第十三話 村の子供達と一休み
苦戦を制して、見事にレッサーコモドドラゴンを討伐したセイン、ジョルダン、マリサ、カーラの四人組。冒険者ギルドへと引き上げ、明日の探索に備えるのだった。
「へえ、今日は二体も魔物を倒したの。大したものだわ」
冒険者ギルドに戻ると、ギルド長の妻、ナタリアが出迎えてくれた。まだ昼過ぎの早い時間である。結果を報告すると、そんな風に褒めてくれたのだった。
「はい。頑張りました。それで魔石二つ、引き取りお願いします」
ジョルダンが魔石を取り出して差し出す。今回はラージウルフとレッサーコモドドラゴンの二体分である。
「銀貨二枚と三枚、合計五枚ね。ご苦労様。確かに魔石は受け取ったわ」
ナタリアが換金して、銀貨をジョルダンに手渡す。これで今日の探索は全て終わりである。
そこで、ナタリアが頼みごとをしてきた。
「ちょっと四人に頼みがあるの。まだ時間も早いことだし、アイナとポルタの様子を見に行ってくれないかしら。友達と遊んでると思うんだけど、もし良かったら、一緒に遊んであげると、子供達も喜ぶと思うの。あなたたちみたいなお兄さん、お姉さんと一緒に遊べることって、滅多にないから」
四人が顔を見合わせた。二回魔物と戦ってきたが、体力にも気力にもまだ余裕はある。確かに、自分達が子供の頃にも、年上の人と遊ぶのを喜んでいた記憶が鮮明に残っている。せっかくだし、誘いに乗って、この村の子供達となじむのもいいことかもしれない。
「分かりました。せっかくの頼みですから、一緒に遊んできます」
「ありがとう。多分、今日は村の中央の広場で遊んでいるはずよ」
日によっては野原で虫取りをしたり、川で魚釣りをしたり、森の中で探検ごっこをしたり、いろいろと遊びがあるのだろう。その辺は容易に想像がついた。
「では、荷物を置いたら、行ってきますね」
そして四人は、身軽になって村の広場へとやってきた。
子供達は全部で八人。全員、学舎に通う年代、つまり七才から十一才までの男の子達、女の子達だった。今はちょうどかくれんぼをしているらしい。
「もういいかい」
「もういいよー」
オニ役はナタリアの娘アイナだった。
「やあ、アイナ。かくれんぼかい?」
ジョルダンが声を掛けると、アイナが笑顔で答えてくれた。
「みなさん、おかえりなさい。そうです、今はかくれんぼの最中です。ご覧の通り、私がオニなんですけど、まあ、見てて下さいな。すぐに全員見つけて見せます」
この広場は木で囲まれていて、建物は物置小屋が二つ。それほど隠れる場所は多くなさそうだった。ただし、隠れた後の移動はありだ。賢い子は、オニの様子を見て、一度探した場所が盲点となることから、上手にそこへと逃げ込むことがあった。
しかし、アイナはその辺も計算に入れた上で、上手に隠れた場所を探し出していく。一人目は小屋の陰にいたところを即座に見つかった。二人目も別の小屋の物陰にいたが、続けざまに見つかっている。弟のポルタは、小屋の近くに生えていた木の裏に潜んでいたが、やはりすぐ見つかった。
そんな具合で、全員を見つけるのに五分程度で終わっている。さすがはアイナ、遊んでいる子供達の中でも最年長の十一才だけのことはあった。
一段落着いたところで、セインが四人を代表して声を掛けた。
「僕達も一緒に遊んでもいいかな」
その申し出は子供達にとって意外だったようだ。何せ、四人共一応は冒険者で、魔物を討伐する人達なのだ。しかし、少し年上の人に遊んでもらえるのはうれしいようで、口々に、やった、楽しそう、などと話していた。
「それなら、私がもう一回オニをやるわ。セインさん達も隠れて下さい。絶対に見つけてやりますから」
四人の参加は、アイナのやる気に火をつけたようだった。とても気合の入った表情で、目を閉じて数を数え始めた。
「一、二、三……五十。もういいかい」
「まあだだよー」
セイン達四人も、本気を出して隠れることにした。それぞれ思う所へと移動し、姿を潜ませる。
「……百っと。もういいかい」
「もういいよー」
アイナが気合を入れて探し始めた。子供達はいつもの調子で、順に見つけられてしまった。さて、冒険者の四人はさてどこだろう。アイナは楽しそうに木の裏や小屋の物陰を当たっていく。
「ジョルダンさん、見ーつけた」
四人で一番最初に見つかったのはジョルダンだった。やはり体格が良いので、隠れた場所から体がはみ出してしまっていたのだ。
「そういうの、頭隠して尻隠さずって言うんですよ」
アイナがしたり顔で言う。ジョルダンは苦笑して頭をかいた。
二番目はマリサだった。人が通れなさそうな灌木と灌木の間に、うまく身を潜ませていた。普通は見落としそうな場所だったが、それでもアイナはさすが遊びの達人、見事に発見していた。
「マリサさんも見つけました」
「残念。ここならいけると思ったんだけどなあ。さすがアイナね」
マリサはそう言って、笑みを浮かべて灌木の間から出てきた。
ちょうどそこでアイナが振り返って小屋の方を見ると、そこにセインがいた。何と、屋根の上である。
「セインさん、見ーつけた」
「あちゃあ、バレちゃった」
小屋の周辺でも、隠れ場所と言うと下ばかりに気を取られがちなので、見つかるのが遅かったのだ。しかし、遠くから見ると一目瞭然なのである。しかし、さすがセインも田舎村の出身、小屋の屋根に上るのも朝飯前だった。探す側の盲点を見事に突いていた。
そして、最後まで見つからなかったのがカーラである。さすがシーフだとみなが感心していたが、五分、十分過ぎてもまだ見つからない。まさか本気を出して潜伏魔法でも使っているのではないかと、パーティの仲間が疑い始めた頃、ようやくアイナがうれしそうな声を出した。
「カーラさん、やっと見つけました」
こちらも木の上だった。太い枝の上に隠れていて、下から見上げても見つからない位置にいたのだった。横から見ても、他の枝が邪魔をして見づらくなっており、それで見つけるのに時間がかかったのだ。さすがにカーラも潜伏魔法は使っておらず、技だけで勝負していたのだった。
「すごいや、お姉ちゃん。よくそんな木の上に登れたね」
「全然分からなかった。さすが冒険者のお姉ちゃんだね」
子供達がみな一様に感心していた。ちょっと本気を出し過ぎたかと、カーラは少し気恥しそうに、木から降りてきた。
「ねえ、ねえ、ダンジョンの話聞きたい」
「魔物と戦ったんでしょ。どうやって勝ったのか知りたい」
カーラの隠れぶりに感心した子供達が、冒険者の凄さを改めて知って、そんなことを口々に言ってきた。八人全員が同じ考えに至ったようで、代表してアイナが頼んできた。
「どうか良かったら話して下さい。みんな楽しみなようです」
そこまで言われては、断るのも無粋だろう。
ジョルダンが代表して話を始めた。
「今日は二回も魔物と戦ったんだ。一回目はラージウルフっていう、大きな狼の魔物でね」
そう前置きして、戦いの様子を身振り手振りを交えて、詳細に語った。
時々、セイン、マリサ、カーラも補足していく。滅多に聞けない魔物との戦いの話に、子供達も大喜びだった。
「二回目はレッサーコモドドラゴンっていう、すごく固い大トカゲの魔物だったんだ。さすがにすごく苦労してね」
苦戦する場面になると、子供達も心配そうな表情を浮かべてきた。
「危なくなかったの?」
「それは危ないわよ。噛まれたら、大ケガ間違いなし」
「尻尾の攻撃を受けても、間違いなくケガするわね」
カーラとマリサがそう言うと、うわ、おっかねえなどと、子供達が怖れて声を出した。
そしてセインのシールドで守り切り、ジョルダンとカーラで傷を深くし、マリサの魔法でとどめを刺したところで、子供達の興奮も最高潮に達した。
「すごい、そうやって勝ったんだ」
「さすが冒険者。かっこいいなあ」
そんなこんなで、結構な長話となった。日も傾いてきて、そろそろ解散という時間になっていた。
「それじゃあみんな、今日は解散ね」
「うん。冒険者のお兄さん、お姉さん、今日はありがとう」
「また時間があったら、一緒に遊んでね」
子供達が口々に言って、手を振って立ち去っていった。彼らにも、家に帰ってから、家事の手伝いや公衆浴場に行く用事などがある。学舎で学び、たくさん遊び、家の仕事もこなしてと、心身共に健康に育っていた。
「つい四年前までは、私達もあんな風だったわね」
マリサが懐かしそうに言った。三年間の学院生活が充実していたので、そちらの方が思い出深い。それでも子供の頃の記憶もまだ色濃く残っている。
「そうだな。俺は遊びもチャンバラが多かったけどな」
「あたしは道具いじるのが多かったわね。楽しかったの覚えてる」
「僕はアイナ達みたいに、友達と遊ぶことが多かったな」
他の三人も、懐かしそうに過去を振り返っていた。
アイナがそんな四人の姿を見て、改めて礼を言った。
「今日は一緒に遊んでくれてありがとうございました。みなさんを見ていると、冒険者を目指すのもいいなって、改めて思いましたよ」
「アイナ姉ちゃん、ずるいよ。僕だって冒険者になって、お父さん、お母さんのお手伝いがしたいんだよ」
弟のポルタが口を尖らせた。何とも平和な光景だった。
その日の夕食は、とても和やかに進んだ。
「そっか、アイナとポルタも四人と遊べて良かったか。魔物退治の話も聞けて、子供達も大喜びだっただろう。ありがとうな、みんな」
タイロンが笑みを浮かべて礼を言ってきた。
「いえ、こちらこそ、童心に戻れて楽しかったですよ」
ジョルダンがそう言うと、マリサが苦笑しながら言葉を付け足した。
「でも、私達も、まだ子供の延長だなって思って。もっと経験を積んで、一人前になるよう頑張らないと、とは思いましたけどね」
「あたしも同じ意見。冒険者は命懸けなんだから、しっかり頑張らないと、とは思いました」
カーラもそんなことを言った。セインは頼れる仲間達に感心しつつも、相変わらずの口調で言うのだった。
「でもまあ、これで四体も魔物を倒せましたし、順調かと思ってます。なので、焦らず、着実に力を付けられるよう、努力していきます。タイロンさん、ナタリーさん、アイナ、ポルタ、これからもお世話になりますけど、どうかよろしくお願いします」
その言葉で、四人が一斉に頭を下げた。
まだまだ先行きは長い。おいしい夕食を頂き、この日もゆっくりと休んだ四人組なのであった。
村の子供達との交流編です。戦闘続きだったので、ほっと一息ついた感じですね。まだまだダンジョン探索は続きますし、戦闘もあります。これからも、レベルが上がるまで頑張っていく四人の姿を描いていきます。




