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薄氷の恋 ――不倫した妻と僕を結ぶものは、罪悪感という名の感情、ただひとつ――  作者: 書峰颯


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Epilogue

 僕の家、有堂悠斗(ゆうと)の家は、ちょっと変だ。


 二つの家庭が一つの家で暮らしている。

 

 お爺ちゃんやお婆ちゃんと暮らしているクラスメイトはいるけど、二つの家庭が一緒に、しかも一つの家で暮らしているなんて聞いたことがない。


 有堂家と巻島家。


 ご飯を食べる時も一緒だし、お風呂に入る時だってどちらかのお父さんが一緒に入ることが多い。


 そしてもちろん、兄弟だって多い。

 僕の場合、姉姉妹(きょうだい)って感じだけど。

 

 まず、一番年上のお姉ちゃん。

 巻島悠舞(ゆま)、高校一年生。


 きっちりと肩口で切り揃えたワンレングス、それとメガネが特徴の委員長タイプのお姉ちゃん。


 小学生の頃からずっと学級委員とか班長とか、〝長〟ってつく役職は全部こなしてる超エリート。ピアノも弾けるしダンスも出来るし、なんかもう本当にお嬢様って感じだ。


「悠斗、日曜日だからっていつまでも寝てちゃダメですよ。宿題はやったの? 月曜日の準備は終わってる? 習字あるんでしょ? ちゃんと洗わないと筆、ダメになるよ?」


 頼んでもないのに毎朝起こしにくるし。

 お母さんよりも口うるさいし。


 クラスの友達には「お前の家、超綺麗なお姉ちゃんいて羨ましい」って言われるけど、絶対にそんなことないと思う。


「わかったよ、起きるよ起きる……ん?」


 そして、もう一人のお姉ちゃん。

 有堂全華(ぜんか)、中学二年生。


 ゆるふわパーマを地毛と言い張るちょっとギャルっぽいお姉ちゃん。ギャルっぽいのは髪だけではなく、服装は常に露出が大きく、それに合わせて胸もやたらとデカい。


 そんな巨乳が、僕の真横で瞳をランランに輝かせながら眠っている……いや、横たわっている、か?


「ゼン姉、なんで僕の布団にいるの?」


「え? だって、大好きな悠斗が寝てたら、そりゃ一緒に寝るでしょ? 知らないの悠斗? 全日本お姉ちゃん連盟はね、最愛の弟が寝ていたら添い寝をしないといけないという決まりがあるの。だから、はい、もう一度お布団に来て、一緒に寝ましょ」


 ぱんぱんって布団を叩くと、それだけで胸が揺れる。家にいる時はいつもノーブラ、それがゼン姉だ。


 クラスの友達が「お前の姉ちゃん、エロ過ぎだろ」って言っているけど、それも違うと思う。


 毎日毎日こうして勝手に布団の中に入ってくるし、隙あらば全力で抱きしめてくるし、風呂に入ろうとすれば何故かいるし、風呂に入っていると勝手に入ってくるし。


 僕からすればゼン姉のおっぱいは、おっぱいという名の凶器だ。窒息しそうになるし、振り向いた瞬間に激突して吹き飛ばされるし。


 とにかく、エロいとはかけ離れている存在だと言うことは、間違いないだろう。多分。


「全華、悠斗はやること沢山あるの、それにもう八時だよ? 起こさないとダメだよ」


「またまたぁ〜悠舞ちゃん厳しすぎ。そんなんじゃ誰も近寄ってこなくなるよ? 女は愛嬌っていうでしょ?」


「今は女も学歴です。全華だって勉強出来るのに、どうしてこう私生活がだらしないのか……」


「む。私、男にはだらしなくないけど」


「そういう意味じゃないの。とりあえず悠斗も起きて、お母さん達、朝ごはん用意して待ってるんだから。それに、沙也(さや)だってもうリビングにいるんだよ? お兄ちゃんなんだから、妹よりも先に行動しないと」


 最後に登場、僕の妹、巻島沙也。

 小学三年生の能天気娘。


 いっつもぼーっとしていて、通学班では副班長の僕の前を歩いているのだけれど、一人道を外れて歩いていたり、花を見つけてはしゃがみこんだり。


 自由人とも言えよう。

 副班長の僕は大迷惑なんだけど。


「あー、悠ちゃんだー、おはよー」


 寝癖でボサボサの頭のまま、パンケーキに食らいついている我が妹を見て、軽くため息をついた。


「ああ、おはよう。なんだよ沙也、先に起きたのなら起こしてくれてもいいじゃないか」


「えへへー? だって、悠ちゃんぐっすり寝てたからー、起こしたらダメかなー? って、沙也は思っちゃったのー」


 二段ベッドで一緒に寝ているのだから、起こそうと思えば起こせたくせに。

 

 ゼン姉も自由奔放な人だが、沙也は違う意味で自由奔放な人だ。完全に自分の世界を作っているし、しかもそこから出ないまま生活を送っている。


 俗に言う不思議ちゃん。


 クラスメイトからは「お前の妹、マジで可愛いし天使じゃん」なんて言われるけれど、それも絶対に違うと断言出来る。


 ただ面倒臭いだけ。

 これが正解だ。


 さて、どうでもいい姉妹の紹介はここまでにして、ご飯を食べて悠舞姉に文句言われる前に、宿題を終わらせちゃおうか……な……。


「あれ? 僕の分の朝ごはんは?」


「えー? えへへー?」


「……沙也、僕の分、食べたでしょ」


 ニコニコしながら、残るパンケーキを食べる。


 沙也は〝女の武器は笑顔〟ってことを誰よりも理解している小悪魔だ。天使のように可愛い笑顔を向けることで、相手を無力化出来ることを知っている。


 つまり、僕のパンケーキを食べたことだって悪意があってのこと。決して「えへへー? だって美味しそうだったから食べちゃったのー」などという言葉に騙される訳にはいかない。


 ここはビシッとお兄ちゃんであることを見せつけないといけない。


 ああそうだ、妹が僕の分のパンケーキを食べてしまったのだから、お前ふざけんなよと言うべきなんだ。


 (さとる)父さんなら絶対にそう言うはずだ。


 ……でも、(ゆう)パパは絶対にそうは言わない。


 悠パパなら「妹のしたことだからね、ここは黙って我慢して、ママに追加をお願いするしかないよ」と、第三の選択肢を当然のように求めてくる。


 でも、僕は今食べたかったんだ。 


 それに、沙也が僕の分を食べたという事実は変わらない。

 

 よし、言おう。

 お兄ちゃんは今、鬼いちゃんになる。


「沙也————」


「はい間に合ったー!」


 突然、目の前に出来たてホカホカのパンケーキが置かれた。しかもバニラアイスまでトッピングされているし、その上には板チョコとサクランボまで乗せられている超デラックス状態だ。


「悠斗の分はママが作ったから、沙也ちゃんには何も怒らないこと、じゃないと、パパが悲しむよ?」


 僕のママ、有堂ユリカ。


 超綺麗なママなんだけど、顔にはかなり厳しい傷が残っている。唇は歪んでいるし、前に見たことあるけど、ママの右目は義眼だ。


 初めて見た時は、ママが可哀想で泣いてしまった。

 目が取れるって、どれぐらい痛いんだろう。

 想像もしたくない、それを耐えたママがどれだけ凄い人か、子供の僕でも分かる。


「わかった、ママの言う通りにする」


「うん、さすが悠斗、お兄ちゃんだね」


 頭を撫でてくれた。

 へへっ、我慢して良かった。


「えー! 沙也もこっちが良いー!」


「ダメよ、食べ過ぎたら太っちゃうよ? もう二人分食べてるんだから、沙也ちゃんは我慢、わかった?」


「ぶー!」


 ざまぁみろだ。

 ああ、美味しいな。

 ママが作るケーキが一番美味しい。


「今日、パパたちは?」


「二人でゴルフに出かけたよ。ママは出来ないからね、お家でお留守番なの」


「ふーん、マヤママは?」


「マヤちゃんはお外でお洗濯物してると思うけど、何か用事でもあった?」


「ううん、別に」


 お家にパパたちはいない。


 ママ達も「子供にだってプライバシーが必要でしょ?」と言って、部屋にはあまり来ない。

   

 つまり、今なら秘密の相談が出来るということ。


「ごちそう様でした」


「あら早い、美味しかった?」


「うん、最高だった」


 親指を立ててあげると、ママはニッコニコに微笑んだ。世界一大好きなママだ、もう傷が増えないように、しっかりと僕が守ってあげないと。 

 

 廊下を歩くと、外で洗濯物を干しているマヤママの姿があった。


 マヤママ、巻島マヤ。

 悠舞(ゆま)沙也(さや)のお母さん。


 ママよりも背が高くて、パパ達よりも力が強い。


 この前パパたちと腕相撲をしているところを見かけたけど、マヤママが優勝という結果で、家族全員で盛り上がっていたのを覚えている。


「あら、悠斗君、どうしたの?」


「ううん、別に。手伝おうか?」


「本当? 助かっちゃうな」


「悠パパなら手伝えって言うだろうからね」


 洗濯物をカゴから取り出して、ぱんぱんってしてからマヤママに渡す。


「悠パパに似て、悠斗君も優しいね」


「別に、普通でしょ。はいマヤママ」


「ありがとう、その普通、大事にしてね」


 これだけ女に囲まれて生きているのだから、自然とマナー的なものは身についてしまう。


 だからじゃないが、クラスでもそこそこ女子に人気があるし、女友達だって何人もいる。


 羨ましがられるけど、個人的には別にって感じだ。

 男も女も友達でいる分には、何も変わらない。

 楽しいを共有して、つまらないは一緒に逃げる。


 ただ、それだけのこと。

 一番大事な部分には、友達じゃ踏み込めない。

 

「これで終わり、お小遣い、あげようか?」


「いらない、バレたらパパに怒られるから」


「ふふっ、遠慮しなくていいのに」


 いつも優しいマヤママと別れると、僕は二階へと向かった。


 二階にある四部屋、悠舞姉の部屋と、ゼン姉の部屋、そして僕と沙也の部屋で、最後がパパの書斎。


 書斎に耳を当てる。

 確かに、物音がしない。


 書斎を通り越し、僕と沙也の部屋も通過。

 コンコンとノックしたのは、ゼン姉の部屋だ。


「ゼン姉、ちょっと良い?」


「もちろんいいよぉ! 早く入っておいで!」


 廊下にまで響く爆音。 


 きっとこれを聞いて、隣の部屋の悠舞(ゆま)(ねぇ)はイヤフォンで耳を塞ぐことだろう。


 丁度いい、僕にとって最高の環境だ。


「にゃっふふーん、どうしたのさ急に?」


 勉強でもしてたのかな? ゼン姉、椅子にあぐらをかきながら、両手を股間付近に突っ込んでニマニマとしている。


「ちょっと、相談したいことがあってさ」


「なになに?」


「今度、悠舞姉の誕生日でしょ? 悠舞姉は何を貰ったら喜ぶかなって、思ってさ」


 多分、質問がつまらなかったのだろう。


 ゼン姉はシャーペンを鼻と唇の間に入れて、無言のままユラユラと身体を揺らしながら、僕の方を見ている。


「あの、ゼン姉?」


「うーん? 悠斗がプレゼントするものなら、大抵の女の子は喜ぶんじゃない?」


「それは普通の女の子だろ。違うんだよ、ちゃんとこう、悠舞姉が喜ぶものをプレゼントしたいんだ」


 言葉のニュアンスで、ゼン姉は気づいたみたいだ。


「むむ? それってもしかして、そういうこと?」


 恥ずかしいけど、そのままコクリと頷く。

 僕は、悠舞姉のことが好きだ。

 

 超綺麗なお姉ちゃんが家にいて嬉しいかとクラスメイトに問われた場合、それは違うと反論する。


 一緒にいなかったら、こんなにも惚れることはなかったし、意識すらすることもなかった。


 相手は高校一年生、僕は小学五年生だ。

 無茶なのは分かってる、だけど好きなんだ。


「ふふーん? そっかぁ。まぁねぇ、悠舞と悠斗は一緒に住んでるけど他人だし? 結婚も出来る関係ではあるってのは、アタシも分かるけどさ」


「なら、ゼン姉も協力してよ」


「でも、さすがに早すぎない? アタシが悠斗大好きなのはお姉ちゃんだからだけど、悠斗はまだ小学五年生でしょ? 恋愛どうのこうのに至るには、まだちょっと早いかなー?」


「……協力してくれないのなら、別にいいし」


「ノンノン、協力しないとは言わないよ? ただ、早すぎるってだけ。今日買おうとしているプレゼントだって、お小遣いを貯めただけのお金でしょ? 悠斗が働いて貯めたお金じゃない」


「小学生が働ける訳ないだろ」


「つまりはそういうこと、早すぎるって意味。悠舞がそんなお金で貰ったプレゼントを、心の底から喜ぶと思う? ちゃんと働いて、自分のお金って言えるようになってからじゃないと、悠舞は認めないと、アタシは思うけどな」


 正論、だと思う。

 何も言い返せない。


「高校生だね」


「……高校生?」


「そ、バイトも許されるし、大人の男としても認められる。悠斗が高校生になってもまだ悠舞のことが好きって気持ちが変わらないのなら、アタシは全面的にバックアップしてあげる……これで、今はどう?」


 引き下がるしかない。

 多分、ゼン姉の言っていることは正しいから。


「わかった、約束ね」


「りょ、ギャルは嘘付かないからね」


 その年の誕生日プレゼントは、一人でショッピングモールに隠れて行って、理由もわからず購入した香水をプレゼントする事となった。


「ありがとう、大事にするね」


 姉から弟へと向けた言葉。

 そんなの、全然嬉しくなかった。


 それから高校生になるまでの間、僕はずっと我慢したし、ずっと努力したし、ずっと不安な日々を送っていた。


 もし、悠舞に恋人が出来てしまったら。 

 嫌な考えばかりが頭の中を何度も支配した。


 幸いなことに。

 悠舞に恋人が出来ることもなく。


「……合格、合格したー!」


 僕は無事、悠舞が卒業した高校と同じ高校へと、入学を果たすことが出来た。


「凄いな悠斗、県内最難関の高校に合格するとは」


「さすがは悠全の息子ってことか、これは会社にぜひとも採用しないといけない逸材だな」


 有堂悠全、僕のパパ。

 巻島悟、悠舞のパパ。

 

 二人のパパからのお祝いの言葉を貰うと、やっぱりちょっと嬉しい。

 

「ありがとう、次は悠舞と同じ大学に入れるよう、これからも勉強を頑張るよ」


「悠斗の目標は、悠舞なんだね」


 パパの優しい目が、微笑みと共に細まる 


「うん、悠舞にだけは、負けたくないんだ」


 反抗心じゃない。


 悠舞に相応しい男になるためには、横に並ぶだけじゃダメなんだ。


 悠舞よりももっと上を目指さないと。


「最近、凄い頑張ってるじゃん」


「ゼン姉……約束、覚えてるよね?」


「うん、もちろん、ちゃんと覚えてるよ」


 高校生になった。

 僕はもう、一人の男として、見れるはずだ。


「僕、次の悠舞の誕生日の時に、告白する」


「……分かった、全力で応援するからね」


 巻島悠舞へと告白する。


 この告白がどういう意味か、この時の僕は知らない。

 告白し、恋人になり、両思いになってしまったら。


「悠舞」


 だけど、今の僕は。

 悠舞を好きな、一人の男だから。


「好きです、僕と恋人として、付き合って下さい」


 この恋が成就することを。

 ただひたすらに、願うだけだ。



 薄氷の恋だと、知らぬままに。





————

fin


あとがきは、近況報告にて行います。

ご愛読、誠にありがとうございました!

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― 新着の感想 ―
実の兄妹または姉弟がお互いを知らず別の家庭の子として育った場合、その2人が知人になると恋人になる可能性が飛躍的に高くなるそう。ある意味これはなるべくしてなったことなのかも?
完結お疲れさまでした 真実を知って絶望するやーつ 最後の最後に新たな爆弾を投下して終わるとは…
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