表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
薄氷の恋 ――不倫した妻と僕を結ぶものは、罪悪感という名の感情、ただひとつ――  作者: 書峰颯


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

18/35

第18話

 春雪さんがカナミさんから手渡された一枚の写真、そこに映し出されていたのは、僕がマヤと不倫をしている証拠とも言えるものだった。


「妻から渡された時は、AIで作成したかCG合成したものだろうと勝手に思い込んでいたのですが……今こうして有堂さんとお会いして、これがそういった(たぐい)のモノではないということを、確信いたしました」


「……そう、ですね」


 映し出されている背景にも、見覚えがある。

 

「ゼン君、このホテル」


「うん……名古屋、だね」


 僕が初めてマヤと身体を重ねた日、そこを写真に収められていた。


 この写真が何故存在するのか。


 手渡してきたのはマヤの妹であるカナミさんだけど、彼女もマヤを疑ってわざわざ探偵を雇い、マヤを尾行させたというのだろうか?


 いや、その理由が存在しない。


 この行為をするのであれば、妻の不貞を疑うマヤの旦那さんしか()がないはず。


「どうして、こんなものが……」


 マヤが写真を手にし、肩を落とし落胆を顕にしている。


 カナミさんが持っていたということは、マヤの旦那さんにも、僕たちの関係を暴露された可能性が高い。


 互いに不倫の関係にあったという事実が、離婚においてどれだけの影響を与えるのか。


「互いに不倫をしていた夫婦の場合」


 ふいに、春雪さんが口にした。


「裁判所での判例によれば、財産分与は均等になる事が多い、とのことでした。ですので、この写真があったからと言って、不利になることは無いとは思います。勝手な想像ですけれども、マヤさんも有堂さんも、財産よりも相手との離縁を希望しているように感じますので、不安になることは何もないと思いますよ」


 言葉にしていなかった僕たちの不安を感じ取ったのか、春雪さんが予め調べておいてくれた内容を、僕たちへと教えてくれた。


 確かに、春雪さんの言う通り、僕はユリカから財産を奪いたいとは考えていない。


 今住んでいるマンションだって賃貸だし、使っていた家具だって何一つ、それこそ歯ブラシの一本だってどうでもいいとさえ考えている。


 不安になることは何もない。

 確かに、その通りだ。


「ただ……」


 春雪さんは眉間にシワを寄せ、鑑定するかのように写真を眺める。

 

「目的が離婚の為でなかった場合、とても厄介な存在に変わると言えるでしょう」


「離婚の為でなかった場合?」


「……はい、同じ事をしているのだから、お前も受け入れろ。つまり関係の継続、今のままを保持したいと言ってくるのであれば、離婚訴訟の期間がどれだけのものになるのか、皆目検討も付きません」


 調べたところ、通常、離婚訴訟からの離婚へは、一年から二年という時間を要するものらしい。


 ただ、春雪さんの言う通り、関係を継続する為のものだとした場合、その期間がどれだけ伸びてしまうのか……いや、それだけじゃない。


 僕たちの不倫が表沙汰になった場合、ダメージを受けるのは間違いなく会社勤めをしている僕だ。


 ユリカは不倫相手と別れを宣言している、彼女の方が有利に働く可能性だってゼロじゃない。 


 どうあがいても不倫が法的に許されない行為である以上、僕の立場はどこまでも悪くなる。


 考えれば考えるほど悪い方へと傾いてしまう、そんな思考回路から抜け出せずにいると、隣に座るマヤが写真をテーブルへと置き、春雪さんへと語りかける。


「そもそも、春雪さんはどうしたいのですか?」


「私、ですか?」


「はい、カナミとの離婚は考えているのでしょうか? 直接手渡した以上、これは春雪さんへのメセージでもあると、私は思います」


 確かに、カナミさんが僕たちの不倫を調べる理由なんて、カナミさんと春雪さんの関係をどうにかしたいからに決まっている。


 どこか蚊帳の外として考えていたせいか、僕はその辺りのことを余り知らない。

 

 カナミさんもユリカと同じ、離婚はしたくないけど浮気はしたい、そういう人間なのだろうか? だとしたら、この写真の存在も意味が変わってくる。

 

 〝お姉ちゃんも同じことをしているのだから、私のことも許してよ〟こう考えることだって出来るはずだ。


 ふぅ……と溜息を吐いたあと、春雪さんは顔を下げ、視線だけを上げながらマヤを見た。


「以前もお伝えしましたが……私は、カナミとの離婚を考えてはいません」


「不倫されたのにですか?」


 やや早口でマヤが返すと、春雪さんは眉根を寄せ、片方だけ口端を持ち上げ、苦笑混じりに言った。


「はい、だって、私が愛した人ですから」


 短いけど、とても分かりやすい言葉。

 この人は、僕たちとは違う。

 裏切られた相手を、今も想い続けている。

 

「だとしたら、この写真の意味は……」


 また、振り出しに戻ってしまった。

 カナミさんが僕たちへとこの写真を見せる意味。

 警鐘なのだろうけど、一体その真意は何か。


 しばしの沈黙のあと、背筋を伸ばしたマヤが突如、パンッと手を打った。


「うん、考えたって分からない時は、諦めて答えを聞きに行きましょうか」


「答えを聞きに行くって、誰に?」


「そんなの、一人に決まってるじゃないですか」


 屈託のない笑顔で、彼女は言った。


「私の妹、物井カナミですよ」



 マヤの提案は突拍子もないものだったけど、ある意味確実だ。


 写真を送りつけてきた意味が分からないのであれば、送りつけてきた人物へと尋ねればいいい。


 ただしその相手はマヤの妹であり。

 マヤの旦那を寝取った相手だ。


 どう考えても普通には終われない。

 腹をくくっておいた方が良さそうだ。


「そういえばなんだけどさ」


 カナミさんの家へと向かう車内にて、僕はマヤへと尋ねる。春雪さんとは別の車だ、今なら二人きり、どんなことでも聞ける。


「カナミさんって昔から浮気性というか、そういう人だったの?」


 とても失礼な質問だったけど。


「全然、浮気なんて一回もしたことのない、とても良い妹でしたよ」


 マヤは笑顔で答えてくれた。

 

「だからこそ、今回のことは本当にショックでした。なぜ妹のカナミが私の旦那を寝取ったのか。失礼ですけど、私の旦那……花桐哲臣(てつおみ)は、決して顔の良い人ではありません。性格だって人見知りする人ですし、彼も彼で浮気をするような人ではなかったはずなのに」


 花桐哲臣。

 あまり、覚えていたくない名前だな。


「それで、あまりにショックで、マッチングアプリを使ったってこと?」


「……だって、こんなの誰にも相談出来ないじゃないですか。どう転んでも身内の恥なんですから、無関係の人に聞いてもらうか、もしくは」


 助手席から身を乗り出すと、マヤは僕の頬へとキスをした。


「身内になってくれる人じゃないと、ね」


「……そうだね、ありがとう」


「なんで感謝なんですか、感謝したいのは私の方ですから。本当に、ありがとうございます。それとごめんなさい、面倒に巻き込んでしまって」


「それはこっちも同じだよ。お互い写真を撮られちゃって、本当にお互い様だよね。どれだけ僕たちのことを知りたいって思ってるんだか」


 言うと、マヤは緊張の糸が切れたのか。


「……ふふっ、本当、あはは、なんなんでしょうね、私たち。くくっ……やだ、笑い、止まらない」


 急に笑い始めると、それは爆笑へと変わってしまい。お腹を抱えてひーひー笑い続ける彼女を見て、僕も釣られて笑ってしまっていた。


 互いに一般人なのに、まるでゴシックを撮られた有名人みたいなこの状況は、まさに笑うしかない状況なのだろうね。


 僕もマヤも二人して笑い続け。


「お二人、なんだか楽しそうでしたね」


 カナミさんの家に到着するなり、春雪さんから苦言を出されてしまう程には、爆笑し続けてしまっていた。


 人間、極限状態になると笑うしかないっていうのは、きっと本当のことなのだろうね。


 さて、ひと笑いもしたし。

 

「それじゃあ、行きますか」


 マヤの旦那を寝取った、彼女の妹。

 物井カナミさんへと、ご対面の時だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ