讐話
7月25日
昼には彼が来る。それまでに掃除・洗濯といけない。主婦のかなしい性ではないだろうか。そう思うと少し落ち込んでしまった。
「ピンポーン」
彼にしては少し早い。危機感を覚えながらも誰が見張っているかわからないので、出ることにした。
「はい、どなたですか?」
「先日の加藤です。資料のご説明にお伺いさせていただきました。」
身なりでは判断はできないが背丈や体型は彼とよく似ている。
「今開けますので少しお待ちください。」
「カチャ」
「こんにちは。以前お話した加藤です。」
「そうですか…。私に何か渡しましたか?」
「そうですね。警察内部の資料をお渡ししました。」
彼は違う人だ。なんとなくわかる。これが警察に勤めていてどんなに大切かを知った。いわゆる第6感。体型的にも彼は武道に通じているのだろう。これからどうする?
「どうしました?」
「ヒュ」
わずかな風が通り過ぎた。その瞬間に彼の上体がぶれた。そして、私の前で倒れた。
「ドサッ」
「偽物まで用意するとは思いませんでした。いささか甘く見ていたようです。」
「久しぶりですね。木田君。」
「立ち話も何ですから、家に入りましょう。後よくないニュースがあります。12時ごろになったら分かると思いますが…。」
「?」
私は疑問を浮かべながら彼と一緒に入っていった。
「分かっているかもしれませんが、このことが誰かにばれています。それは簡単な問題ではないような気がします。あなたが接触した人間には怪しい人はいなかった。そして、この家にも監視カメラなどは一つもない。」
「それはそうかもしれないけど、どこからかばれたのかもしれないわ。盗聴器とかも最近は発達しているし、隠しているのかもよ。実際に今のこの行動もどこかで見られているのかもしれないわ。」
「それはない。」
「なぜ?」
「ずっとあなたの家を監視していたからだ。あれから10年。いやあなたをと言ったほうがよいのかも。」
「何を言っているの?あなた、ストーカー?警察呼ぶわよ。」
「まあ、呼んでくれてもよいですが、話を聞いてもらいたいですね。」
「何の話かな?」
「あなたは警察をやめさせられましたね。」
「よくご存じで。」
「あなたは10年前の事件に関わっています。それは確実にあっているとは思いましたが…、どこまでかかわっているのですか?」
「私もここまでだね。」
「何を?」
「ゲホゲホ。」
木目のリビングに赤い液体がみるみる広がっていった。
「こういうことでしたか。私に罪を着せるためにあなたは私と接触を続け、10年前のことについて話させると同時に我々の目的を聞き出そうとしたんですね。しかし、我々はそんなことでは止まりませんよ。ここにある起爆装置もすべて解除させてもらいました。勝つのは我々です。」
「ふっ、そんなに簡単にはいかないわよ…。」
「ドサッ」
また一人死んだ。
警察は何を考えているかは分かっているが手口が汚い。
ここで歩みを止めるわけにはいかない。
正文は携帯を開いた。
12時、俺は恵さんの家に着いた。重要な話があったからだ。彼女が狙われている可能性があるのが分かった。それは“セブン”ではなく身内である“警察”であった。最近は多くの凶悪犯罪が増えていた。実際には報道規制が敷かれ、一般の人は知らないかもしれないが、裏の町では噂になっている。どれもこれも100人単位で人が殺されている。なぜ初めて見つけるのが警察なのはよくわからないが…。
それには特徴がある。殺されているのはお年寄りだ。特に身寄りがなかったり、もしくは1人暮らしだったり…。発見するのが遅れるのは原因であるが、実際にはその遺族の人たちに報道規制を伝えるのが非常に困難なことになっている。
今の事件には関係ないかもしれないが、裏の世界では“セブン”の仕業だと言われているが、誰も実態を知らないのだ。
裏のさらに裏の世界にはびこっていることは関係者は知っていて、警察も知ってはいるが、跳ね返りが大きいことを懸念してあまり踏み込んでいない。
調べないことにはどうにもできないのだが、死ぬのは惜しい。そこで警察が頼んだのが“セブン”だった。裏の世界のドンと言われていた彼らはすべてのことをしりつくし、そして調べるのも得意ということで警察が依頼したのだ。
その金額によって今のような問題になったようであり、その金から“セブン”は今のような動きを見せているという。
そんなことより恵さんが危ない。
俺は家のチャイムを鳴らした。
しかし、反応がなかった。
いやな予感がする。俺は家のドアを開けてみた。
あいている。
俺は銃を準備した。
リビングに入った。
そこにはたくさんの血がたまっていた。
おそらくは生きていないだろう。
しかし、そこには死体がない。
俺は携帯を開いた。
7月29日
立て続けにテロがおこった。
もちろん、全く被害者は出ていないが、47都道府県ですべて起こっていて、それと同時に“セブン”がそれぞれの都道府県に在住していることが分かった。警察はこれに対して警戒態勢をとった。あらゆるところで検問が設置され、“セブン”を確保しようと躍起になった。しかし、“セブン”の幹部は分かっているものの、一般人までは分かってはいない。構成人数は3000人を超えているという情報もある。
問題は幹部の七人のうちの一人が誰かわかっていないことだった。
「山岸恵は消されたのか?」
「ええ…。あの血の量では助かってはいないと思います。」
「調べることはできないのか?」
「調べるには多少なりとも犠牲が伴うかもしれません。無線ではあそこの家を“10年間”も監視していたようです。」
「分かった。引き続き取り締まりを徹底しろ。もし、捕まえたなら尋問しても構わん。この事態にはアメリカのほうも乗り気だ。テロがアフガンのほうにつながっていたら日本をまきこむことができるからな。」
「そうですね。それだけは避けたいところですね。」
「ああ、もしかしたら10年前の真相を知っていたらまずいからな。まあ、そういうことだ。何が何でも証拠を見つけ、拘束しろ。それができなくてはアメリカのほうから派遣が来るだろうな。いやもう来ているのかな…。だとしたら、やばいことになっているね。」
プルルルル
部屋に電話の音が鳴り響いた。
マスコミは困惑していた。なぜならすべての情報を公開する前に警察に届けなくてはならなくなったからだ。報道規制が厳しすぎる。これでは戦前のようになってしまう。そう思っていたときに電話がかかってきた。
8月1日
ついに“セブン”の構成員が捕まった。
警察内で激震が走った。今まで構成員が発表されていない中でのこの逮捕は幹部であることは明らかであった。逮捕したのはメリファという外国人であった。捕まえたのは真田だった。これも警察関係者には疑問だった。一回裏切ってしまえばもう2度とその組には戻れない。警察内部は調べが終わったか、もしくはばれたかどちらかである。
「今から、会議を始めようと思う。今回は秘密捜査を大規模に行う。今ここにいるのはおよそ一万人。この重大さはご存知かと思う。作戦はローラー作戦だ。」
この会議は午前1時から始まり、翌日の午前1時まで続いた。
8月2日、一万人を超える遺体が樹海で発見された。
ここで警察は重い腰を上げた。謎の集団が大量殺人を企てているということがマスコミを通じて発表された。
今までよかったはずの治安は最悪になった。何より一般人の暴徒化が急速に進んでいった。国際連合もこの状況を踏まえ、国連軍を派遣しようとしたが、一般人に隠れている犯罪者はさばきようがないということと中国、ロシアが拒否権を発動させようとしていたので、まずアメリカと韓国、そしてイギリスが名乗りを上げ日本の自衛隊と合流した。日本はこれに合意したが命は保証できないと発表した。
警察や自衛隊、多国籍軍によって治安は回復されたかに見えた。
8月15日、ここから悪夢の3日間が始まるとはだれも思わなかった。
8月16日
警察幹部が恐れていたことが起きた。それは広島に生物兵器が使われた可能性があるということだった。被害は20万人とも言われている。新型のインフルエンザを独自に改良したソ連の生物兵器である。従来のインフルエンザとは違い、感染して1日目で他の者に感染するようになり、40度を超える熱が5日間続く。
「広島は壊滅。自衛隊、警察ともに入ることができません。広島県を全域封鎖しています。今回の事件は警告です。先日起こったテロはすべての都道府県で起きています。それを踏まえたうえでいえば…。」
「被害はどのくらいになりそうだ?」
「統計によりますと…7000万人です。」
「上村長官!いつからここへ。言ってくだされば迎えに行きましたものを。」
「いい。今は緊急事態だ。顛末は聞いた。おそらく相手は俺たちの謝罪を求めているのだろう。実際に今回のもそこまで被害がひどいとはいえない。東京に巻いていたのであればおそらくこの10倍はなくなっているだろう。しかも地域封鎖を“セブン”行っていたというではないか。警察も形無しだな。」
「……。」
「今からは俺が直々に指揮を執る。まずは調査員を派遣しろ。岡山、鳥取、島根、山口から派遣し、そこからの結果を待て。他県には警戒態勢を敷き、この2日間の県外への移動を禁止する。」
「そんなことしたら経済が「人の命よりも経済が大事か?」
「………。」
「皆動け。」
ガタッガタッ
皆が退席した後で彼は笑みを浮かべていた。
正午、
「計画実行。各隊隊長の指示に従え。検討を祈る。」
山岸昇は各県の情報をまとめていた。実際にはセブンの情報なんて来ないのだが…。早い話が前の事件で取り逃がしたので捜査員から外されたのだった。警察をやめて単独行動をしようとも考えていたが各県への移動ができないのならやめるよりはここにいたほうが情報がたくさん集まるだろうことは簡単にわかる。
「息抜きでもするか…」
そういって彼は玄関へ下りて行った。
「恵さん?どうして…死んだはずじゃ…」
あの大きな箱は?まさか…。
「待て、そこの女。今すぐその箱から離れろ。」
玄関付近の警察官が固まった。
彼女は確かに笑ったように見えた。
彼女は携帯のボタンを押したところその箱から白い煙が出始めた。
警察とはいえ、皆命は惜しい。
我先にと逃げようと出口に向かう。
ついに警察自体が混乱し始めた。
そこに長官の命令が響いた。
「今外に出たら民間人に被害が及ぶ。全員中に入れ。外気をなるべく入れ替えないように。」
それに合わせたように自衛隊がマスクをかぶった状態で突入してきた。そして出口を封鎖。警察関係者はここに監禁されることになった。
山岸は違和感を感じていた。まさに合わせたようだった。それに恵もここにはいない。
しかし、この日は他の県では動きはなかった。
その夜の犠牲者は2000人。熱を出しているものも含めると徐々に警察が機能しなくなっている。
山岸は必死に原因を探していたが証拠はなかった。
8月17日
自体が一変した。民間人と“セブン”が連合して県を乗っ取ったということだった。北海道、沖縄、鹿児島。この四県が事実上、確定的だった。警察内部でもこれに対しても変化が出てきた。“セブン”に屈してでも民間人を守ろうとする派と正義を貫く派に分かれてしまった。長官は前者のほうに傾いていた。
そこに電話が入ってきた。木田正文が降伏を呼び掛け、こちらに出向いてくるということだ。内部の対立が激しくなったのは言うまでもない。その状況を踏まえて電話会談ということになった。
正午。秘密裏に電話会談は行われ“セブン”に全権を委任することになった。
しかし、ここで事件が起こった。
木田正文が警察庁に来たのだ。
「何の用だ。」
「少しやりたいことができましてね。どいてくれませんか、山岸さん。」
「そうはいかんな。」
「言ってください。木田さん。我々が支援します。」
「真田。何言っているのか分かっているのか。」
「分かっていますよ。ここで足止めして内紛にでもしますか?」
「クソッ。」
「心配ですか…ならばこうしましょう。あなたと真田がそれぞれ警護に就けばいい。」
「それで構わん。」
「長官…。」
「要求していたのはほとんど我々だった。だからここでの話し合いは意味がある。山岸ここは押さえろ。しかも、弟は我々が殺したのだ。」
警察庁内部の人間は3割ほどになっていた。
「どういうことですか?木田が殺したということになっていたはず…。なぜ今頃?」
「分からないか?俺たちが守っていたのは警察の威信ではない。守っていたのは生物兵器の流出を恐れただけのことだ。資料から発見したのはおそらく可能性だっただろうが彼の実績から見て見つけるのは明白だった。」
「そんなことのために…。あなたたちは一体何人の人を犠牲にしたら…。」
「もう遅い。これから話し合うのはワクチンだ。」
「話がお分かりなったようで楽です。もう別室で話しましょう。」
「少し待ってくれないか?山岸と話がある。」
「まあ、いいでしょう。」
「山岸、俺からの最後の頼みをきいてくれないか?木田も想定内だと思うが…。」
「しかし、そんなことは…。」
「木田は真のリーダーではない。それは真実だ。だからこそこのやり方が通用する。」
「…。」
「警察を…。日本を頼んだ。」
「事件を整理しましょうか。」
「する必要はないだろう。」
「そうですね。これから日本に対する統治についてです。お読みください。おそらくこの通りになると思います。」
「カチャ…。」
「恵さん…。どうしてここに…。来なければ…。」
上村が頭を下げた。
「すまなかった。しかし、秘密を守るにはこうするしかなかった。」
木田も頭を下げた。
「すまない。俺の父が迷惑をかけた。」
「!!!!!」
「親子そろって屑が…。実の娘を殺し、まだ殺し足りないのか。私にとってはお前らは死に値する。ここで死ね。」
「恵さんやめるんだ。」
「この2人を殺して何になる。」
「「黙れ」」
あまりの迫力に真田も山岸も押し黙ってしまった。
「復讐の連鎖はここで止める。いいな。親父。」
「ああ。7人でうまくやってくれ。」
「七人?どういう…」
2人は自分で持っているピストルを取り出して頭に当てた。
「「やめろ」」
「「パキューン」」
木田と上村はピストルの引き金を引いた。
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