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最弱陰陽師は、自分にかけた呪いとまだ向き合えていない  作者: ふみよ
1部

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【検査入院】4

「ネコちゃん?」

「オレが、鬼道に使うって言ったんだ」


 ゴウ先輩は大真面目にそう言って僕の手から御札をむしり取る。


「何となくだけど……多分使える気がする。鬼原家は陰陽師とは無縁だけど、特別な加護を受けた家系なんだって聞いたことがある。だから、オレにもそういう力があるんじゃねえかなって……」


 そう言ったゴウ先輩は、僕の傍に腰掛けると御札を突き出して言った。


「オマエがこんな目にあったのはオレの責任だ。先輩のくせに後輩を守れにゃいなんて、先輩失格……だ」


 ゴウ先輩は悔やむように告げると、すぐに目を伏せて小さく息を吸い込んだ。

 僕も冥鬼もゴウ先輩の覚悟に圧倒されて口を閉ざす。

 しかしすぐに、ゴウ先輩が申し訳なさそうに口を開いた。


「えっと、これってどーやって使うんだにゃ……?」


 恥ずかしそうな問いかけに僕達は思わずずっこける。

 僕はポケットからハンカチを取り出した。


「あんまり役に立たないかもしれませんが……これを手に持ってください」


 ハンカチに包まれた古い翡翠の勾玉を差し出す。

 ゴウ先輩は、それを受け取ると冥鬼と一緒になって不思議そうに首を傾げる。


「これ何だ? 石?」

「僕の祖先、鬼道澄真が使っていたと言われる勾玉です」

「お、おいおい! 家宝じゃん!?」


 ゴウ先輩は慌てて僕に勾玉を返そうとした。


「いや、家宝ってほどでもないですけど……勾玉には体内の霊気を高めてくれる力があると言われています。翡翠の天然石ならば尚更です」

「そ、そーなのか……」


 ゴウ先輩がまじまじと手のひらの翡翠を見つめる。

 年月が経って、すっかり丸く削れてしまっておりただの汚い石ころにしか見えないが……ゴウ先輩はそれを大事そうに握りしめた。

 すると、握りこまれた勾玉が淡い光を放ち始める。


「ゴウ先輩はその石と相性がいいみたいですね。僕にはサッパリ応えてくれないので」


 僕はそう答えながらも、確かにゴウ先輩の氣が変わっていくのを感じた。

 勾玉の力に影響されてなのか、ゴウ先輩の氣が高まっている。


「わあ、いしがぴかぴかひかってる!」


 冥鬼が身を乗り出す。

 ゴウ先輩の体には大きな氣が宿りつつあった。


「き、急急如律令っ……」


 ゴウ先輩の唇が小さく動く。

 札を持った手が、ゆっくりと僕に突き出された。


「六根清浄」


 ゴウ先輩の口から紡がれた言葉と共に、赤い光が先輩の体を包む。

 その光が帯状に僕へ注がれ、みるみるうちに傷を癒し始めた。


「えっ、あ……もう終わったのか?」

「ネコちゃんすごーい!」


 キョトンとしているゴウ先輩に冥鬼が飛びつく。

 僕はと言えば、すっかり回復した体を起こしてズボンの裾を捲った。

 膝の裂傷も綺麗に消えている。もちろん痛みも無かった。


「ゴウ先輩……気分は、大丈夫ですか?」

「お、おう……オマエこそ平気なのか? 怪我は……」


 そう問いかけようとしたゴウ先輩が目を丸くして僕の頬を両手で挟んだ。


「はにゃっ! 傷が治ってる!」


 頬を挟まれたまま、僕が礼を言おうとすると、すかさず褒めてほしそうに冥鬼が僕に抱きついてくる。


「メイもがんばったよ! ね?」

「ああ、かっこよかった」


 そう言って冥鬼の髪を優しく撫でると、冥鬼は僕の手の動きに合わせて頭を左右に振る。


「えへへ……にゃーん!」


 冥鬼はゴウ先輩の真似をして猫のような鳴き声を上げる。


「き、鬼道、これ……返すぜ」


 おずおずとゴウ先輩が差し出したのはずっと握りしめていた御札と、勾玉だった。

 もうさっきみたいな光は放っていないその石は、僕の手に握られても何の反応も示さない。

 先祖代々受け継いできた勾玉ではあるけど、僕の前では本当にただの石ころだ。

 それは僕に才能がないってことを示している。

 一般人よりも(おそらく)霊力はあるし、ギリギリ御札を使うための力もある。

 けれど僕は陰陽師としては下の下で……一般人にちょっと毛が生えた程度の力だ。


「……ゴウ先輩は、すごいですね。初めてなのに勾玉にも認められて」


 思わず口から零れてしまった本音を取り消そうとしてももう遅い。何だ今のは。まるで嫌味じゃないか。

 僕はゴウ先輩に助けてもらわなければ傷も治せなかったし、ゴウ先輩が病室に戻ってきてくれなかったら何をされていたかも分からないのに。


「……鬼道」

「すみ、ません……」


 僕は、なんて小さい奴なんだろう。

 実力がないのは僕のせい。才能がないのも僕のせいなのに、先輩に嫉妬をするなんて。


「……帰りましょうか」


 僕は勾玉を握ったまま、小さく呟いた。


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