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【雪巨箆鹿の対角】素材
ムーーーースの巨大で丈夫な角。
削ることでブーメランや刀剣の材料となる。
そのままゴムを渡し投石機として使うこともできる。
角を消耗することなく倒すことで稀に手に入る。
【箆鹿の肉】食材
ムースの肉。独特の香りがするが臭くはない。
赤みの歯ごたえが良い。
【箆鹿の皮】素材
ムースの皮。完全防寒。
着心地が良い。
ムーーーースのドロップアイテムだ。
どデカイ対角とか、なかなかいいものをドロップしてるじゃないの。
リバーフロッグの舌素材でバリスタが作れそうだ。
攻城兵器や専守防衛に良いかもしれんね。
「鹿肉は足りてるが……一応持っておくか」
「うむ、食料は多めにあったほうがいい」
トモガラに渡しておく。
俺は調理前の食材を持つことを禁止されてしまった。
いったいなんだってんだ?
「サスカッチよりも着やすそうな毛皮です! 私こっちにします!」
普通の鹿と比べると毛並みの艶がやや上質。
サスカッチの毛はなんというか、剛毛って感じがして、ツクヨイには合わなかったそうだ。
「そうかあ? 俺には一緒に思えるけどな」
「トモガラさんは感覚までトロール化してしまったんですね。ドンマイです」
「おいこら、誰がトロールだ」
「ぷっ」
思わず笑ってしまった。
トロールってずんぐりした巨大な化け物だっけなあ?
まだあったことないけど、鈍いイメージがあるので、ツクヨイの言葉がもっともだと思いツボに入ってしまった。
「……覚えてろよ」
「では、いきましょうか」
対角の肌触りを確かめていたモナカは、アイテムボックスにしまって再び歩き出した。
今度はローヴォの先導はない。
あの時の看板に付着していた匂いはここにいたムーーーースのものだったからだ。
「一応鹿さんを倒した後から雪が止んで多少道が見え始めて着ましたが、こっちであってるのでしょうかねえ?」
積もった雪の上をスススと体重を感じさせない動きで歩いていくモナカがふとそんなことを呟いた。
「いや、あってるぜ」
「うむ」
モナカとツクヨイの身長では、丁度道の先にある洞穴が見えないようだ。
俺とトモガラは互いに百八十センチを超えているのでこの道の先に洞窟があって何やら看板が立ててあるのがしかと見えていた。
「あれま、背が高いっていいですね」
「モナカさん、それは好みのことですか? それとも便利って意味ですか?」
「両方です」
そんなことを話しながら洞窟の前にたどり着き。
突き立てられた看板を見て、ツクヨイがため息をついた。
「……やってらんねーでーす」
随分と投げやりな反応だ。
まあ、それもそうか。
[暗闇の洞窟は視界が遮られるぞ! 光属性魔法スキルの照明系スキル、または闇属性の闇適正スキル、それか狩り人の暗視、遠視スキルがないとパズルすら解けないぞ! ちなみにここは戦闘能力じゃなく、おまえらの一番苦手分野であろう知識を試す洞窟でもある! お嬢ちゃんがいてよかったな! がんばれツクヨイちゃん!]
[うむ、ツクヨイよ。ここで戦闘馬鹿達は頼りにならん、今回はお主が頼りにされるのじゃ、期待しておる。スティーブンより]
なんと、ご指名だった。
いやそれにしても、好き放題言ってくれる。
「ほ、本当に闇の中でも活動できる私がやらなきゃいけないんですか?」
「どうだろうな」
おののくツクヨイ。
うーん、これはビビりすぎているから助けが必要だろうか。
ってか、アイテムで明かりをつければいいだろうに。
ストレージから松明、カンテラをアポート。
「うん、準備は万全だ」
これらの品物はニシトモに一通り倉庫にぶち込んである。
ストレージの制限はアップデート共に消え去った。
倉庫に入れてあるものは全て手元に引き寄せることが可能ということで、こう言った荒技ができるのだ。
「……いや、あのおまえらの師匠のことだ。通用するか?」
「切り札、移動系スキルの一部使用が認められなくなってるな」
洞窟に一歩入るとカンテラ、松明が全て消えてストレージに戻されていた。
これはどう考えてもスティーブンの仕業。
いったいどこで見ていることやらなあ……。
==スティーブン視点==
「ハモンよ、気をつけろ」
「ん? なんだよ」
スティーブンとハモンは、雪山の上から洞窟に差し掛かる四人の様子を伺っていた。
コマンドサスカッチとムーーーースを簡単に葬ったトモガラとモナカに、ハモンの興味は膨れ上がり自ずと前のめりになってしまっていた。
「入っちまったら見えないだろうが……それにしてもあの小さい嬢ちゃんはステファン(道場の師範代NPC)が言っていたとおり、とんでもない技術を持ってるな」
「うむ、それが達人と呼ばれしものなのだろう。わしらもそこから学ぶことは色々とある」
どこぞの馬鹿弟子は魔法もろくすっぽ覚えずに自分のやりたいことばかりをやり続けて、周りから一目置かれる存在へと変わってしまっていた。
スティーブンは徐々に猫かぶりをやめた馬鹿弟子の初期の頃を思い返して、なんだかものすごく懐かしく感じた。
「でもな、スキルは俺らの方が一枚も二枚も上手だってことをここいらでわからせてやろうぜ」
「スキルでは到底負けはせんが、いずれ彼らは追いつくぞ? それが手軽に強くなれるスキルの持ち味だ。わしらのいる場所まで登り上げたら、果たしてどうする?」
「……俺だってさらに上に行けばいいだろう」
「……NPCスキルがあれば、まず負けんじゃろうが……わしはいずれ師を超える弟子にそれを渡そうと思っとる」
ヒゲについた雪を撫で落としながら、スティーブンはそう言って目を細めていた。
横目でその様子を見ていたハモンは思わずため息をつく。
「耄碌したもんだな」
「若さの勢いを情熱には勝てんさ。じゃが老獪とてなかなか負けはせんぞほっほ」
馬鹿弟子の一人が速攻で卑怯な手を使ったのを確認したスティーブンは、すぐさま得意の無属性魔法の一つの極み、お得意のテレポートを使用し、馬鹿弟子の出した松明とカンテラを奪い取った。
普通他人の手持ちのアイテムを奪うことは不可能なのだが、師弟関係の称号による権限があるからこそできることである。
そしてこっそりとストレージに戻しておいた。
これで何かしらの力が働いて、アイテムを引き寄せて使うのは無理だと判断するだろう。
「雪が邪魔だ……もっと近くで……」
「こりゃいかんぞ」
身を低くしながら前に出ようとしたハモンをスティーブンは杖で引っ掛けて止める。
「おごっ、なんだってんだ!?」
「ここのラインから、出るな」
そう言ってハモンのつま先部分にスティーブンは細いビームのような無属性魔法を使い線を引いた。
納得いかない顔をするハモンに諭すように告げる。
「色々と情報を探りながら馬鹿弟子の動向を見とるが……本気を出せば百メートル超の範囲まで気配を探れると聞く。雪山に入ってからなにやらそわそわして、今まで感じていた傲慢な部分が取り払われとる、そんな気がするからまずいぞ、あんまり深追いせんほうがいい」
「なんでわかるんだ? スティーブン」
ハモンの問いに。
師匠じゃから。とスティーブンは言い放っていた。
「……まあ、警戒しておいて損はないか。負け確定イベントを生存したんだろう?」
「むしろモナカとトモガラが間に割って入らずとも時間をかければ勝てとった節がある」
「……そんなやつに俺は魔闘の次のスキルを教えてもいいのか? 手に負えなくなるぞ」
「そこは大丈夫じゃ。弟子の面倒は師匠が見る。それが世の常じゃ」
「常識はずれの師匠が同じ常識はずれのあんたでよかったぜ。でもまあ、俺も負けてねぇよ。勝つ方法はいくらでもあるからな、なんだかワクワクしてきたぜぇおい」
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「へっくし」
「どうしました? 風邪ですか? ってか風邪引くんですかローレントさん」
引くに決まってんだろう。
つっても、風邪のバッドステータスなんてないから……。
なんとなく思う。
これは噂だ。
どっかで見てる、この予感は絶対当たる。
スティーブンとハモンだな?
あとがき追加更新
活動報告にて書籍登場キャラクターのチラ見せをしとりますのでぜひ一読を。
次回寒中水泳ー(みんなで




