↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
48/91

8話 『蝉原』VS『闇の秘密結社』。


 8話 『蝉原』VS『闇の秘密結社』。


(蝉原……そのロイヤルガーデンって、なに?)


要人御用達ようじんごようたし老舗しにせ暗殺者組織だよ)


 蝉原は、心の中で、僕に説明してくれた。

 ようするに、大統領とか、会社の社長とか、地位の高い人を暗殺するための組織。


(前に話した、300人委員会。その傘下にある秘密結社、リアルクラブ。……その中の、暗殺部門が、ロイヤルガーデンさ。こういうと、末端の組織に聞こえるけど、この世界に存在する暗殺者組織の中では、トップ5に入る超大手だね)


 すごいこと言っている。

 どうやら僕らは、今、世界最高クラスの暗殺者組織に狙われているらしい。

 ハリウッドの大作映画みたいだ……


(前回、俺が、ジャッカルとピンフを共食いさせただろう? その復讐、ってところだろうね。そろそろ『上』の連中が、何かしら送ってくると思っていたけど……かなりの上澄みを送ってもらえて、なんだかちょっぴり誇らしいね。それだけ高く評価してもらえたということだから)


 相変わらず呑気だ。

 世界最高峰の暗殺者組織に狙われているというのに。

 この男が動揺するということはあるのだろうか。

 ……ないんだろうなぁ……

 明日地球が終わります……と聞いても、半笑いで悪事をしていそう。


「現段階だと、君たちのような大きな組織は、あまり敵に回したくないんだよね」


 蝉原は、男に向けて、そう呟いてから、


「というわけで。君のところのボスと、交渉することにするよ」


 そう言って、男のジャケットに手を伸ばした。


 内ポケットを漁ると、薄型のスマートフォンが出てきた。

 予想通り、画面には、ロックがかかっている。


「指を、借りるよ」


 蝉原は、動けない男の右手を取り、その親指を、画面に押しつけた。

 あっさりと、解除される。


「プロが、指紋認証とは、感心しないね。静脈認証ぐらいに、しておかないと」


「する必要がない」


 端末の中身は、徹底的に、削ぎ落とされていた。

 連絡先は、ゼロ。

 通話履歴も、消去済み。

 インストールされているアプリは、暗号化メッセージアプリが、たった一つだけ。


「なるほど……几帳面だね」


 蝉原は、そのアプリを開きながら、


「でも……」


 メッセージ本文は、すべて、削除されている。

 けれど、通知の残滓が、キャッシュに、わずかに残っていた。

 送信元のIDらしき、英数字の断片。

 蝉原は、それを、メモに書き留める。


(それ、なにか意味あるの?)


(あるとも。……犯罪AIのデータベースには、龍星会の情報屋が数年かけて集めた『裏社会の取引履歴』が、山ほど蓄積されている)


 蝉原は、指を、素早く動かしながら、


(依頼者、仲介者、受注者。……その三者の間を流れた、金の痕跡。そこに、さっきのIDの断片を、照合させる)


 数分で、候補が3件に絞られた。


「古い組織ほど、金の流れは、残りやすいものでね」


 蝉原は、画面を見つめながら、男に向かって、


「君たちの組織は、かなり歴史があるよね。……無駄な伝統は足かせにしかならない。けど、やめられないんだよねぇ。人ってのは」


 三件の候補を、蝉原は一つずつ、指でなぞっていく。


「これと、これは……普通に、よくある海外送金の記録だね。ハズレ」


 二件を、あっさりと切り捨てる。


「残りの、一件」


 最後に残った送金記録は、聞いたことのない地味な資産管理会社の名義を、経由していた。


(……この会社)


 蝉原は、画面を睨みながら、


(表向きは、なんの変哲もないペーパーカンパニーだけど……この会社への出資者を辿ると……ああ、なるほど。『ヤタガラス』か……となると、依頼主は『山本』あたりかなぁ……)


(ヤタガラス?)


(都市伝説みたいなものでね)


 蝉原は、心の中で、僕にだけ説明する。


(自衛隊の中に、国会の承認を経ない、非公式の別動部隊がある……なんて話を、聞いたことないかい? あれの、もう少し裏側にいる版だと思ってくれればいい。表向きは存在しないことになっている、政府系の汚れ仕事担当)


(そんなのが、実在するの……?)


(そういう組織をもたない国なんて、存在しないんじゃないかなぁ)


 蝉原は、淡々と続ける。


(この会社から出た金は、一度、ヤタガラス名義の口座を経由して、洗浄されたうえで、リアルクラブに流れている。……政治家が、直接、海外の暗殺組織に金を払うのは、あまりにもリスキー。だから、こういう時のために、ヤタガラスみたいな『表に出ない中継役』が、重宝される」


 蝉原はスマホを操作しながら、 


(そして、このヤタガラス経由の送金の行き先。依頼料の着金確認に使っている連絡窓口。この口座に紐づいている連絡先候補は……3つ。どこまでも用心深いねぇ。感心、感心。この国の暗部もなかなか出来がいい)


 褒めている場合かなぁ……


 そこで蝉原は、男に向かって、スマホを見せて、


「この番号にかければ、あなた方のボスが出る。……合ってます?」


「……」


「わずかに、目が動きましたね。こちらとしては、まだ3択だったんですけど……やっちゃいましたねぇ」


「……」


「いくら訓練しても、俺という異常を前にすれば、かすかな動揺を隠せない」


「……」


「そこらの雑魚では見通せない、わずかな揺らぎ。……俺は、それを見逃さない。なかなかの洞察力だと、思いませんか?」


「……殺せ」


 男が、低い声で、そう言った。

 取り返しのつかない失態を命で償う……みたいな顔。


 そんな男に、蝉原は、


「申し訳ありませんが」


 にっこりと微笑んで、


「あなたを殺すのは、あまりにも不利益だ」


 そう言いながら、蝉原は、彼の口の中にハンカチを押し込んだ。

 舌をかまれないように……ってことかな?



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
ヤタガラスやリアルクラブといった国家や世界の裏が絡み合うスケール感、最高にワクワクします!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。