幼馴染みは王子様。だから私はお姫様。だったらいいのですが私にはそんな顔も素質もありませんが王子様がお姫様だと言うので私はお姫様です
サブタイトルが長くてすみません。
來兎の表情からは何も読み取れません。
綺麗に整った顔の來兎が私に表紙の中の絵を説明してくれます。
「私はあなたと過ごしたこの時間が日常でした。この日常に愛は確かにありました。私はまた新しい日常を見つけるのでしょう」
來兎は一度、絵の中に隠れている文字を読みました。
「今、この言葉を聞くと意味が分かるだろう?」
「うん。お花のことを書いた最後の文章に当てはまるわ。作家さんの旦那さんの言葉に返す作画さんの奥さんからの返事よ」
「そう。俺の思う彼女が本当に言いたかったことは、私はあなたと過ごしたこの時間が愛に溢れていました。だからこれからもあなたへの愛はなくなることはありません。私はまた新しい色んな出会いにあなたの愛を思い出しながら愛を分け与えるのでしょう」
「來兎すごいよ。來兎が言っていることは合ってるよ」
「それは誰も分からないよ。彼女が思っていることなんて彼女しか分からないんだからね」
「そうだよね」
「でも作家さんや作画さんてすごいよ。一つの物語の中に色んなストーリーを隠して読者に考えさせてその予想の遥か上をいく答えを出してくるんだから」
「そうだね。本って面白いんだね」
「繭。泣いてないね」
「あっ」
そういえばこの本はいつも読んだら泣いていたのに何でだろう?
今回の本は泣かなかったです。
「これも彼の書き方のお陰だよ」
「えっ書き方で泣かないようにできるの?」
「最後の展開は思いもよらない展開だっただろう?」
「うん。お花の話だったもん」
「そこで泣くというより驚きが生まれて終わる。それは彼が彼の死で悲しい気持ちで読む人がいることを見越して書いていたんだよ」
「未来が見えるの?」
「そんな人間はいないよ。彼が予想したことが的中しただけだよ」
「ねえ、そんなすごい作家さんが亡くなって悔しいね。もっとたくさん読みたかったな」
「そうだね。だから俺は彼のこの作品を忘れないんだ。いつまでも覚えていたい」
だからこの作品の決まり文句を言うのね。
來兎の気持ちが分かるとあの決まり文句を聞きたくなりました。
「ねぇ、來兎。言ってよ。あの言葉を」
「助けた見返りは?」
來兎はニッコリ笑って言いました。
「それが聞きたくなったの。私も作家さんも作家さんの作品も忘れないよ」
「うん。そうだもう一つこの絵の中に隠れている謎は分かった?」
「そうよ。二人の目線よ。本の真ん中を開いて開いた所を下にして机に置いても二人の目線が違うのよ」
「それは二人は見つめ合っていないからだよ」
「それなら何を見てるの?」
「それは外した表紙を重ねると分かるよ」
そして私は外した表紙を重ねます。
「ヒーローの目は繭から見て何処を向いてるか分かるだろう?」
「左上よ」
「その表紙の左上には何が書いてあるか分かるか?」
「作家さんの名前よ」
「うん。それなら彼女は何処を見てるんだ?」
「右上よ」
「その表紙の右上には何が書いてあるんだ?」
「作画さんの名前よ」
「分かっただろう? 二人は作家と作画のことだって伝えているんだ。モデルにしただけだと思うけどね」
「えっそうなの?」
「そうだと思う」
「思う?」
「ネットではこのことは話題になったけど書いた本人は何も言わなかった。だからこれは読者達の憶測でしかないんだ」
憶測でもいい。
物語の中で二人は幸せでいるなら。
「この憶測は間違いじゃないと俺は思ってる」
「何か他に理由があるの?」
「二人の目線がぶつかる場所にある文字があるんだ」
「文字?」
すると來兎はペンを二本用意して彼女の目線とヒーローの目線をペンで表しました。
見えてきました。
「愛?」
「そう。この物語の題名。 “ヒーローがこの世で一番大切にしているものは愛だけだ” の愛の文字なんだよ」
「そんな話を聞いたら泣いちゃう」
「せっかく泣かなかったのになぁ」
來兎は優しく私の頭を撫でます。
「來兎」
「ん?」
「素敵な本を教えてくれてありがとう」
「いいよ。繭が俺の気持ちを分かってくれれば」
「気持ち?」
「俺は繭のことが」
「待って。お願いまだその言葉は言わないで」
「えっ分かってるなら言わなくてもいいんだけど?」
「ダメ。それはちゃんと聞きたいけど今は待って」
「待つってなんだよ?」
「準備が必要だから」
「準備? 意味が分からないんだが?」
「一週間頂戴。準備したらまたその言葉の続きを聞くから」
「分かったよ。待てばいいんだろう? でも彼女のように死ぬなよ」
「彼女は死んでないでしょう?」
「そうだけど」
「それじゃあ。一週間後ね」
私はそう言って來兎の部屋を出ました。
早く準備をしなくてはいけません。
王子様の言葉を聞く準備です。
その準備をしている間、私は嬉しくてたまりませんでした。
來兎の気持ちは分かっているのだから当たり前ですね。
◇
一週間の期限が訪れました。
さあ、來兎の家へ向かいます。
今日は來花ちゃんは留守みたいです。
來兎の部屋へ入り私は水が入ったコップを机の上に置きます。
そして一輪の紫色のお花を出します。
「繭。それってあの本の花なのか?」
「うん。見てて」
私はそう言ってその紫色のお花を水が入ったコップの中に入れます。
一時、経ったら水から出します。
「真っ白になってる」
來兎は驚いています。
「これは造花なの。白いお花の造花に紫色の水性ペンで塗るの。そして水につけると紫色は水で落ちる仕組みよ」
「何でそんなことをする訳?」
「だって紫色のお花は不思議な力を持ってるんでしょう?」
「そうだけど今、必要なのか?」
「必要よ。紫色のお花のお陰で私はお姫様になれるもの」
「そんなことしなくてもいいのに」
「ダメよ。私にはそんなことをしなきゃお姫様にはなれないの」
「俺が何回、言ってもダメなのか?」
「それは分からないよ」
「それじゃぁ試してみる?」
「えっ」
「繭、君は俺のお姫様だよ」
「なっ何を言ってるのよ」
私の顔は火照っているので赤いはずです。
「俺はちゃんと繭に愛を伝えたいんだ。彼女ができなかったことをね」
「彼女?」
「彼女は愛の言葉の代わりに花をあげていたんだよ」
「あれは感謝の気持ちじゃなかったの?」
「そうだよ。その感謝の気持ちの中に彼女は愛も込めていたんだよ」
「それなら私も。來兎。あなたを愛してるよ」
私がそう言うと來兎は顔を赤くして照れました。
照れられると私まで照れちゃいます。
「助けた見返りは?」
來兎はいきなりニッコリ笑って言いました。
「助けてもらってないわよ?」
「助けたよ。繭をお姫様にしたんだから」
すごく無理があるけど許します。
だって王子様の気持ちは分かるからです。
見返りをまたワンランクあげるのでしょう。
恋人としてのランクに。
「見返りは何がいいの?」
「キス」
「私からは無理だよ」
「繭からじゃなければいいってこと?」
「えっそれは」
「繭? 繭が嫌ならしないよ」
王子様は心配そうに私を見ています。
優しい王子様。
何をしても王子様にしか見えない王子様。
私をお姫様にしてくれる王子様。
「嫌じゃないよ」
私がそう言うと來兎は優しく笑って初めてのキスをしてくれました。
そのキスは私を本当のお姫様にしてくれました。
私はお姫様。
王子様の大切なお姫様です。
最後まで読んで頂きありがとうございます。
ブクマや評価など本当に嬉しく思っております。
読んだ方の心に残る作品だと幸いです。
最後までお付き合い頂き本当にありがとうございます。




