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 飛んできたものを手甲で弾いた。

 矢は狙いを外れ壁に突き刺さる。


「だ、大丈夫ですか!? エミリオ様!!」


「は、はい。ガイド様が助けてくれたので」


 戸惑うエミリオと、今更さっと壁になるグレイス。

 そんな彼女たちを尻目に矢を壁から引き抜いて鏃を確認すると毒が塗布されていた。

 本気で殺しにかかってきているな、暗殺者らしい。

 ようやく本番な気がしてきた。


 さらに気配がしない方向からの射撃である。

 これは部屋全体にこういうトラップが仕込まれてそうだな。


「コーサー」


「んへ? ──わっ!?」


 コーサーをトンと前に押す。

 すると、足元に糸があってコーサーは転んだ。

 その拍子に糸が切れ。

 瞬間、床がグルンと裏返しになりコーサーは落ちそうになる。


「な、何するんですかバカ師匠!」


「いや、気付いてるかなと思って」


 コーサーは驚異的な反射神経で床にしがみつき落ちなかった。

 バカ師匠とかふざけたことをいう余裕もありそうだ。

 つーか、バカ師匠ってなんだ、バカ師匠って。

 そのまま蹴落としてやらないだけマシだろうに。


「あんたが押したんでしょうが!」


「ベトコン仕込みのパンジステークか……」


「無視!? なに罠をまじまじと見てるんですか!」


 ベトコン仕込みではないが、なかなかえげつない罠を用意してる。

 掘られた穴の下にはびっしりと針がついていて、コーサーはそこまで落ちなかったものの、もう少し下待て落ちていれば、返しに引っかかってとんでもない目にあっていただろう。


「フラシカ、この屋敷には防衛用の罠が仕掛けられているのか?」


 コーサーを無視して尋ねる。

 

「いえ、そんなものは存在していません。私も驚いています」


「なるほど」


 視覚からの射撃ならば、設置も簡単だとは思うんだけどな。

 パンジステークを設置するとなると、床をくり抜いてってしなければならない。

 最初から戻ってきた時が勝負だとしていたのか、それとも。

 ……罠系のスキルが存在するかのどちらかだ。


 後者だったら狩人職やら猟師系の生産職がそういうの持っているのかな?

 罠解除とか、そういうスキルは存在するから、きっと罠作成もあるのだろう。


 ほら、湿地の向こうの砂漠とか。

 闘技大会の時にみんなで行ったダンジョンが存在するというし、それに伴って、攻略パーティの募集とか、必要スキルの洗い出しとかをやってる奴もいると聞く。


 さて、無数に罠がありそうなことはわかった。

 護衛対象を引き連れたまま、どう動くか。

 答えは一つだな。


「みんなそこを動かないでくれ」


 コーサーを引っ張り出した後、アポートで手元に寄せた手榴弾を穴にいくつか投げる。

 そして石柱を出現させ、オブジェクトムービングで穴にすっぽりはめる。


 ──ドォン!ドォン!ドォン!


「うわっ!?」(コーサー)


「はひっ!?」(エミリオ)


「もへぁっ!?」(フラシカ)


「ペピッ!?」(グレイス)


 後ろの四人がそれぞれ驚いた表情をする中。

 連鎖的爆発音とともに、いくつかの箇所の床板が外れて宙を舞う。


「よし、罠解除」


「馬鹿ですか師匠!? 家が崩れたらどうするんですか!?」


「いや、出入り口すぐ後ろだから大丈夫じゃないか?」


「一言いってくださいよ!」


「……今度からそうする」


 でもさ、壊れたっていいじゃない。

 罠だらけの家を今後も使おうと思うか?

 壊して安全なものに作り替えたほうがいいだろう。


「今度からって、今度もクソもないですよ! みんなを危険な目に合わせるのはダメですよ! まったく師匠はそういうところは直したほうがいいです! いっつもいきなり突拍子も無いことをして! フォローを入れる私の身にもなってくださいよ! っていうか心臓がいくつあっても足りませんし、ガミガミガミガミ!」


「……うるさいなあ」


「いいえ、うるさく無いです! 一度しっかり言っておきませんと! あなたはまたやる!」


 日頃の鬱憤を俺で晴らすかの様にガミガミグチグチとうるさいコーサー。

 心臓がいくつあってもとか言っているがな。

 契約魔法使ってる限り死なないでデスペナ扱いだろうが。

 まったくもう……。


「手榴弾抱えさせてそのまま突撃させてやろうか?」


「は、はい?」


「それで生きて帰ってきたら、コーサーは何かしらの達人だ」


「なんの達人ですか! それで師匠みたいになれたら苦労しませんよ!」


「まあ、生き残る達人……みたいな?」


「そ、そんな恐ろしくて格好悪いの嫌です!」


 偏に馬鹿にできないけどなあ……。

 あらゆる手段を講じて生き残ることこそ、生きる上で最重要課題だってのに。


「まあいい。冗談はさておいてだな」


「じょ、冗談に聞こえなかったんですが……」


「冗談だってば。みんな外に出るぞ」


「外? どうする気だ?」


 青い顔をしながら「冗談ですよね、冗談ですよね? ほ、本当にやる気じゃ無いですよね?」とブツブツつぶやくコーサーの後ろにいたグレイスが俺に尋ねる。


「いや、思ったより罠の数が多かった。っていうかめっちゃあった」


 床はびっしり。

 衝撃でカラカラ落ちてきた射撃系の罠もどっさり。


 これもうちょっと中に入った瞬間蜂の巣レベルである。

 よくもまあ、この量の罠を準備したもんだなって感心するレベルである。


 コーサーもうるさいに、色々と面倒くさくなってきたので……。


「故に、この家ごと爆破することにした」


 まとめで家に押しつぶされてしまえ。

 経験値になるか知らないが、俺のアイテムでキルをとったら十分だろう。

 部屋に爆発物の罠があったってことにして、それが爆発したことにすればいい。

 現に爆発物では無いが、普通の罠はたくさんあるからな。


「……いや、さすがに家を爆破するのは、どうかと思うぞ? ……いいのかフラシカ?」


「……いやその、わかりませんが……確かにめちゃくちゃ罠ありましたからね……」


 どうしたらいいか判断に困る二人。

 その間にいたエミリオが言った。


「爆破でお願いします! あれだけ罠が敷かれられて、従者も出てこないとなれば……方法はそれしかありません!」


「思い切りがいいな。見直したぞ」


「はいっ! だから弟子に──」


「──それは却下」


「あう……でも、そのアイテムを私のお小遣いから買い取ることはできないでしょうか? 護身用に役立つと思いましたんで……」


「それもダメだな」


 使い所を間違えれば両手を失うどころの騒ぎじゃなくなる。

 まあミサンガがあるから一発は耐えきれるだろうけど……うちの生産組とマフィアどもが一緒に作った手榴弾で王族が怪我したとなれば、いささかイメージが悪くなる気がした。


「ふむう……」


 頬を膨らませて残念そうにするエミリオはなんだか年相応に見える。

 少し可哀想に思えたので、ストレージから適当なものを取り出して渡しておくか。


 どれにするか、色々ありすぎて困る。

 マフィア戦の時に敵から接収したありとあらゆる暗器の類は……ダメだな。

 とてもじゃないがお姫様に持たせるものじゃない。


 ……もう使わないお古の手甲があったかな。【鎧魚の手甲】だ。


 あとは……。

 これまた上位に変えてから使ってない、自分で作ってみた【魔樫の六尺棒】か。

 六尺棒はかなり雑な作りだが、魔力との親和性が高く杖代わりにもなる。

 魔法が得意ならば、これを上げておけばいいだろう。


「これならあげれる」


「……これは?」


「俺のお古の甲手と六尺棒。棒の方は杖代わりにもなるから」


「ガイド様のですか? だ、大事にします!」


 本音を言えば折れるまで使い古して欲しいけどな。

 気に入ったんならまだ予備はいくつか持ってるからくれてやれるし。


 よし、それじゃあ家主のオッケーも出たことだし。

 さらばだ暗殺者共。バイバイ。

 大量の手榴弾を家の中にばらまいていく。

 玄関先の罠は解除されてるし、あとは適当に脆そうな柱の部分に放っておけば十分だった。


 ドォンドォンドォンドォンドォンドォン!!

 ドォンドォンドォンドォンドォンドォン!!


 花火だ花火。

 爆発物がどんどん起爆して破壊していくのを見ると、なんだか爽快な気分になるな。

 楽しくなってきたぞ。


 家から阿鼻叫喚の叫び声が聞こえてくるが、すぐに爆発音にかき消されてしまう。

 そして土煙を上げながら家屋は崩壊した。







ドォンドォンドォンドォンドォンドォンドォン!

ドォンドォンドォンドォンドォンドォンドォン!

ドォンドォンドォンドォンドォンドォンドォン!

ドォンドォンドォンドォンドォンドォンドォン!





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