第3話
「……おい、起きろ」
「んん……あと五分……」
「五分って何だ」
「……むにゃ」
「……朝だぞ」
肩を軽く揺すられて、私はようやく目を開けた。
ぼんやりとした視界に映ったのは、見慣れない男の人の顔。
暗い色の髪に、青灰色の瞳。
そうだ今は一人じゃないんだった。
「ようやく起きたか」
呆れたような声に、私は慌てて飛び起きた。
「お、おはよう!」
「ああ」
周囲を見渡すと、焚き火はすでに小さくなっていて、空には朝日が昇り始めていた。
昨日は本当に色々あった。
魔物に追いかけられて、知らない人に助けられて、その人と一緒に夕飯を食べて。
そして、今はその人と一緒に野営している。
……人生って何が起こるか分からないなぁ。
「よく眠れたか?」
「うん! ぐっすり!」
「そうか」
「レオンは?」
「問題ない」
そう答えるレオンの顔には、特に疲れた様子もない。
昨日は見張りをしてくれていたはずなのに。
「……ちゃんと寝た?」
「少しはな」
「少し?」
「慣れてる」
そうだよね、私はレオンのおかげで安心して寝れたけどレオンは熟睡できないよね。
せめて朝ご飯くらいは、しっかり食べてもらおう。
「よし! 朝ご飯作るね!」
私は毛布を畳みながら宣言した。
「……昨日のシチューか?」
「今朝は違うものにしようかと思ってる!」
「……そうか」
レオンが少し残念そうな顔をした。
……そんなにシチューが気に入ったのかな。
なんだか嬉しくなって、私は思わず笑ってしまった。
◇ ◇ ◇
今日の朝ご飯は、チーズ入りの卵焼きを香ばしく焼いたパンで挟んだホットサンドにする。
昨日のシチューほど豪華ではないけれど、朝から温かいものを食べると元気が出る。
私は小さなフライパンに油を引き、溶いた卵を流し込んだ。
端が固まり始めたところで、細かく切ったチーズを散らす。
とろりと溶けたところを、半分に折り畳む。
同じフライパンに次はバターを溶かしパンを両面こんがり焼いてオムレツを挟めば簡単な朝食の完成だ。
「よし、できた!」
「……うまそうだな」
「えへへ。食べてみて!」
レオンはパンを受け取り、一口かじった。
「……うまい」
「よかった!」
昨日も思ったけれど、レオンは食べるときだけ少し表情が柔らかくなる。
普段は無口で、ちょっと怖そうなのに。
美味しいものを食べているときは、なんだか分かりやすい。
「もう一つあるよ!」
「もらう」
「はい!」
私は二つ目を渡した。
レオンはそれもあっという間に食べ終えた。
「……まだあるか?」
「…………」
「……何だ」
「レオンって、やっぱりすごく食べるね」
「……そうか?」
「うん!」
私は笑いながら、もう一枚パンを焼き始めた。
◇ ◇ ◇
朝食を終えて荷物をまとめると、私たちはベルクへ向けて歩き始めた。
昨日とは違って、今日は隣にレオンがいる。それだけで、なんだか心強い。
「ねえ、レオン」
「何だ」
「冒険者って、普段はどんなことをするの?」
「依頼によるな。魔物の討伐、護衛、素材の採取……色々だ」
「採取もあるんだ!」
「ああ。薬草や鉱石を集める依頼も多い」
「へぇ……!」
それなら、私にもできるかもしれない。
薬草はあまり詳しくないけれど、山菜や食べられる植物なら少しは分かる。
「じゃあ、料理に使えるものを採ってもいいの?」
「特に問題ないだろうが、個人の私有地なら許可がいるかもな」
「そうなんだ!」
私は思わず目を輝かせた。
森には、まだ知らない食材がたくさんあるはずだ。
木の実、キノコ、野草。
もしかしたら、図鑑でしか見たことのない珍しいものも見つかるかもしれない。
「……お前、何を考えてる」
「え?」
「顔に出てるぞ」
「えへへ。ちょっと食材探しを……」
「一人で森に入るなよ」
「……はい」
先回りされた。
しかも、ものすごく真剣な顔で言われた。
昨日のことがあるから、反論できない。
「でも、街道の近くなら……」
「駄目だ」
「まだ何も言ってじゃん」
「言わなくても分かる」
レオンって、意外と厳しい。
でも、私の安全を考えてくれているのだろう。……たぶん。
「じゃあ、レオンが一緒ならいい?」
「……何?」
「食材探し!」
私はにっこり笑った。
「レオンがいたら安心でしょ?」
「…………」
レオンはしばらく私を見つめていた。
それから、深いため息をつく。
「……街に着いてから考えろ」
「はーい!」
完全に断られなかった。
これは、ちょっとだけ可能性があるということでは?
私は内心で小さくガッツポーズをした。
◇ ◇ ◇
昼過ぎ。
街道の先に、大きな石造りの門が見えてきた。
「わぁ……!」
思わず声が漏れる。高い城壁。行き交う馬車や門の前に並ぶ商人や旅人たち。
私が生まれ育った村とは、何もかもが違う。
「あれがベルク?」
「ああ」
「すごい! 大きいね!」
「交易都市だからな」
門へ近づくにつれて、人の数も増えてきた。
大きな荷車を引く商人や鎧を着た冒険者。色鮮やかな服を着た旅人。
そして――
「あっ!」
私は思わず足を止めた。
前を歩いていた人の頭に、ふわふわした耳がついていたのだ。
しかも、腰のあたりには尻尾まである。
「レオン! あの人、耳が!」
「……獣人だろ」
「初めて見た!」
村の近くでは人間しか住んでいなかった。
本では読んだことがあるけれど、実際に見るのは初めてだ。
「すごい……!」
思わず見つめていると、レオンが私の頭を軽く小突いた。
「じろじろ見るな。失礼だ」
「あっ、ごめん!」
私は慌てて視線を逸らした。
そうだよね。珍しいからって、じっと見たら失礼だ。
でも世界って、本当に広いんだなぁ。
まだ最初の街なのに、知らないことばかりだ。
これからどんな出会いがあるんだろう。
胸がわくわくして、自然と足取りが軽くなった。
◇ ◇ ◇
門で身分を確認してもらい、無事にベルクへ入ることができた。
そして、
「わぁぁ……!」
私は思わず立ち止まった。
石畳の大通り。両側に並ぶ商店。行き交う人々の賑やかな声。
そして、何より。
「……いい匂い!」
どこからともなく、香ばしい香りが漂ってきた。
焼いた肉の匂い。
甘い焼き菓子の匂い。
香辛料の刺激的な香り。
私の知っているものもあれば、初めて嗅ぐものもある。
「レオン! あれ何!?」
「……何がだ」
「あの屋台! ぐるぐる回して焼いてるやつ!」
「串焼きだろ」
「串焼きは知ってるよ! でもあんなに大きいお肉、初めて見た!」
屋台の店先では、大きな肉の塊が串に刺され、炭火の上でゆっくり回されていた。
表面には赤茶色の香辛料が塗られ、脂が落ちるたびに火が小さく跳ねる。
じゅうじゅうという音とともに、たまらない香りが広がっていた。
「……食べたい」
思わず呟く。
「買えばいいだろ」
「でも、まずは冒険者ギルドに行かないと……」
「逃げたりしないぞ、屋台は」
「……それもそうだね!」
私はぱっと顔を上げた。
レオンは呆れたように息を吐いている。
でも、止める様子はない。
「すみませーん! 二つください!」
私は屋台へ駆け寄った。
店主のおじさんが、豪快に笑いながら肉を切り分けてくれる。
「はいよ! ベルク名物、香辛料焼きだ!」
「ありがとうございます!」
受け取った肉は、まだ熱々だった。
表面はこんがり焼けていて、香辛料のいい香りがする。
私は小さく一口かじった。
「んんっ!」
美味しい!
噛んだ瞬間、肉汁がじゅわっと広がる。
最初に感じるのは塩気と香ばしさ。
そのあとから、少し辛くて爽やかな香りが鼻を抜けた。
「これ、何の香辛料だろう……!」
私は思わず屋台のおじさんに尋ねた。
「おじさん! これ、何で味付けしてるんですか?」
「おっ、気になるかい?」
「はい!」
「こいつはな、南の方で採れる赤実胡椒ってやつだ。普通の胡椒より香りが強くて、肉によく合うんだよ」
「赤実胡椒……!」
初めて聞いた。
私は慌てて手帳を取り出した。
「えっと、赤実胡椒……南の地方……お肉に合う……」
「お嬢ちゃん、料理人かい?」
「いえ! 料理が好きなんです!」
「そうかい! だったら市場に行ってみな。あそこなら色んな香辛料が手に入るぞ!」
「本当ですか!?」
思わず身を乗り出す。
「ありがとうございます!」
私は勢いよく頭を下げた。
そして、くるりと振り返る。
「レオン! 市場だって!」
「……聞こえてる」
「あとで行ってもいい!?」
「好きにしろ」
「やった!」
私は嬉しくなって、もう一口肉を頬張った。
ああ。
旅に出てよかった。
まだベルクに着いたばかりなのに、もうこんなに楽しい。
……ただし。
「……おい」
「ん?」
「先にギルドに行くんだろ」
「あっ」
危ない。
危うく目的を忘れるところだった。
◇ ◇ ◇
冒険者ギルドは、大通りから少し入った場所にあった。
大きな木製の扉の上には、剣と盾を組み合わせた紋章が掲げられている。
建物の中からは、賑やかな声が聞こえてきた。
「ここが……冒険者ギルド……!」
私はごくりと唾を飲み込んだ。ちょっと緊張する。
だって、冒険者ギルドだ。強そうな人たちがたくさんいるに違いない。
私は戦えないし、魔法も得意じゃない。そんな私が入っても大丈夫なのだろうか。
「……何してる」
レオンが扉の前で立ち止まった。
「ちょ、ちょっと心の準備を……」
「入るぞ」
「あっ、待って!」
ぎい、と扉が開く。
私は慌ててレオンの後ろについていった。中は思っていた以上に広かった。壁には依頼書がびっしり貼られた掲示板。奥には受付。隅には酒場のような食事スペースまである。
そして、何より目立つのは冒険者たちだ。
大きな斧を背負った男性。ローブを着た女性。弓を持った獣人。
……みんな強そう。
私は思わずレオンの背中に隠れた。
「……何で隠れる」
「だ、だって……」
「別に取って食われたりしない」
「分かってるけどぉ……」
そのとき。
「あれ?」
近くにいた冒険者の一人が、こちらを見た。
「おい、あれ……」
「……レオンじゃないか?」
ひそひそと声が聞こえる。私は首を傾げた。
レオン?
隣を見ると、本人は特に気にした様子もなく受付へ向かっている。
「久しぶりだな、レオン!」
今度は大柄な男性が声をかけてきた。
「また一人で仕事か?」
「ああ」
「相変わらずだな! ……ん? そっちの嬢ちゃんは?」
男性の視線が私へ向いた。
「えっ、私?」
「お前が誰か連れてるなんて珍しいな!」
レオンが短く答える。
「街道で拾った」
「拾った!?」
「拾われてません!」
私は慌てて抗議した。
「助けてもらっただけです!」
「似たようなものだろ」
「全然違うよ!」
男性が豪快に笑った。
「ははは! 面白い嬢ちゃんだな!」
……何だろう。
レオンって、思っていたより有名なのかな。
私は不思議に思いながら、受付へ向かった。
◇ ◇ ◇
「冒険者登録をご希望ですね?」
「はい!」
受付のお姉さんは、柔らかい笑顔で迎えてくれた。
私はほっと息をつく。
よかった。
怖い人じゃない。
「では、こちらにお名前と年齢、出身地をご記入ください」
「分かりました!」
差し出された用紙に、私は丁寧に文字を書き込んだ。
「……スキル?」
私はペンを止めた。
用紙の下の方に、スキルを記入する欄がある。
……どうしよう。
固有スキルって、書いていいのかな。
私はちらりとレオンを見た。
「……何だ」
「これ、スキルも書くの?」
「ああ。ただし任意だ」
「任意?」
「書きたくなければ空欄でいい」
「そうなんだ!」
私はほっと胸を撫で下ろした。
固有スキルのことは、村ではみんな知っていたけれど、外ではあまり言いふらさない方がいいと母に言われていた。
珍しい力を持っていると、面倒なことに巻き込まれるかもしれないからだ。
昨日レオンには話してしまったけれど、あれは助けてもらったお礼に料理を作っていたからで……。
……うん。これからは少し気をつけよう。
私はスキル欄を空欄にして、用紙を提出した。
「ありがとうございます。それでは、登録にあたっていくつかご説明しますね」
受付のお姉さんが、机の上に小さな金属製の札を置いた。
「冒険者ランクは、Fから始まります。依頼を達成して実績を積むことで、順番に昇格していく仕組みです」
「はい」
「Fランクでは、主に街中の雑用や比較的安全な採取依頼を受けられます。魔物討伐などの危険な依頼は、原則として受けられません」
「……よかったぁ」
「え?」
「あっ、いえ!」
思わず本音が漏れてしまった。
受付のお姉さんがくすりと笑う。
「無理に戦闘依頼を受ける必要はありませんよ。採取や運搬だけを専門にしている冒険者もいますから」
「そうなんですか?」
「ええ。旅をしながら各地で依頼を受ける方もいらっしゃいます」
それはいい!
私にぴったりではないだろうか。旅先で食材を探しながら、ついでに採取依頼を受ければ、お金も稼げる。
……もちろん、危なくない場所に限るけれど。
「私、採取の依頼をやってみたいです!」
「ふふ。では、まずは街の周辺でできるものから始めましょうね」
「はい!」
受付のお姉さんが、登録用の札に何やら魔法をかけた。淡い光が一瞬だけ灯り、すぐに消える。
「これで登録完了です。こちらが冒険者証になります」
差し出されたのは、小さな銀灰色の札だった。表面には私の名前と、Fの文字が刻まれている。
「わぁ……!」
私は両手で受け取った。
冒険者証。私の、初めての冒険者証だ。
「ありがとうございます!」
嬉しくて、何度も眺めてしまう。これで私も冒険者。
……一番下のFランクだけど。
でも、いいのだ。私は強い冒険者になりたいわけじゃない。世界中の料理を食べて、作って、覚える。そのための第一歩なのだから。
◇ ◇ ◇
ギルドを出た頃には、すっかり夕方になっていた。私は冒険者証を大切に鞄へしまい、レオンに向き直った。
「レオン、ありがとう!」
「……何がだ」
「ここまで送ってくれたこと!」
私はにっこり笑った。
「レオンがいなかったら、きっとベルクまで来られなかったと思う」
「……だろうな」
「そこは否定してほしかった!」
レオンは少しだけ口元を緩めた。私は思わず笑ってしまう。最初は怖そうな人だと思ったけれど、話してみると意外と面白い。
それに、すごく親切だ。
……ちょっと口は悪いけど。
「それじゃあ、私は宿を探すね!」
「ああ」
「レオンも気をつけてね!」
「お前こそな」
「うん!」
私は大きく手を振った。
「本当にありがとう! またどこかで会えたらいいね!」
レオンは一瞬、何か言いかけたように見えた。
でも、結局。
「……ああ」
そう答えただけだった。私はもう一度手を振って、歩き出した。こうして、私たちの短い二人旅は終わった。
……はずだった。
◇ ◇ ◇
翌日。
私は朝から市場へ来ていた。
「わぁぁ……!」
目の前に広がる光景に、思わず声が漏れる。
色とりどりの野菜。見たことのない果物。山積みにされた香辛料。干した魚や肉、チーズ、焼きたてのパン。
まるで宝の山だ。
「すごい……! すごいよ、これ!」
私はあっちの店、こっちの店と目を輝かせながら歩き回った。
途中、昨日の屋台で教えてもらった赤実胡椒も見つけた。
「これだ!」
小さな袋に入った赤い粒。
蓋を開けて香りを嗅がせてもらうと、昨日の串焼きと同じ刺激的な香りがした。
「これください!」
私は迷わず購入した。
……ちょっと高かったけど。
でも、旅の目的は料理なのだ。必要な出費である。たぶん。
そのあとも市場を回り、珍しい野菜や香草を少しずつ買い込んだ。
そして、宿へ戻る途中。
「……さて」
私は立ち止まった。次はどこへ行こう。ベルクはとても楽しい街だった。でも、まだまだ世界は広い。次の街には、きっとまた違う料理がある。私は地図を広げた。
「次は……南の街道を進んでみようかな」
南の方には、香辛料の産地に近い街があるらしい。昨日食べた串焼きも美味しかったし、ぜひ行ってみたい。
「よしっ、決まり!」
私は地図を畳み、歩き出そうとした。
そのとき。
「……おい」
「ん?」
聞き覚えのある声がした。
振り返るとそこに立っていたのは、背中に大剣を担いだ男の人。
「……レオン?」
「ああ」
「わぁ! 偶然だね!」
「……そうだな」
レオンは何とも言えない顔をした。
……あれ?
何だろう、ちょっと様子がおかしい。
「どうしたの?」
「……いや」
「?」
「……お前、もう街を出るのか」
「うん! 明日の朝には出ようかなって」
「……そうか」
レオンが黙った。
私は首を傾げる。
「レオンは?」
「……特に決めてない」
「そっか!」
私はにっこり笑った。
「じゃあ、またどこかで会えるかもね!」
「…………」
レオンはしばらく黙っていた。それから、何かを決めたように口を開いた。
「……リネット」
「ん?」
「お前、パーティを組む気はないか」
「…………え?」
私は目を丸くした。
パーティ?
……誰と?
「……俺とだ」
「…………」
私はレオンを見た。
レオンも私を見ている。しばらく沈黙。
そして、
「えええええっ!?」
思わず大きな声が出た。
「な、何で!?」
「……声が大きい」
「だって! レオン、Aランクでしょ!?」
「ああ」
「私、Fランクだよ!?」
「知ってる」
「しかも戦えないよ!?」
「それも知ってる」
「……じゃあ、何で?」
私が首を傾げると、レオンは少しだけ視線を逸らした。
「……お前、一人だと危なっかしいからな」
「うっ」
「また魔物を引き連れて走り回られても困る」
「……それは、そうだけど」
「それに……」
レオンが言葉を切った。
「……それに?」
私が聞き返すと、彼は小さく息を吐いた。
「……お前の料理が、気に入った」
「…………」
「……何だ、その顔は」
「……えっ」
私は思わず笑ってしまった。
「もしかして、また食べたいの?」
「……悪いか」
「ううん!」
私はぶんぶんと首を振った。
むしろ嬉しい。
ものすごく嬉しい。
だって、私の料理をまた食べたいって言ってくれたのだ。
「でも、いいの?」
「何がだ」
「私、色んな国に行きたいんだよ? 料理を覚えるために、あっちこっち寄り道すると思う」
「構わん」
「珍しい食材を見つけたら、立ち止まっちゃうかも」
「……一人で森に入らなければな」
「それは気をつける!」
「……気をつけるだけか」
「頑張る!」
レオンは呆れたようにため息をついた。
でも、その表情はどこか柔らかかった。
「……で、どうする」
私は少し考えた。レオンは強い。しかも、優しい。そして、私の料理を美味しいと言ってくれる。一緒に旅をする相手として、これ以上頼もしい人はいないと思う。
それに昨日の夜、焚き火を囲んで食事をした時間は、とても楽しかった。
一人旅もいいけれど、誰かと一緒に食べるご飯はやっぱり美味しい。
「……うん!」
私は大きく頷いた。
「よろしくお願いします!」
レオンが少しだけ目を見開いた。
「……いいのか?」
「もちろん!」
私はにっこり笑った。
「これからいっぱい美味しいもの作るから、楽しみにしててね!」
「……ああ」
レオンは短く答えた。
でもその口元が、ほんの少しだけ緩んだのを私は見逃さなかった。
「じゃあ、まずは今日の夜ご飯だね!」
「……気が早いな」
「何食べたい?」
「何でもいい」
「だから、それが一番困るんだってば!」
私が頬を膨らませると、レオンは小さく笑った。
私はなんだか嬉しくなって、つられて笑ってしまった。
こうして、私の料理を巡る旅に、初めての仲間ができた。無口で、ちょっと怖くて、でもとても頼もしいAランク冒険者。そして、ものすごく食いしん坊。
これからどんな旅になるのかは、まだ分からない。
でも、きっと。
一人のときより、ずっと賑やかになる気がする。
……ちなみに。
この日の夕飯も、レオンは私の作った料理を四人前食べた。
やっぱり、この人の胃袋は底なしなのかもしれない。




