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第一話 ケイ旅立ち

理想郷(アルカディア) ガタン、ゴトンと規則正しい走行音が、座席から身体へと心地よく伝わってくる。ユヴェリア王国が誇る長距離汽車の旅。車窓を飛ぶように流れていく景色を、ケイ・ストロームは静かに見つめていた。


 まだ14歳の彼にとって、故郷である西部の水運都市「ポルト」から首都までは、およそ8時間の長旅だ。 窓ガラスに映る自分の顔を見ていると、今朝の駅での騒がしい見送りの光景が蘇ってくる。


「ケイ! 向こうに行っても絶対手紙書けよな!」


「まさかお前が、あの『アルカディア』に行くなんてなぁ……!」


 ポルト駅のホームには、家族だけでなく、地元の学校の友人たちも大勢駆けつけてくれていた。 友人の一人が、自分のことのように興奮気味にまくしたてる。


「首都ヴォルデンホルムだぞ! カディーヤの『ナジュマート』、遥邦連邦の『伊瀬』と並ぶ、世界に3つしかない理想郷! いいよなぁ、争いなんて無縁でさ」


「絶対安全だし、自由で生活も保証されてるんだろ? 俺たち庶民からしたら、マジで夢みたいな街だよな」


 友人たちが羨むのも無理はない。彼らが言う通り、首都は『アルカディア条約』によって守られている。特区は一切の武力を持たない代わりに、他国からの攻撃を完全に禁じられており、もし条約に背けば連合軍によって排除される。その絶対的なルールが、あの街の平和を保証しているのだ。


「遊びに行くわけじゃないよ。15歳になる今年度から高等大学に入って、しっかり6年間勉強してくるんだから」


 はしゃぐ友人たちにケイが苦笑して答えると、横から母が口を挟んだ。


「みんな、朝早くからケイの見送りに来てくれて本当にありがとうね。ほら、ケイ、あんたもお礼言いなさい。これだけ見送りに来てくれるなんてなかなかないよ」


  友人たちに向けて愛想よく頭を下げた母だったが、ケイに向き直るといつもの小言を言うような顔つきになる。


「忘れ物はないわね? まだ14歳なのに一人大都会で暮らすんだから、気を引き締めるのよ。ちゃんと三食食べて、危険なことには絶対、首を突っ込まないこと。わかった?」


「大丈夫だよ、母さん」


 笑いながらポン、と肩を叩いてきたのは、長男のクランだ。


「ケイはこのポルトで一番頭が良いんだ。ストローム家の水運業は長男の俺がバッチリ継ぐから、次男坊のお前は好きなだけ学問を極めてこい」


「兄さん……うん、ありがとう。家のことは任せたよ」


 そして最後に、少し離れたところから静かに見守っていた父が一歩前に出た。


「とうとう出発だな。14年間……時が経つのは本当に早い」


 少しだけ寂しそうな父の顔に、ケイはまっすぐ向き直った。


「うん。この街から離れるのは寂しいけど、アルカディアでの生活も、大学の研究もすごく楽しみなんだ」


「気をつけて行くんだぞ。しっかり勉強して……いつか立派になって帰ってくるのを楽しみにしているからな」


「大丈夫だよ。言っても、汽車で8時間くらいで帰ってこられる距離なんだから」


「ははっ、そうだな。……頑張ってこい、ケイ。お前には期待している」


 ――ピーッ!


 鋭い汽笛の音が鳴り響き、ケイは我に返った。 車窓の景色はすっかり見慣れた水郷の街から、切り立った山間部へと変わっている。


(行くんだ、アルカディアへ)


 ケイはトランクの持ち手を強く握り直した。 心地よいレールの振動に身を任せながら、ケイはまだ見ぬ首都での新しい生活に、静かに思いを馳せていた。


第一話です。設定などはかなり凝っていますのでいずれは公表したいと思っています。まあ、いずれ。今のところは未定ですが。

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