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第十二話 レッサーコモドドラゴンとの戦い

 ダンジョンを探索している途中、ラージウルフを見事に討伐したセインたち。しかし、今度はレッサーコモドドラゴンという難敵がいたのである。四人は戦うべきかどうか相談を始めたのだった。

「固くて頑丈、鋭い歯で噛まれたら大ケガ間違いなしの強敵。どうする、みんな。無理に戦う必要はないと思うけど」

 カーラが簡単に魔物の説明をした。レッサーと名がつくのは、同じ名前の魔物に上位種がいるからである。コモドトカゲは普通の爬虫類だが、その姿に似た魔物のことを、人はコモドドラゴンと呼んでいた。レッサーで体長二メートル程度、上位種のミドルコモドドラゴンで三、四メートル、最上位種のアークコモドドラゴンともなれば五メートルを超えることもざらにある、巨大な魔物である。

「聞いたことがあるわ。あれが相手だと、私のウィンドカッターでも斬り裂けないかも知れないわね」

「それはあたしの短剣も同じ。目や口元、関節とか弱いところならともかく、表面には傷をつけるのは無理かも」

 マリサもカーラも冷静である。戦える相手かどうか、慎重に見極めようとしていた。

 対照的に、ジョルダンは戦意が先走っていた。

「でもさ、俺達、ほとんど消耗してないだろ。戦わずに引き返すのは、消極的すぎないか。まだダンジョンもそれほど奥に入ったわけじゃないし、いくら何でも、勝てないほどの強敵じゃないはずだよ」

 確かに一理ある。しかし、問題はどうやって倒すかである。

 セインが割って入った。せっかくだから戦おうというジョルダンの意見と、無理せず退却すべきという意見の折衷だった。

「僕の強化魔法をジョルダンにかけて、それでどれだけ歯が立つかどうかってことかな。相手はそれほど動きも速くなさそうだし、勝てそうもなければ退却すればいいんじゃないかな」

 マリサとカーラがふうと息をついた。確かに威力偵察として、一戦交えるのはありかもしれないと考えた。

「分かったわ。とりあえず、やれるだけやってみましょう。私の魔法は確実に利く時以外は温存、ジョルダンが弱点を突いて、カーラが陽動、セインは強化魔法を掛けた後は、いつも通り壁役。それでいいかしら」

 マリサが作戦の基本方針を説明した。他の三人に異存はない。というか、他の戦い方はできない四人組であった。

「ありがとう、マリサ。なら、それで行こう。じゃあ、合図で一気に突撃しよう」

 こうしてレッサーコモドドラゴンとの対戦を決めた四人は、激闘に身を投じることとなった。


「ストレングス!」

 セインの強化魔法がジョルダンを包む。身体能力を引き上げる魔法だ。突撃していたジョルダンの速度が上がり、コモドドラゴンへと一気に近づく。

 間合いに入ると同時に、ジョルダンが思い切り剣を振り下ろす。高らかな金属音がして、コモドドラゴンの体にわずかな傷をつけた。だが、とてもダメージを与えた内には入らない。

 セインが遅れて突撃してきて、敵の注意を逸らすべく魔法を発動する。

「ホーリーシールド!」

 さっきの戦いの時と同様、楯を展開してそのまま体当たりを掛ける。コモドドラゴンの顔に当たり、注意がジョルダンからセインに向かった。

 陽動のカーラが素早く動いて、コモドドラゴンの頭部に斬りつける。しかし、頭皮も固く、傷一つつかない。

「あたしの攻撃じゃ無理みたい。ジョルダン、体と足の付け根を狙って」

「分かった、やってみる」

 ジョルダンが剣を体の前で構え、そのまま突進して突きを放つ。狙いはカーラが言っていた足の付け根だ。

 ザックリと音がして、わずかに剣先がコモドドラゴンの左の後足の付け根に食い込んだ。ジョルダンが剣を引き抜き、再びその傷に突きを放つ。先程より深く剣が刺さり、コモドドラゴンが煩わし気に尻尾を振り回した。

「まずい!」

 ジョルダンが慌てて飛び退こうとするが、剣を引き抜く時間の分、間に合いそうになかった。

 そこへマリサの魔法が発動した。

「ウィンドストーム!」

 風の圧力で相手を押し出す魔法だ。狙いはコモドドラゴンではなくジョルダンである。風の力に押し出されて、ジョルダンはコモドドラゴンの尻尾攻撃を避けることができた。

「ありがとう、マリサ」

「どういたしまして。でも、まだまだ浅手、どうしたものかしらね」

 コモドドラゴンは大口を開けて、セインに噛みつこうと攻撃を繰り返している。セインはシールドで必死に身を守っていて、とても他のことにまで気が回らない様子だった。

「とにかく、傷を徹底的に狙おう」

 ジョルダンとカーラが、繰り返し左足の付け根を狙って攻撃を始めた。尻尾による反撃に気を付けながら、少しずつ傷を広げていく。

 コモドドラゴンが向きを変えて、左足を攻めてくる人間に噛みつこうとした。セインがシールドをぶつけても構わず向きを変え、大口を開けてジョルダンとカーラを狙う。

「一度、仕切り直すわ。ジョルダンも下がって」

 敵の意図を察知したカーラが一早く下がり、ジョルダンもその後に続く。コモドドラゴンの噛みつきが空振りに終わり、戦闘が仕切り直しとなる。

「こいつは予想外に面倒だな。さて、どうしたものか」

 ジョルダンが、自分の目算が甘かったことを知って、そんなことを言った。それを叱咤したのは、やはりマリサだった。

「でも勝てない相手じゃないわよ。ダメージは通ってる。これで相手の弱点を増やすから、二人でそこを狙って。いくわよ、ファイアボール!」

 ちょうどコモドドラゴンが四人に向き直るところだった。その大きな隙に火球の魔法が直撃する。顔面に当たり、右の目玉を高熱で焼いた。

「さすがマリサ! じゃあ僕も!」

 セインがシールドを構えて突進し、コモドドラゴンに頭部に再び体当たりをかます。頭部にダメージが残っているせいか、そこでコモドドラゴンのバランスが崩れた。

「あたしが頭を狙う! ジョルダンは足を!」

 カーラが鋭く指示を出し、短剣を構えて突進する。突き刺しては離れ、離れては突進するといった一撃離脱の攻撃を執拗に加えていく。

「こっちは任せろ」

 ジョルダンが手傷を負った足の付け根をしつこく斬りつけていく。少しずつだが傷口が広がり、体の内面がむき出しになりつつあった。

 カーラやジョルダンが狙われないよう、セインがシールドでしつこくぶつかっていく。コモドドラゴンには相当煩わしいようで、何度もセインに噛みつこうとして、楯に阻まれていた。

 やがて、足の傷が限界に達したのだろう。コモドドラゴンの動きがぎこちなくなった。

「ここだ! うおおおりゃ!」

 ジョルダンがその大きな隙を突いて、渾身の一撃を傷口に見舞った。見事に直撃して、左の後足を斬り落とすことに成功した。コモドドラゴンのバランスが一気に崩れ、尻尾が地面を叩いた。

「カーラどいて! これでとどめ!」

 マリサが再び火球の魔法を準備する。カーラが飛び退き、魔法の進路を確保する。カーラが頭部に与えたダメージは大きく、こちらも大きな傷口が広がっていた。

「ファイアボール!」

 マリサの火魔法は、良く修業しただけあって、拳大の火球でも高温で威力も大きい。これが表皮なら表面を焦がす程度だったかもしれないが、大きく開いた傷口への直撃である。傷口から内部を焼いていき、コモドドラゴンがダメージに身もだえた。

 しばらくして、コモドドラゴンは地に倒れた。これまでの魔物と同じように、倒されると霧状になって消えていく。その姿を、四人は呆然と見守っていた。自分達が勝ったのが、まだ信じられないようだった。

 やがて、魔石一つを残して、コモドドラゴンが消え去る。それを見届けて、ようやく四人も我に返った。

「勝った、やった……」

 とどめを刺したマリサが呆然とつぶやく。そして大きく息を吐いて、その場に座り込んでしまった。緊張と集中が不意に途切れたためである。

「やったね、マリサ。見事な一撃だったよ」

「指示も的確だったし、おかげで倒せたよ」

「ありがとう、マリサがいてくれて良かった」

 他の三人が口々に仲間を褒めた。確かにそう言われるだけの活躍をしているが、マリサ本人はあくまで隙を突いて攻撃しただけだと思っていた。

「褒めてくれてありがとう。でも、私の魔法が決まったのは、みんなが頑張ってくれたおかげ。ジョルダンは足を斬り落としたし、カーラは頭の傷を広げてくれた。セインは私を守りながら、シールドでしつこく注意を引いてくれた。これは、みんなの協力あっての勝利なのよ」

 本心からそう思っているのが分かる言葉だった。実際、四人のだれが欠けても勝つことはできなかったに違いない。

「少し休憩していこうか」

 魔石を拾って、ジョルダンが仲間に提案した。激闘の後だけに、全員がそれに賛成した。水筒を開けて、一息入れる。

「あたし思うんだけど、みんなの連携、だんだん良くなってない?」

 カーラが一番にそう言った。三人がその通りだとうなずく。

「俺も同感。リーダーじゃなくても、カーラもマリサも、必要な時に声を掛けてくれただろ。あれがすごく大きかった。本当に助かったよ」

 全部が全部ジョルダンの指示で動いていたら、こんなに上手に連携できないだろう。パーティが上手に機能するには、やはり的確な指示はとても重要なことである。

「そうね、カーラの指示で攻撃の手分けができたのは大きかったわね。私も必死だったから、つい指示を出しちゃったけど、カーラが素早く反応してくれたから助かったわ。でもジョルダン、本来は指揮系統は一本化した方が良いものだって分かってる? 指示が錯綜すると混乱の元だから」

 マリサの言葉も正論である。

「でもさ、戦いは臨機応変に行うものだよ。それにこんな少人数では、互いに連携できることが第一で、指示を誰が出すかなんてどうでもいいことさ。だから二人が指示を出したのは間違ってないよ」

 リーダーらしく、ジョルダンははっきりと言い切った。確かにその通りだと、他の三人もうなずく。

「なにはともあれ、これで僕達、四連勝だね。良かったと思うよ。今のところ順調だってことだよね」

 相変わらずのんびりした感じでセインは言う。本来、戦闘向きではないと自分でも自覚しているだけに、無事に勝てて安心していたのだった。

「じゃあ、これで今日は引き上げだね」

 マリサの魔法も残り一回しかない。当然の選択だった。

「そうだな。今日は引き上げて、また明日頑張ろう」

 ジョルダンの言葉で全員が立ち上がり、帰路につくのだった。

 思った以上に大激闘となりました。まだレベル一だし特殊な攻撃方法もないし、みなよく頑張ったのではないでしょうか。苦戦しつつも見事に押し切っていく様子を描きました。コモドドラゴンはコモドトカゲの別名なのですが、ここでは魔物という扱いにしています。

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