第5話〜スキンシップについて
誰の皮膚も、わたしにとっては凶器だ。
世界はあまりにも無遠慮な触れ合いに満ちている。親愛の情を装った不意打ちのボディタッチ、すれ違いざまにかすれる袖、肩を叩く軽い手のひら。それらすべてが、わたしの皮膚に届いた瞬間に微弱な電流となって脳を殴りつけ、全身の筋肉を凍りつかせる。
「気にしすぎだ」「自意識過剰だよ」と人は笑う。けれど、わたしの過敏な身体にとって、それは生命を脅かされる侵入行為に他ならない。
半径二メートル。それが、わたしがこの残酷で無神経な世界とまともに向かい合うために絶対譲れない防御線だ。これは、その境界線を頑なに守り抜こうとする、一人の少女の孤独と抵抗の記録である。
スキンシップは苦手。する方もされる方も。
距離感が測れない。触れば叱られそうだし触られればわたしは不機嫌になるし。良いことがない。
第一に、わたしの身体は、全体的に敏感に過ぎるのだ。それをかびんというのだろうけれど。
何処を触れられても、びくんと筋肉が跳ね上がってしまうのである。要するに慣れていないということだろうか?滅多にはしないしされないスキンシップに過度に怯えてしまうらしいのだ。突然━━。
『よお!元気?』
とか言いながらぽんと肩や背中や腰や酷い時にはお尻を触るひとがいないとは言えない。そんな時わたしは、泣きたくなるのである。
どうしてそんな敏感なところを叩くの?どうしてわたしが困っているとわかってくれないの?……。
と、被害者的な立場に自分を置いてしまうのだ。向こうに悪気はないことが殆どなのだろうけど。
でも実際わざとやってる場合もあるよね。
そんな時、本気で怒りたくなってしまうのである。
そんな時、わたしは本気で怒りたくなってしまうのだ。
……というわけで、わたしにとってのパーソナルスペースは、およそ半径二メートル。
お願いだからみんな、わたしに触るときは事前に「いまから触りまーす!」と申請を出してほしい。書類審査と適性検査を経て、合格した方のみ、肩をぽんとする権利を差し上げます。
……あ、もちろん不合格の場合は、容赦なく即座に撃墜(平手打ち)させていただきますので、あしからず。
【了】
ここまでお読みいただき、本当にありがとうございます!
身体が過敏でスキンシップが大の苦手な主人公の、切実でちょっとコミカルな心の叫びを描いてみました。突然の「ぽん!」にビクッとしてしまったり、心の中で(あるいは物理的に)必死にバリアを張ったりした経験がある方に、少しでも共感していただけたら嬉しいです。
半径二メートルの領土を守るための「事前申請制度」、もし実現したら世の中の過敏仲間たちがどれほど救われることか……(笑)。不合格時の即座撃墜にはくれぐれもご注意を!
次回作でもまたお会いできるのを楽しみにしています。




