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1話 悪神降臨


 1話 悪神降臨


 今日、僕は、本気で死のうと思って学校の屋上に向かった。

 強い風が吹いている。

 下を見て、絶対に死ねると思った。

 その時、僕の脳内に、謎の声が響く。


(君の脆弱さは称賛に値する。契約しよう。君の人生を半分くれたら、俺の人生を半分あげよう)


 幻聴か悪魔の声か、わからないけど、僕は一番大事なことを尋ねる。


「……その契約を結んだら……僕は『普通』の人生を送れる?」


(極上の未来を約束しよう)


「……普通でいいんだけど……理想で言えば、ヒラの公務員とか……」


(それは叶わない。俺が動けば――否応なく世界が瞠目する)


 僕に契約を持ちかけたのは、『宇宙一のヤクザ』を自称する悪魔。

 彼の名は、


 ――蝉原勇吾せみはらゆうご


 ★


 翌日、僕は学校に向かった。


 行きたくはなかったけど、昨晩、蝉原と色々と話し合って、

 もう少しだけ生きてみると約束したので、一応。


 教室に入ると、最初に、いじめっ子たちが僕を見て笑った。

 いつもの底冷えする目。

 僕をオモチャと思っている目。


「お前、すごいな。よく、まだ学校に来れるな」


 そう言いながら、クラスカースト1軍のリーダー『気室きむろ』が僕の方に近づいてくる。

 逃げ出したいと心から思った。


「昨日の今日なんだから、自殺するか、不登校になるかどっちかだろ。なに、普通に登校してんだ。ムカつくわぁ」


 そう言いながら、僕の頬をビンタした。

 あいさつ代わりの一発。


 痛みで涙が出てきた。


「なんで、そんなイラつく顔できんだよ。まるで俺が悪いみたいじゃねぇか。言っておくけど、悪いのはお前だから。キモすぎんだよ、お前。ゴキブリ以下」


 そこで、この学校で一番の美人ギャル『滝本』が近づいてきて、僕の前髪をつかみ、


「きったない顔……あんたと同じ空気を吸うのマジで無理って、昨日あれだけ言ったじゃん。学校をやめろってちゃんと言ったよね? なんで、くるの? 嫌がらせ?」


 そう言いながら、気室より強くビンタしてきた。

 むちゃくちゃ痛くて、僕は思わず悲鳴を上げてしまった。

 それを見て、クラスの大半が笑っていた。


 この二人にイジメられたことが、自殺を決意した理由。




 ――その直後、僕の身体から力が抜けた。




 意識はある。

 目も見えるし、声も聞こえる。

 なのに、指一本動かせない。


 昨夜も経験したから分かる。

 ……蝉原が、僕の身体を乗っ取った。


 蝉原は、僕の口を使って言った。


「……しょうもない。殺意も悪意もゴミ同然。こんなカスみたいな暴行で、よくも、そこまで得意になれるものだ」


 その言葉に、気室が、ピクっと耳を動かして、


「あ? なに? もしかして、今、なんか口答えした?」


 イラついた顔で、僕(蝉原)の胸倉をつかみ、


「お前、殺すぞ」


「無理だよ、君では。君が殺せるのは虫か小動物ぐらい……いや、小動物も難しいか」


 そこで、気室は、かなり強めに蝉原を殴った。

 蝉原の身体が吹っ飛ぶ。

 ようするに僕の身体が吹っ飛んだわけだが、

 痛みとかは感じない。

 現状だと、そういうのは全部、蝉原のもの。


 吹っ飛んで壁に激突した蝉原は、 


「……なんだ、このおままごとは。眩暈めまいがしてきた」


「おい、いい加減にしろよ。マジで」


 また胸倉をつかみ、握りしめた拳で、蝉原の顔を何度も殴った。


 と、そこで、教室のドアがガラっと開いて、


「席に――ぁ」


 教師が入ってきた。

 教師は、蝉原を殴っている気室を見て、一瞬だけ戸惑って、

 すぐに目線を外し、


「席に……ついて。ホームルームをはじめる」


「……ちっ、うっせぇ」


 舌打ちして、気室は、自分の席に戻った。

 残された蝉原は、教師に、


「しっかりと暴行の現場を目撃したわけですが……俺を助ける気がありますか、先生。それとも、気室の親が議員さんだから、見なかったことにしますか?」


「……席に……つきなさい」


「質問の答えを聞いていませんが?」


「席につけ!!」


「了解です、先生。全部ね」


 そう言って、蝉原は、自分の席まで歩いていく。

 途中で、気室の取り巻きの一人が、足を出してきた。

 蝉原は、その足をチラ見しながら、


「うおっと」


 と言いながら、がたーんと、派手に転んでみせる。

 その無様な姿を見て、クラスカースト上位の面々は笑っていた。


 教師は無視して自分の仕事を進める。

 その様子を見ながら、蝉原は、


「創作で100万回は見た流れ……もう少し面白いイジメが出来ないものかね」


 ボソっとそうつぶやきながら、

 自分の席につき、スマホを確認する。


 昨夜、忍び込んで、この教室の後ろ、掃除ロッカーの上の壁に小型の監視カメラを仕込んでおいた。

 しっかりと録画されている。


「さて、と……それでは、本物の悪意というものを……教えてあげようか」



 ★



 一限目の途中で、蝉原は、


「用事があるので、失礼します」


 そう言いながら、教室を出た。

 途中で、気室や教師が何か言ってきたけど全部無視。


 そのまま、軽やかなステップで学校を後にする。


(どこに行くの?)


 僕が蝉原の中で尋ねる。

 スイッチしている間も意思疎通ができるのは、事前に確認している。


「気室の親のところだよ」


(それで……どうするの?)


「お喋りするのさ」



 ★


 気室の家は豪邸だった。

 ひい爺さんの頃から代議士をしているそうで、

 この辺では、かなりの権力者。


 ピンポンとチャイムを鳴らすと、お手伝いさんが対応した。


気室隆吾きむろりゅうごくんの同級生なんですが、お父様はいらっしゃいますか?」


『どのようなご用件でしょうか?』


「隆吾くんから継続的な暴行を受けております。その証拠映像を持参しました」


『そのような件でしたら学校へ――』


「失礼。こちらも急いでおりますので先に申し上げます。現在、この映像は複数箇所にバックアップ済みです。そして、この映像を各所へバラまくデッドマンズスイッチも設定してあります」


『……でっどまん?』


「俺が一時間以内に解除しなかった場合、自動的に複数の報道関係者とSNSアカウントへ送信されるということです。ハッタリではありませんので、安易な態度は控えた方がよろしいかと存じます」


『……』


「ちなみに、当方、学校を辞める覚悟も、自殺する覚悟も万全でございます。追い返すのではなく、適切に対処した方が、気室先生のためになると思いますよ」


『……少々、お待ちください』


 それから3分ほどで反応があり、


『旦那様が対応すると仰っています。どうぞ、中へ』


「どうも」




 ★


 応接間に通された蝉原。

 5分ほど待機すると、気室の親が顔を見せた。


「それで? 証拠というのは?」


 横柄な態度で、そう言いながら、ソファーに腰を下ろす。


「私は忙しい。分かっているとおもうが」


「証拠は、こちらになります」


 そう言って、蝉原は、スマホの映像を見せた。

 蝉原が殴られているところ。

 足を引っかけられているところ。


 気室の親はしっかりと確認してから、


「ばかばかしい。子供のケンカじゃないか」


「どう判断するかは個人の自由ですが、これを見た大半の民衆は、『議員の息子が、親の権力をカサにきて、弱者をイジメている』と思うでしょうねぇ」


「……」


「先生の経歴や政治活動は一通り調べさせていただきました。……どうやら、気室先生は、総裁選も視野に入れている御様子。スキャンダルはよろしくないのでは?」


「ははは! バカガキが。こんなもの、スキャンダルと呼べるか」


「では、この映像を、山本先生の元へ持っていってもよろしいですか? 最大の政敵であり、イジメ問題にも積極的な山本先生であれば、この映像と子飼いのメディアを使って、先生にダメージを与えることも可能では?」


「……無礼なガキだ。私に、そんな態度をとって許されるとおもうかね? 私が、この街でどれだけの力を持っているか……子供でも分かるはずだが?」


 威圧で黙らせようとする。

 所詮はガキだと、まだナメている。

 蝉原は、ニコリと微笑み、

 

「今のままでは街の権力者が精々ですよ。確実にもう一つ上にいくためには、不安分子を綺麗に消しておかないと」


「……」


「こんなくだらない事で無駄にダメージを受けますか? それとも、適切に処理しておきます?」


「……一つだけ忠告しよう。脅す相手は考えた方がいい。『金を出せば何でもする人間』を私は何人か知っている。命の怖さを、その年で知りたくはないだろう?」


「いけないなぁ、先生。当然、今だって録音していますよ……」


 そう言いながら、ズボンのポケットから録音機を取り出して机に置く。


「イジメと脅迫……このセットになると、さすがに、ノーダメージとはいきませんよ」


 そこで、気室の親は、机の上に置かれた録音機を、サっと奪い取り、


「用心が足りないな。……言っておくが、お前を帰す前に、当然、身体検査はするつもりだった」


「素晴らしい、先生。見事な用心深さです。しかし……」


 そこで、蝉原はスマホのアプリを開いて、


「バカなガキでも連動させてクラウドに保存する程度の知恵はあるんですよ。当然、このスマホを没収されても問題ないようにしております。 海外の複数サーバーに分散保存した上で暗号化してありますので、先生が裏から手をまわして、指折りのウィザードに削除命令を出したとしても完全に消すのは不可能でしょう」


 ウィザードというのは、凄腕のハッカーという意味らしい。

 今のところの、僕の蝉原に対する一番の印象は、

 『宇宙一のヤクザ』っていうより、

 『高性能で意識高い系の厨二病』って感じ。


「先生、今回の問題を適切に処理するか、それとも、かすり傷を受けるか。ご判断を」


「……何が望みだ?」


「なに、大したことは望みませんよ。俺との揉め事で、息子さんが先生に泣きついてきても無視していただきたい」


「……」


「息子さんも、いい年齢でしょう? 何かあった時は自分で解決させないと」


「……何をする気だ?」


「ご安心ください。子供のケンカをするだけですよ」


「……一つだけ聞かせてくれ」


「なんでしょう」


「息子は、なぜ、君をイジメることができた? あの子はそこまで強くないはずだ」


 その問いに、蝉原はにっこりと微笑んだ。


 ★


 翌日、僕は学校に向かった。

 いつものように教室のドアをあける。


 そこで、蝉原が、


(選んでいいよ)


(え? なにが――)


 脳内で会話していると、

 いつものように、気室が、僕に絡んできた。


「昨日は一限で逃げ帰ったくせに、今日も登校してくるとか……どういう神経してんだ?」


 そう言いながら、またビンタをしてきた。

 直前で、蝉原は僕と入れ替わる。

 だから、僕は痛くないけど、蝉原は痛かったはず。


 蝉原は、ニコリと微笑み、


「それでは、ケジメをつけてもらおうか」


「は?」


 気室が間の抜けた声をあげた瞬間だった。


 蝉原は、気室の右腕を掴み、力任せに机へ叩きつけた。


「ぐっ、なっ――」


 気室が抵抗するより早く、蝉原はポケットからナイフを取り出す。

 そこで、蝉原は、僕に、


(君が選べ。やめるか。継続か)


「てめぇ、何してんだ、離せ、カス!」


(君がやめろというのなら、俺はなにもしない)


「ぶっ殺すぞ、虫ケラ、ごらぁああ! キモい手で俺に――」











 ――やって。 











「二本で許してあげるよ。……今日はね」


 そう言って、蝉原は躊躇なく刃を振り下ろした。

 スパァアン、と乾いた音が響く。


 一拍遅れて、


「う、ぎゃあああああ!!」


 気室の絶叫が教室に響き渡った。


「さて、気室くん、問題だ……果たして俺は警察に捕まるかな? それとも捕まらないかな?」


「あぁあ……ああ……指……お、俺のっ!」


「正直に言おうか。君の指なんかどうでもいい。それよりも、この後の方が大事だ。……これから君は『本物の悪意』を思い知るだろう。存分に楽しんでくれ」


 そう言いながら、蝉原はスマホを取り出した。


 恐ろしいほどに鼓動が高鳴る。

 僕は蝉原の全てに魅入っていた。












 ★ 滝本視点。


 私の名前は滝本凛花たきもとりんか

 ギャルモデルをやっている女子高生。


 私のクラスには、『自殺寸前のいじめられっ子』と、

 『議員を親に持つ無敵のいじめっ子』がいる。


 今日、その『いじめられっ子』が、

 ――『いじめっ子』の指を切った。


「……これから君は『本物の悪意』を思い知るだろう。存分に楽しんでくれ」


 そう言いながら、『いじめられっ子』はスマホを取り出した。

 コール音が鳴っている間、彼は、私たちを睨み、


「警察、病院に電話した者、SNSに投稿した者は同じ目に遭ってもらう。俺が気室きむろに殴られているのを、君らは黙って見ていただろう? 同じことをすればいいだけさ」


 と脅してきた。


 ……これ、どういうこと?

 昨日までのあいつと……全然違う。

 あの根暗くんは、いつも怯えている典型的な負け犬だった。


「あ、どうも気室先生。実は先ほど、息子さんの指を切りましてね。はい、はい……あ、そういうのはどうでもいいです。とりあえず、俺に不利益があった場合は、必ず復讐させていただきますので、そのつもりで」


 どうやら気室の親に電話をかけている様子。


「俺は別に捕まってもいいんですよ。自殺する覚悟も、学校をやめる覚悟もできております。俺は既に死んでいるんです。一緒に死にます? それとも、悪徳政治家らしく、もみ消します?」


 ただ一つ分かるのは、このクラスの空気だけ。

 みんな、気室の横暴ぶりにはウンザリしていた。

 ……だからだろう。

 誰も通報しない。


 もちろん私もしない。


 普通なら警察・病院など、どこかに連絡すべき……

 わかってる。

 けど、『通報したら同じ目に遭わせる』と言われているので、何もしない。

 『誰かが通報するだろう。自分がリスクを負う必要はない』……と、『皆』が思っている。


「気室先生。俺としましては、もみ消す方が、先生らしいと思いますし、利益も大きいと思いますよ。少なくとも、俺の中から『あなたへ復讐する』という選択肢が消える」


 この日から、このクラスの支配者が変わった。

 バカなボンボン暴君から……


 ――この世で最もセクシーな悪魔に。


1話を読んでいただきありがとうございます<m(__)m>

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― 新着の感想 ―
計算されつくされてるように見えてバカな読者(自分)には穴がないように見えるんですがこんなの書くのってどこで覚えれる、どうやって覚えれるんですか?褒め言葉です
第1話からものすごい緊迫感とカタルシス……!!
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