表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
80/91

幕間 藍川視点。


 幕間 藍川視点。


 ユーチューバーが9問先取した。

 スコアボードに刻まれていく数字を、私は、他の生徒たちほど、慌てて見てはいなかった。


 周りは、悲鳴に近いどよめきを上げている。


「え、蝉原勇吾、よわ……」

「もしかして、口だけで、大したことない?」

「蝉原、だせぇ」


 バカばっかりだ。

 ――総長が、あのユーチューバーにハンデをあげているってことぐらい、気付いてもよさそうなのに。


 私は全部わかっていた。

 だから、そのあとの鮮やかに逆転していく光景を見ても、

 私は、特段、『すごい』とは思わなかった。


 総長なら、当たり前。

 驚いている連中はみんな猿以下のバカ。


 ★


 景品の紙袋を提げて、総長が、こちらに戻ってくる。


「……お疲れ様でした」


 私は、それだけを、簡素に返した。

 感情を、そのまま剥き出しにしてしまったら、

 多分、私は、総長に抱きついてしまう。


 それは、いけない。

 私ごときが、絶対に、やってはいけないことだ。


「これ、あげるよ」


 そう言いながら、総長は、景品の高級文房具を、私に差し出してきた。


「……いただけません。もらう理由がないので」


「初デート記念」


「……」


 頭の中が、真っ白になった。


 初、デート。

 その二文字が、脳の中を、何周も駆け巡っていく。

 顔の筋肉が、勝手に、緩みそうになるのを、必死に力ずくで押しとどめる。


 ――だめ。

 落ち着け。

 深呼吸。


 そう自分に言い聞かせていたところで、総長のポケットで、スマホが震えた。


「もしもし」


『総長……カイが、気絶しました』


 夜間さんの声が、うっすらと、こちらまで聞こえてくる。


「水、ぶっかけて、たたき起こせ」


『承知しました』


 電話は、それだけで切れた。


 ――ちょうど、よかった。


 おかげで、どうにか、自分を律することができた。

 あの電話が、もう少し遅かったら、私は多分、爆発して総長に抱きついていた。


 あぶない。

 本当に、あぶなかった。


 ★


 日が暮れて、校庭では、キャンプファイヤーが焚かれていた。


 オレンジ色の炎が、パチパチと爆ぜる音を立てながら、揺れている。

 少し離れた場所に立って、その炎を、二人で眺めていた。


 とんでもなく、ロマンチックだった。


 産まれてきて、本当に、良かった。

 この日のために、私は、産まれて、そして、生きてきたんだと思う。


 炎を見つめたまま、総長が、ふと、口を開いた。


「君が殺した三人……調べたよ」


 その一言に、体が、少しだけ、強張る。


「……そうですか」


「三人とも、すごいねぇ。口に出すのもはばかられる変態ばかりだ」


 総長は、それ以上、詳しくは語らなかった。

 私も、あえて、それ以上は、何も言わなかった。


「調べてわかったけど……君は、子供に危害を加えるタイプの人間が、嫌いみたいだね」


「……たまたま、知ってしまって。どうしても、我慢が、できなくなって」


「この俺に対し、殺人の言い訳をする必要はないよ」


 炎の明かりが、総長の横顔を、赤く、照らしている。


「三人とも、不起訴になった連中だ。警察では、どうしようもなかった。罰を与えるには、私刑しかなかった。……そして、私刑が正しいかどうかを論じる気は、俺には一切ない」


 一拍、置いて。


「大事なのは、君が殺さなければ、今頃、その三人は、十人以上の子供に、危害を加えていただろう、ということだけだ」


 炎の音だけが、しばらく、二人の間を、埋めていた。


 そこで、総長は、私の頭に、そっと手を伸ばし、優しく撫でた。


「この社会は、君を褒めないだろう。警察も、弁護士も、教師も、君の家族さえも、誰も、君を、褒めはしない」


 燃える炎に照らされた、総長の目が、


「だから、せめて、俺だけは、褒めてあげよう」


 まっすぐ、私だけを見ていた。


「――よく頑張った。偉いね」


 その一言で、私の中の何かが、静かに、決壊した。


 誰にも認められなかった十六年間。

 誰にも褒められたことのなかった、私の全部。


 それを、この人だけが、たった一言で、肯定してくれた。


 炎が、爆ぜる。

 私は、その光を見つめながら、必死に、涙をこらえていた。


 ――今、ここで泣いたら、絶対に、抱きついてしまうから。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
洗脳完了
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ