表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

25/25

24話 巻き起こせ、嵐!


 24話 巻き起こせ、嵐!


 逃げるように、スタジオをあとにした。

 あれ以上、あそこにいたら気が狂うと思った。


 外に出ると、見慣れた黒いランボルギーニが停まっていた。

 窓が下りて、愛羅が顔を覗かせる。

 後部座席には凪。


「え、待ってたの?」


「今日も総会やるんでしょ? 送っていく」


 有無を言わせない口調。

 毎週金曜の予定だったが、相談者の数が多すぎるので、出来る限り開催することになった。


 断る理由もないので、おとなしく助手席に乗り込む。

 セフィアさんも、普通についてきているけど、どうでもよかった。


 走り出してしばらく、信号待ちのタイミングで、

 愛羅がふと、こちらを見た。


「? スタジオでなにかあった? 顔、暗いけど」


「……そう? 大体いつも、こうじゃない?」


「……」


 追及はしてこない。

 ただ、納得していないことだけは伝わってくる沈黙だった。


 窓の外を流れる景色を眺めながら、僕は思う。

 こういうところ、愛羅は変に鋭い。

 言葉にしないだけで、ちゃんと見ている。


 凪も空気を読んで黙っている。


 信号が青に変わって、また車が走り出した。

 気まずい沈黙だけが、車内に残り続ける。



 ★



 ディアブロコミュニティの本部、旧ショッピングモールのシアターホール。

 総会の会場に入った瞬間、僕の身体から力が抜けた。


 いつも通り、蝉原が僕の体を奪った。

 蝉原の中で、蝉原の行動を見届けながら、僕は、


(……蝉原はすごいね)


 心の底から思ったことを口にした。

 蝉原は、


「君もすごいさ」


(いい嫌味だね)


「今の俺のセリフに、嫌味は一つも入っていない」


(……)


 ★


 蝉原は、いつも通りの顔で、いつも通りの声で、

 集まった配下たちの願いを次々とさばいていく。


 縄張りの揉め事。

 借金の取り立て。

 エトセトラ、エトセトラ。


 いつもの光景。

 いつもの裁定。

 誰もが頭を下げて、誰もが満足して引き下がっていく。


 そして、最後の一人。


「次で最後だな。……ハリケーンの夜間、前へ出ろ」


 愛羅がマイク越しにそう告げると、

 壇上の前に、一人のでかい女が進み出てきた。


 ハリケーンという暴走族チームのヘッドらしい。

 チーム名がとにかくダサいけど、その辺は言い出したらキリがないからやめておく。


 身長は愛羅超えの180センチ。

 金髪のショートカットはザンバラで、手入れをする余裕なんてなかったのだろう。

 服の隙間から覗く肌は、全身傷だらけ。

 殴り合いの果てに刻まれた、生きてきた証。


 夜間は、不敵な笑みを浮かべたまま、蝉原の前に立つ。


「俺はあんたに、何もやってほしいとは思ってない。願いは一個だけだ。俺とタイマンはれ。どっちが上か決めようぜ。俺はあんたより強いよ」


 大胆不敵な物言いに、会場が一瞬で沸騰した。


「クソアマ、てめぇ、殺すぞ、ごらぁあ!」

「総長に向かって、なんて口の利き方だ、ぼけぇ!」


 あちこちから怒号が飛ぶ。

 ひときわ切れているのは、やはり凪。


「メスブタ、ごらぁ! 臓物を引きずり出してオスブタのエサにしてやろうか、生ごみ、ごらぁあ!」


 今にも飛び掛かりそうな顔で夜間を睨んでいる。

 凪も滝本も、どうして、そんなに口が悪いの?

 僕の中の女の子像をぶっ壊しまくるの、いい加減にやめてくれないかな……


 そこで、蝉原は愛羅に目配せした。


 愛羅は一度頷いてから、


「黙れ、ガキどもぉおお!!」


 その一喝で、会場が水を打ったように静まり返る。


 静寂の中、蝉原は、愛羅から渡された資料に目を通しながら、


「ずいぶんとステゴロに自信があるようだね。本名、夜間やま嵐詩あらし。孤児院育ちの我流ストリートファイター。愛羅と見事に真逆だね。……『今まで誰にも負けたことがない』……『1対20のケンカでも勝ったことがある』か。へぇ、すごいじゃないか」


「俺はあんたみたいなチビの下でくすぶっていい女じゃない。俺が勝ったら、あんたがもっているもの、ぜんぶもらう」


 夜間は一切の揺らぎもなく、そう言い切った。

 その目には、ハッタリの色が見当たらない。

 本気で、自分が一番強いと信じている目だった。


「そうなると、俺が勝ったときは、君が持っているものを全部もらうことになるけど……大丈夫そう?」


「負ける可能性はゼロ以下で笑止。あんたはヤクザがバックにいるだけのモヤシ。俺は本物の嵐。別次元のフライ。ドープな暴風、クールなフロウ。俺以外に誰が立つ? 悪魔を背負うコミュニティのトップ」


 なんで急に韻を踏みだしたのか分からないけど、とにかくすごい自信があることだけは伝わった。


 会場の空気が、再びピリつき始める。

 誰もが、蝉原が次に何をするか、固唾を呑んで見守っていた。


 蝉原は、にっこりと笑って、


「ウェイヴィーとは言ってあげられないけど……いい尖り方はしているね」


 その笑みには、怒りも焦りもない。

 ただ、面白いオモチャを見つけたような、純粋な愉悦だけがあった。


「……いいよ。では相手になろう……気室がね」


 会場が、しん、と静まり返った。


 壇上の隅。

 今日の記録係として、蝉原の裁定を黙々とメモに取っていた気室が、ペンを止めて顔を上げる。


「ぇ、あ……俺っすか? え、マジっすか? いや、あの、総長……俺なんかじゃ、あのレベルのチンピラには勝てないっすよ」


 指を二本失ったあの日から、すっかり大人しくなった気室(ちなみに、すぐに治療したから指はくっついていて、普通に動いてもいる。傷跡がちょっと目立つぐらい)。

 今では立派なディアブロコミュニティの使いッパシリ。

 昔、僕に偉そうな態度をとっていた頃の面影は、もうどこにもない。


 夜間は、鼻で笑い飛ばすように肩をすくめると、


「ゴミ掃除は時間の無駄だ。逃げるなよ、蝉原。覚悟を示せ。男だろ」


 その言葉に、会場の空気がまたピリつく。

 今度は、配下たちの怒号は飛ばなかった。

 誰もが、蝉原がどう返すのか、それだけを見ている。


 蝉原は、相変わらず、ニコリと微笑んだまま、


「ゴミ掃除ぐらいやってくれよ」


 淡々とした声だった。


「俺は別に君と戦わなくてもいいんだよ? 20人相手に勝てるのは大したものだけど、ここにいるのは数千人だ。一人で全員倒せる?」


「……」


 夜間が、初めて、言葉に詰まった。

 いくらなんでも、流石に一人で数千人は不可能。

 囲まれたら何もできずにボコボコにされる。


「気室を1分以内に倒せたら相手になってあげるよ。ただし殺しちゃだめだよ」


 そう言ってから、蝉原は気室へ目を向けた。


「気室。1分以上耐えてみな。そうしたら、コミュニティから抜けていいよ」


 会場が、ざわめいた。

 誰も予想していなかった条件。

 気室自身も、ぽかんとした顔をしている。


「いや、あの、総長……俺、別に抜けたくないんすけど……」


 その声は、思いのほか、はっきりとしていた。

 卑屈に許しを乞うような声ではなく、ただ事実をそのまま言っただけの声。


 蝉原は、わずかに目を細める。


「あ、そうなの? 俺が怖くて、仕方なくパシリやってんのかとばかり……じゃあ、どうしようかなぁ。1分以上耐えたらキスでもしてあげようか?」


「こ、光栄ではありますが……べ、別に何もいらないっす」


「あっそ」


 興味を失ったように、蝉原は視線を外した。

 気室は、慌てたように、戦闘員らしい構えもなにもないまま、ただ夜間の前に進み出る。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
夜間嵐詩が急に韻踏み出して笑った
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ