カーラ・シモネット-09
『カーラさん、オレが動き回ってミライガの気を引くので、MPのある限り攻撃魔法とデバフ魔法を!』
「リョーカイですっ!」
今、シン・ミライガの爪を空中で脚部スラスターを使った回転をする事で避けたオレが、そのまま爪の切っ先に向けて拳を叩き込む。
ダメージとしてはそう入ってはいないだろうが、しかし主要攻撃は別に存在する。
「アイスレイジ――!」
シン・ミライガの頭上に展開される、氷の塊。それは一瞬で四散すると、氷の粒となって降り注ぐ。
カーラさんは多分感覚でやっているだけだと思うけど、この戦法を取るには一つの理由がある。
シン・ミライガが、雄叫びを上げて今脚部を動かし、オレへと襲い掛かろうとするも、その移動は非常に遅い。
元々の図体がデカいと言う意味もあるが、今アイスレイジによって氷結状態となったシン・ミライガは、移動速度や肉質強度が非常に落ちている状況だ。
そして、肉質が低下している状態ならば、物理攻撃でもある程度のダメージは与えられる!
背部スラスターを吹かした腹部へ向けたキック。しかし、肉を貫通するには至らない。跳ね返った衝撃をそのまま利用して、続けて胸部へと、そして頭部へと連続して蹴りつけたオレが、一度着地して再び灼熱のアイコンをかざし、プログレッシブ・フレイムへとフォームチェンジを行う。
アイスレイジで動きが鈍く、肉質が柔らかい今こそがチャンス。可能な限りダメージを与えて、持久戦に持ち込めば、勝機はある――!
『う――オオオオッ!!』
炎をまとった、可能な限り最上の威力を孕んだ拳を、その細い脚部に、思い切り叩き込む。
すると、グワンと体を揺らして倒れるシン・ミライガ。叫びながらだったこともあり、あくまでバランスを崩した程度ではあるだろうが、それでも今ならば、背中に一撃を叩き込める!
地を蹴り跳び上がって、両足にまとう轟炎。空中で体を一回転させ、そのまま両足をシン・ミライガの背中へと向けて突き出し、叩き込む為に背部スラスターを、吹かした。
と、その時。
ゴロンと身体をうつ伏せから仰向けにしたミライガがブンと腕を振った事で、風圧によってオレは吹っ飛ばされました。
「リッカゴメンナサイ!! MPとMPカイフクヤクもキレちゃいましたーッ!」
『あー……デバフ切れですかぁ……』
背中から思い切り地面へ落ちたオレの体は、もう動かない。このままではシン・ミライガに捕食して終わるだろうが――しかし、時間稼ぎは出来た。
「遅れてすまない、リッカ」
彩斗が、その場に現れた。今は鎧を身に着けて顔も隠している。
『デート中に悪い』
「構わないさ」
変身解除したオレの手を引いて抱き寄せ、脇に抱える彩斗に、メイドが近づいて警告する。
『コラコラーッ! クエスト規約違反ですよー? もしミライガ異常種との戦闘を確認次第、何かしらのペナルティを与えますからねー?』
「では一つ問おう。例えば私がミュージアムへ帰る為に馬車へ乗り、その馬車にリッカが乗り込んだせいで追われ、それから逃げる事も戦闘かな?」
『へ? えー、それは……戦闘じゃなくて巻き込まれないようにする自衛で逃げてるだけですね。構いません』
「了解した! ミサト!」
シン・ミライガの足元を通るように。
荷台を引いた馬車が駆けてきて、オレと彩斗の眼前で、止まる。
オレを荷台へと放り投げた彩斗は、そのまま二頭いる馬の一頭にまたがり、鞭で叩いて、駆けた。
先ほどまでオレへヘイト値が溜まっていた事もあり、追いかけてくるシン・ミライガ。
しかし、草原を駆け抜け、森へと進行し、さらに森を抜けて馬車も通れそうな広いトンネルを抜けていくと、流石にそれ以上追ってこれなかったようだ。
「でもそうすると、アイツアルゴーラへ進行しないか!?」
「問題ない。何のために奴の元々住処としていた森林を通ったと思う?」
馬車を降り、ミサトさんが何やらコクーンを操作して、誰かと通信を取っている。
「アルゴーラにいる攻略組との連絡ですが、やはりミライガ異常種はダメージを回復する為に、森林地帯でそのまま睡眠を開始した模様です」
「つまり――メイド」
『はーいっ、説明しますね。アタシはキンド・メイドです。ちなみにさっきのはアタシじゃなくてクンド・メイドなので、姉妹共々よろしくお願いしますねぇ』
「最近オンドちゃん見ないなあ……」
ゴホンとわざとらしく咳をしたメイド。彼女はオレのしたい問いが分かっていると言わんばかりに、説明を開始。
『今回のクエストはミライガ異常種を参加メンバーによる討伐が必要です。この参加メンバーはリッカさんとカーラさんで固定されちゃってますので、変更は出来ませんよぉ』