璃々那アラタ-12
そして、そんな二人とは違い、今もまさに戦うリッカとマリア。
しかし、決着は近い。
既にラーディングもガルトルスも疲弊状態となり、二者も長時間戦闘によって蓄積した疲れが溜まっている。
『おう、大丈夫かマリア。彩斗とミサトが手空きだ、手伝って貰えよ』
「冗談。リッカこそ大丈夫? 息上がってるわよ?」
『バカ言え。お前と走ってる方がよっぽど疲れる』
「アタシだってそうよ」
強がる二人は、互いの力量を信じている。
しかし、先に倒すのは自分だと言う、自分自身の力量だって信じている。
――そんな二人を後押しするように。
身体が、軽くなった気がした。
疲れは薄れ、肉体もまるで羽のように軽く感じ、何だか力さえ沸き上がるような感覚に、思わず顔を上げる。
遠く離れた先にあるミュージアムから、歌声が聞こえる。
リッカは綺麗で優しく、強い歌声だと感じながら。
マリアは溢れる涙を堪えながら、コールを叫ぶ。
「アラタが最カワ――ナンバーワァンッ!!」
彼女は叫びと共に、駆けた。
先ほどとは比較にならない程の脚力で走るマリアは、ガルトルスの放つ岩石を軽々と避けつつ、そのまま地面を這うようにガルトルスの周囲を回りつつ、弾丸を撃ち込んでいく。
素早く、そして正確に放たれた弾丸は、全て岩石と岩石の隙間に命中し、跳弾する事なく挟まった。
そして弾丸が切れるとウェポンガンを上空へ放り投げ、両腕部を引き、地面を蹴った瞬間、強く打ち込む。
「プログレッシブ――ラスト・アクションッ!!」
顔面へ叩きつけられた拳。響くようにガルトルスの全身に響く衝撃。
衝撃が伝って、弾丸へと伝播していくと、弾丸が爆散していく。
結果、ガルトルスは体をズンと倒し、そのまま熱に抗う事が出来なかったと言わんばかりに、四散していく。
「アラタの力で、アタシの勝ちよ、リッカッ!!」
『今回はオレの負けか――まぁ、本当のラストを頂けるだけ、主人公っぽいから構わんか』
全装甲の隙間から一斉に噴射される蒸気。
リッカは絶叫するラーディングに向け、燃え滾る炎を抑える事無く、むしろもっと滾れと言わんばかりに強く地面を蹴り、空中で身体を一回転させると、そのまま愚直に、ラーディングの頭を目掛けて、その右足を突き出した。
炎を纏った脚部がラーディングの頭部へと叩きつけるも、しかしレイドボスとしての強度を持つそれに、なんの策も無く打ち込めば、それはただの蹴りと同じだ。
しかし、今のリッカには――何か、彼を後押しする力がある。
それを信じて、打ち込んだ一撃。
『ウ――オオオオッ!!』
全身の至る箇所から噴射されるスラスター。
それが彼の身体を押し込み、ラーディングの頭部を段々と押し込んでいく。
『プログレッシブ――ラスト・アクションッ!!』
音声コマンド。さらに威力を増した蹴りの威力に耐え切る事が出来ず。
ラーディングはそのまま顎から地面に叩きつけられ、息絶え、四散していった。
戦いが、終わる。
全員は変身を解き、リッカはその場で立ち尽くし、マリアは「疲れたぁ」と嘆きながらお尻を地面に置いて、彩斗とミサトは、耳を澄ませる。
今もなお、リリナ――否、璃々那アラタが歌う音楽が届き、その歌声はその場にいる四人の心を、傷を、癒すようにも感じられた。
「すっげぇプラシーボだな。こう言うロボットアニメあったよな、歌でやる気出る感じ」
「……いや、プラシーボでもなんでもないぞ。コレ、多分私達、バフかかってるな」
バフは、ゲーム等でプレイヤー側にとって有利なステータス上昇効果の事であり、彩斗は今四人の身体が軽い理由や、滾るように力が湧き出る理由をそう断言する。
しかし、今聞こえるアラタの曲に、何故そんなバフが適用されるのか、その理由がわからずにいると、突然メイドの一体が登場し、ニッコリと笑みを浮かべると、深く頭を下げた。
『皆さん、この度は本当にありがとうございますっ! 我々も想定していない挙動でご迷惑をお掛けする形となりましたが、何とか解決する事が出来ました!』
「もう出てないのよね? これ以上出てたら、アタシらでも流石に持たないわよ?」
「このバフがずっと消えないのなら、四人であと一体は何とか、という所かな」
『大丈夫です! プログレッシブ全体を見渡しましたが、現状はここだけしか異常挙動は出ておりません!』
「じゃあそのまま、質問いいか?」
『はい! リリナさんの歌声――ですよね?』
メイドは分かっていたと言わんばかりに、説明を開始する。
『リングの使用方法は二つです。一つはリングを「パワーアップアイテム」として使用する方法と、もう一つは「リングによる変身」を武器として利用する方法です。これは、マリアさんにアンドお姉ちゃんがお話してますよね?』
頷いたマリアの事を確認したメイドが、続ける。
『このゲームには、特定条件を満たした際に得られる【ジョブ】システムが存在します。そしてリングは、そのジョブに関する能力値を底上げするという使い方も存在するのです』
「ジョブ? そんなチュートリアルはなかった筈だ」
『ええ。何せ特定条件を満たさないと得られないモノですからねぇ。今回説明してるのも、あなた方がジョブの能力によってステータス向上効果を受けたので、説明する理由にもなるからですよぉ』
彩斗の問いへ、まるで当然だと言わんばかりに認めたメイドが、手元にチュートリアルメニューを表示した。