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璃々那アラタ-03

私は、新庄璃々那。宮戸高等学校三年一組に在籍する女子高生だ。


趣味は読書で、好きなジャンルは特にない。


啓発本だろうとライトノベルだろうと、本というより活字が存在すれば読む。


新聞なんか毎日新しい文字が書き起こされていて、三社と契約しているし、何ならもっと増やせないかを検討している。


新聞は良い。会社によって得意とするものも、書き方も異なる。書き方が違えば捉え方も異なってくるから、例えば政治だけを取ってみても出版社毎に面白いくらいに意見が異なってくる。(個人的にどう思っているかは横に置くとして)


両親は茨城の実家で暮らし、私は高校進学と同時に一人暮らしを始めた。


宮戸高等学校に進学する前、私はネットアイドルだった。


けれど中学三年の頃に色々と問題があって引退し、目立つ事も、バレる事も好ましくなかったから、本来は部活動などもしない予定だった。


だが、当時一年生の時に担任だった教師に促され、何か部活に入るように催促されてしまったので、当時三年生の女性が一人しかいなかった、文芸部に入部した。


二年生になり、三年生の先輩が卒業して、私は文芸部に一人となった。


一人では少々大きな部屋で、一人本を読む時間は、楽しかったけれど、少し虚しかった。


窓の外を見ると、いつも楽しそうに部活動に励む、私と同じ宮戸高校の生徒たちがいっぱいいる。


中には、彼氏彼女の様な関係に見える男女もいて、そんな姿を見る度に「ああ、青春してるな」と思ったものだ。


けれど、私にそんなものは似合わない。


私は、一人を選んだ。


他者と一緒にいる事が、かつてネットアイドルだったと知られる事が、また誰かに否定される事が、怖くて怖くて堪らなかった。


自分で一人になりたいと選んだ道を、選び直す事なんか出来ない。



そう思っていた時、私の前に一人の男の子が現れた。


男の子の名は、雨宮律。


一目見た時、彼を格好いい男の子だとは思ったが、特にコレと言って特別な感情は持っていなかったと思う。



「その……雨宮君は、どうして……文芸部に、入ろうと、思ったの……?」



 問うと、彼はタブレットで読んでいた電子書籍を閉じ、しばし考えたようにした後、苦笑しながら答えてくれた。



「着飾らなく言えば、静かな場所が好きなんです」


「静か……かな?」


「ええ。そりゃ、部活動の声とか、生活音は聞こえますけど、そんなのどこに居たって聞こえるんだ。


 ここは――そうですね、先輩が本をめくる音と、オレがタブレットをフリックしてめくる、何てことない音しか聞こえないし、気が向いたらこうして先輩と話す事も出来る、良い環境じゃないかって思います」


「その……それで、楽しいの、かな? 私、無口だし、ちんちくりんで、美人でもないし、雨宮君みたいな、カッコいい子は、彼女とか作って……青春した方が」


「えっと、よくわかんないけど……オレ、そういうのは別に、良いんです。今は、静かに暮らしたいっていうか……」


「その、お、男の子が好き、とか……?」


「違いますよ!? オレはヘテロラヴですっ」


「ふふ、ヘテロラヴって……異性愛者って言えばいいのに」


「先輩が変な事言うからじゃないですか、もう」



 ため息をついた雨宮君と、ヘテロラヴという彼の言い方が何だかツボにハマってしまった私の、何気ない会話。


そんな会話を、毎日ではないけれど、気が向いた時にする。


確かに、良い時間の使い方なんじゃないかって、今では思う。



「逆に先輩は、もっと色んな事して遊ばないんですか? 例えば……そう、ゲームとか」


「ゲーム、かぁ……あんまり、興味は無いかなぁ」



 この時、ゲームと言う言葉を聞いて遠い親戚ながらも良くお世話になった海藤雄一さんの事を思い出したと、雨宮君に言っていなかったなと思い出してしまうが、あまり関係のない事か。



「でも、そうだね。趣味は……ちょっと欲しい、かも」


「新しい趣味が欲しいって、なんか働いてばかりで趣味に没頭できない人みたいですね」


「わ、私最近の楽しみは本の新作位しかないもの……クラスで、何が流行ってる、とかもよく知らないし、特別知りたいとも、思えないし」


「……新しい趣味、かぁ。オレも何か作ろうかなぁ」


「雨宮君には、趣味無いの?」


「コレと言って。昔はゲームをやり込みましたけど、今は触る程度ですね」


「じゃあ、私と何か、探す?」



 それは、単なる思い付きとして発した言葉だ。


何気ない、世間話として放った言葉。


けれど、雨宮君には、少し魅力的に聞こえたようで。



「良いですね。今度暇が合えば趣味探しでもしましょっか」



 思ったよりも楽しそうに、彼が笑う。


彼の笑顔は――正直、今まで見て来たどんな人の笑顔よりも、まぶしく見えてしまった。



その理由は、今もまだ、分からない。

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