはバジルの背中に向かって必死に懇願を続けたが、ついにバジルが振り返ることはなかった。


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