第十四話 三度目のダンジョン探索
二度のダンジョン探索に四回の魔物討伐を経験したセイン、ジョルダン、マリサ、カーラの四人パーティ。引き続きダンジョンを探索し、レベルアップを目指して頑張っています。
翌日。朝食や身支度を終えると、四人はすぐに出発した。
いつものように草原を抜け、森を抜け、切り立った崖へと至る。ダンジョンの入り口である。まだ探索も序の口、今日こそはさらに奥まで探索しようと、意気込んでいる。
「えーと、入り口からの分岐、四か所は行き止まりで確定で、広まったところでラージウルフと対戦、と」
シーフのカーラが自分で書き込んだ地図を元に、状況を整理している。ちなみに、このボルクス西のダンジョンは、かつては何人もの冒険者が利用していた。当然ながら冒険者ギルドに、かなり深い階層までのマップがある。しかし、独力で地図を作成するのも修行の内と、あえてマップの提供を断り、自作していた。
「あれ、また同じ気配がある」
前回のその前も、この場所でラージウルフと対戦している。どんな仕組みなのかは知らないが、もしかすると、毎回ここはラージウルフが必ず出現する場所なのかもしれない。
「ラージウルフは毎回出現、と。記録はオッケーよ」
「よし、じゃあ今回も軽く蹴散らそう。前回と同じ作戦で行くぞ」
隊列をヒーラーのセイン、戦士のジョルダン、シーフのカーラ、メイジのマリサの順に並び変え、突撃していく。
「ホーリーシールド!」
セインが楯の魔法を発動させて体当たり、一気に態勢を崩す。そこへ戦士のジョルダンが鋭く突きを一撃喰らわせる。怯んだところで、カーラが短剣で頭部を攻撃し、そこにマリサが火球の魔法を至近距離で叩き込む。
前回倒した時と全く同じ流れで、ごくあっさりとラージウルフは倒され、魔石を残して霧状になって消えていった。
「全員、無事だよな。俺は問題なし」
「私も」
「あたしも平気」
「僕も大丈夫」
「よし、幸先いいな。今日はこのまま探索を続行しよう」
四人はそのまま奥へと入っていく。二つの分岐の片方の奥で、前回はレッサーコモドドラゴンと対戦している。
「今日はそこはパスね。先に進みましょう」
カーラが地図を書き足しながら、さらに奥へと入っていく。外壁は人工物のような素材と、自然の洞窟を足して二で割ったような感じになっていた。
「ほんと、いつ見てもダンジョンって不思議よね」
「そうだよな。誰がどうやって作ったのやら」
三回目ともなると、そんな会話をする余裕も生まれていた。
「あ、何かあるわ」
しばらく進むと、人型の石像が道の端に立っていた。カエルと人間が合わさったような、不思議な形をしていた。
「罠とかはないみたい。代わりに文字があるわね。この先、知恵と力を試されん。勇気無き者は引き返すが良い、って書いてあるわ」
カーラが石像を確かめ、仲間に伝えた。三人も石像に近づいて、その様子を確かめた。確かにカーラの見た通りだった。
「どういうことだ。強敵でもいるのか」
「あり得るわね。石像も文字盤も、かつて訪れた冒険者が、警告として設置したものかもね」
「だからと言って、奥も探索しないと、来た意味がないもんね」
三人の心配ももっともだった。セインも似たようなことを思っていた。そして、ここまで来たら行くしかないというのも、同じ意見だった。
「まあ、気を付けて進んでみよう。僕が頑張って壁やるから」
セインの言葉に三人がうなずく。
「よし、進もう」
リーダーのジョルダンの合図で、みな勇気を奮って進み出した。
分岐のない一本道だった。しばらく進んで、少し開けた場所が見えてきた。そして予想通り、魔物の気配もそこにあったのだった。
「あの形、オオサソリみたいね」
魔物としての正式名称はレッサースコーピオン。やはり上位種も存在し、ジャイアントスコーピオンなど大型のものも存在する。レッサーでは全長は二メートル程度とそう大きくはないが、固い表皮と鋭い尻尾の針による攻撃が厳しい強敵である。
「やっぱり関節狙いだな。あと頭部。カーラが頭部で、傷が入ったらマリサが魔法でダメージを増やす。俺は尻尾を斬り落とすために、後ろから攻撃する。いつも通り、セインのシールドが頼みの綱だ。それでいいか」
ジョルダンが簡単に作戦を説明する。三人がうなずき、攻撃態勢を取る。
「よし、行くぞ!」
セインを先頭に、全員で突撃する。
「ストレングス!」
強化魔法をジョルダンに掛けて、セインはサソリの正面に立ちはだかる。敵に気付いたオオサソリが、尻尾を振るい、鋭い針をセインに叩き込もうとしてきた。
「ホーリーシールド!」
セインの魔法が発動し、その攻撃をはじき返す。オオサソリが何度もセインに攻撃を加えてくる。さすがに攻撃は執拗で、セインはひたすら楯で身を守ることしかできず、その場で釘付けとなった。
その隙に、ジョルダンはオオサソリの背後に回り込み、尻尾の関節めがけて剣を振るった。しかし、関節部に当たっても、わずかな傷がつくだけで、大したダメージにならない。
「一撃で無理でも、何度も打ち込めばきっと!」
ジョルダンが必死に剣を振るう。オオサソリがそれに気付いて、尻尾の攻撃をジョルダンに加えようとする。セインがそれを防ごうと、シールドごとサソリの頭部に体当たりを掛ける。同時にカーラが短剣で、サソリの眼球を狙って短剣を振るった。だが、狙いは外れて、頭部の表皮に攻撃が弾き返されてしまった。
マリサは魔法を打ち込む隙を窺っていたが、なかなかその機会がない。仲間を信じて、セインの楯の後ろで待機する。
セインやカーラが気を引いてくれたおかげで、サソリの尻尾に隙ができた。ジョルダンが繰り返し剣を振るい、尻尾の関節部に少しずつダメージを与えていく。何度も同じ場所を斬りつけて傷口を広げていく。やがて十数回の攻撃が功を奏し、尻尾を見事に斬り飛ばすことに成功した。
尻尾を落とされたことで、サソリの攻撃が脅威でなくなった。あとは体当たりと噛みつき、前足による殴りつけだけである。セインのシールドは、それらの攻撃を余裕で防いでいた。
カーラが頭部を引き続き攻撃する。そこにジョルダンも加わり、ついに目に大きな傷をつけることに成功した。特に強化魔法のかかっているジョルダンの一撃が大きく、頭部に深い傷を与えていた。
「やっと出番ね。ファイアボール!」
サソリの傷口にマリサが魔法を叩きこむ。傷口に直撃し、そこから高熱がサソリの頭を焼いていく。炎が燃え尽きた時には、大きな焼け跡が残り、頭部の一部がえぐれていた。
「これでとどめ!」
強化魔法の効果はまだ持続している。ジョルダンの渾身の突きが、焼けた傷跡に突き刺さる。威力の高い一撃に頭部を貫かれ、オオサソリが地に倒れた。そのまま霧状になって消えていく。
「よし、勝った。全員無事か。俺は大丈夫」
戦闘後、ジョルダンはまず仲間の無事を確認する。それがリーダーの役割だと良く知っているのだ。それを怠ることは一度もなかった。そういう点でも、彼にリーダーを託した三人の判断は正しかったと言える。
「私は無事」
「あたしも平気」
「僕も大丈夫。だけど、さすがにちょっと疲れた」
無事は無事だが、さすがのセインも弱音を吐いた。本日二度目の戦闘で、しかも壁役を地道に頑張っていたのだ。疲れるのも当然である。
「分かった。じゃあ、休憩取ろうか」
キリの良いところで、昼食休憩となった。四人が床に座り込み、ギルド長の妻ナタリアの作ったサンドイッチを口にした。ありふれた具材を使っているのだが、バランスが取れていて、空きっ腹にはとてもおいしい。
「はあ、生き返る。やっぱりのんびり食事っていいよね」
セインが顔をほころばせてそんなことを言う。そもそも、探索だ戦闘だというのは、彼本来の希望ではない。仲間がいるから、みなと一緒だから、頑張っているのである。
「ありがとう、セイン。いつも壁役、済まないと思ってる」
「いいよ、ジョルダン。僕にできることはそれくらいだから」
二人が食事の合間にいつものやり取りをしていた。そこにカーラが割って入った。
「ところで、この後の事だけど、探索続行でいいのかな」
三人がカーラを一斉に見る。
「地図の、ここら辺、半端だから埋めておくとちょうどいいかなって」
なるほどと三人がうなずく。探索続行となると、また戦闘があるかもしれない。気になるのは魔法の残り使用回数だ。
「僕はあと四回。一戦なら大丈夫」
「私があと二回。一発でも外したら大変なことになるわね」
カーラが納得して、言葉を続けた。
「じゃあ、戦闘は避ける方向で探索続行、それでいいかな」
三人がその言葉に同意する。
「それじゃあ、きちんと休んで、探索再開と行こうか」
四人が食事を再開した。無言で食べるのも雰囲気が悪いからか、四人は食べる合間に戦闘の振り返りをしていた。連携もかなり良くなって、オオサソリを手際よく退治できたことで、さらに自信を深めていた。
その後、パーティ四人は探索を再開し、地図の右側、東の方角一帯をあらかた探索し終えた。行き止まりが数か所、ただの回り道になっている場所もあった。魔物とも一度遭遇しているが、対戦経験のあるヒュージスパイダーだったので、あっさりと倒して魔石を入手することができた。
かなり長時間の探索になったが、地図が切りよく埋まったところで、引き上げることになった。
「探索も順調だね。何か、本格的に冒険者になれたって気がするよ」
帰り道、セインがそんなことを言って、他のメンバーに笑われていた。
「相変わらずだな。俺達、これでも最初から冒険者だぞ」
「そうそう。私達、今回の探索で三体も魔物倒したのよ。もっと堂々としてもいいと思うわ。もちろん、油断は禁物だけどね」
「持てる力が十分に出せてる感じで、満足のいく結果だと思う。あたしとしては、かなり地図も埋められたし、探索の甲斐があって良かった」
ジョルダンもマリサもカーラも、口々に今日の成果に満足したことを話していた。まあ、言われてみればそうだなと、セインもうなずく。
「そうだね。僕も頑張った甲斐があったよ」
最初はとりあえず組んだパーティだったが、いつの間にやら仲良くなったものだと思った。仲間のことを信頼できるし、信頼もしてもらってる。
「お互いに信頼し合ってるから、結果が出たんだろうねえ」
セインがそう口にすると、三人もうなずいていた。
「偶然とは言え、みんなに出会えて、俺は本当に良かったと思う。みんな、ありがとう」
「礼を言うのは私も同じよ。ありがとね」
「あたしもそれは同じよ。これで七戦。みんなのおかげで探索も順調。セインじゃないけど、冒険者らしくなったよね、あたし達」
セインが苦笑して、言葉を返した。
「そうだね。これからも頑張ろう」
やがて四人はダンジョンを出て、村へと戻って行った。
冒険者ギルドの家族四人が、いつもの通り温かく迎えてくれて、この日も無事に終わるのだった。
三度目の探索も順調です。一人一人が弱いので、連携しないと魔物が倒せません。それでもここまで七勝。よく頑張ってますね。四人共仲間を大切にするいい人達ですから、これからの活躍に期待してます。




