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31話 ルールを持つ者の理屈。


 31話 ルールを持つ者の理屈。


 懲戒請求の結果は、思ったよりも早く出た。


 龍星会の顧問弁護士から届いた一枚の書面。

 会議室に集まった幹部たちの間に、重い沈黙が落ちる。


「……却下、ですか」


 誰かが、ぽつりと呟いた。


 書面には、紹介料の不正受領自体は事実と認められる、としっかり書かれていた。

 その上で、こう続いていた。


『本懲戒請求は、進行中の訴訟において、対象弁護士の活動を妨害する目的で、反社会的勢力(龍星会)が背後で主導したものと認められる。よって、当該請求は権利の濫用にあたり、内容の当否にかかわらず、これを却下する』


 権利の濫用。

 たとえ事実であっても、それを行使する目的が不当であれば、その権利自体が認められない。


「おいおい、待ってくれ。事実だって認めてるのに、なんで却下されるんだ……?」


 幹部の一人が、納得いかない様子で声を荒げた。


「正直、よくわからんが……とにかく、鷹宮は何かしらの違反をしてんだろ? なのに、なぜ、おとがめなしなんだ?」


「その気になれば、ヤクザの言い分など簡単に踏みつぶせる……ということでしょうねぇ」


 答えたのは、蝉原だった。

 その声には、怒りも焦りもない。


 今回の弁護士会からの返信は、ようするに『私達はとっても偉い弁護士様だから、ヤクザごとき言う事なんか無視だもん!』ということ。


「蝉原! どうするんだ!」


「さて、どうしましょうかねぇ。こうなると、お手上げですねぇ」


 幹部たちの顔に、明確な動揺が浮かんでいる。

 今まで、どんな抗争でも、蝉原がここまで分かりやすく追い詰められたことはなかった。


 やはり、流石の蝉原でも、国が相手だと、何もできないのだろうか……


 ★


 その夜。

 自室のベッドに寝転がりながら、僕は、心の中で蝉原に尋ねた。


(……よくわからないけど……この現状は……シンプルに負けたってこと?)


 不安だった。

 今まで無敵だと思っていた男が、初めて、何もできずに踏みつぶされたように見えた。


「ルールの上では負けたねぇ。ヤクザは国に勝てない」


(じゃあ、なんでそんなに落ち着いているの?)


「ふふ……なんでだろうねぇ。負け惜しみかもね。ヤクザっていうのは、どんな時でも不敵に笑っていないといけないからねぇ。いわゆる一つの見栄ってやつだよ」


(……)


 ★


 三回目の対面。

 応接室に呼びつけられた蝉原。

 鷹宮は、勝ち誇った顔で迎えた。


「おやおや、惨めな負け犬くんじゃないか。申し立てはあっけなく棄却されたようだな。かわいそうに。やはり貴様では、猿山の上でふんぞり返るのが精々だった様子」


 煽られる。

 けれど、蝉原は、薄く笑っただけだった。

 それはただの矜持なのか、それとも……



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― 新着の感想 ―
お手上げですねぇの裏で何を考えているのか…… 蝉原さんの底知れなさが怖くて最高です!
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