152・保健室にミリーを見舞う
REオフステージ (惣堀高校演劇部)
152・保健室にミリーを見舞う 須磨
ここのところ、演劇部はいろいろある。
啓介が野球部の助っ人をやったかと思うと、9回の裏でヘリコプターが不時着、車いすがトラブって千歳が身動き取れなくなった。ミリーと二人でおたついていたら、バッターボックスから啓介が飛んできてドラマチックに救助。
ちょっといい雰囲気の二人……と思ったら、その千歳は二年の車いすの男子と仲良くなった。
対する啓介も、下足ロッカーに手紙を入れるというテンプレ的手法で屋上に呼び出した一年女子といい仲になった。
なんでも、南河内の温泉に行った時に、マウスツーマウスの人工呼吸で助けたお婆さんの孫らしい。
伊藤香里菜という、その子はヘリコプターの一件も見ていた。陰ながら思いを寄せていた彼女にしたら、これは積極的に前に出なければと思って、ロッカーレターと屋上での告白という攻撃に出たんだ。一見大人しそうな子だけど、ヘリコプター事件の二人を見て、敵わないと思うのではなく前に出てくる。おもしろい子だ。
演劇はやらない演劇部だけど、日常生活が劇的で面白い。
もうひとつ面白い事件……と言っては不謹慎なんだけど、今度は、ミリーが人生の師とも仰ぐ、田中さんのお婆ちゃんが危篤になってシカゴに戻った。なんとか臨終には間に合ったみたいだけど、学校のある身なので、お葬式には出ずに帰ってきた。
そのミリーが、休み時間中に具合が悪くなって一人で保健室に行くのを見かけてしまった。
「ねえ、わたし、入っていいかい?」
一言声をかけて、仕切りのカーテンを開けると、毒リンゴを齧った白雪姫みたいにミリーは寝ていた。
「あ、松井先輩……」
「疲れが出たんだね、とんぼ返りだったし、大好きなお婆ちゃんだったし」
「あ、すみません。ひとりで抱えてるのがしんどくて、つい先輩にメールしてしまいました」
「いや、嬉しかったよ。こういう時に頼りにしてくれて……お婆ちゃんは残念だったね」
「うん、でも、亡くなる前の晩、ゆっくり話せたし」
「そうだったね……メールにも書いてたけど、もう、シカゴには戻れないんだって?」
「はい、治安がめちゃくちゃ悪いんで……」
「そうみたいだね……でも、まだ高校二年なんだし、焦ることは無いわよ」
「はい」
「わたしもね、来年卒業するんだ」
「え、本当ですか( ゜Д゜)!?」
「うん、田舎の山梨に戻ってお婆ちゃんの手伝いというか、見習いやるんだ」
「見習い?」
「あ、みんなには言ったことないんだけどね……うちの家は、昔から林業とかいろいろやっていてね。じつは、文化祭の後、山梨に戻ってね……」
山梨の一件を話すと、ミリーは目を丸くして驚いた。
「そうだったんですかぁ……なんか、大河ドラマみたいですねえ!」
「あはは、未だに『お屋形さま』とか『姫さま』の世界だからね。しばらくは見習いだけど、面白そうだし。もし、その気になったら、山梨へおいでよ、仕事ならいっぱいあるし、ミリーが来てくれたら助かるし」
「ありがとうございます」
「まあ、大学とかに行く手もあるし。いっそ、日本人の嫁になれば永住できるよ」
「え、山梨でですかぁ!?」
「ああ、それもいいけど、手近に優良株がいるじゃない」
「……!?」
白雪姫の頬っぺたがリンゴみたいになった。
「どうよ」
「あ、あきませんよ! あいつには伊藤香里菜とかおるしぃ、千歳かて、どこか相思相愛みたいやしぃ……」
「アハハ、あんなのは、まだまだ予行演習、子どもの恋愛ごっこ! まあ、そこからゴールインすることもあるけどね、余裕よ余裕!」
「先輩、なんか、ものすごく貫録ですねえ」
「……そういや、ミリー、ちょっと敬語になりすぎ」
「え、あ……」
「学年はいっこしか変わらないんだぞ」
「一つ聞いていいですか?」
「ん、なに?」
「卒業目指すということは、教室に戻る気ぃなんですか?」
「え、あ……もちろん!」
「あ、いま、躊躇しましたよね!?」
「もう、先輩をおちょくるんじゃない」
ミリーも少し元気になった……かと思ったら、保健室の戸が開いて、養護の先生と車いすが入って来る音がした。
☆彡 主な登場人物とあれこれ
小山内啓介 演劇部部長
沢村千歳 車いすの一年生
沢村留美 千歳の姉
ミリー 交換留学生 渡辺家に下宿
松井須磨 停学6年目の留年生 甲府の旧家にルーツがある
瀬戸内美春 生徒会副会長
ミッキー・ドナルド サンフランシスコの高校生
シンディ― サンフランシスコの高校生
生徒たち セーヤン(情報部) トラヤン 生徒会長 谷口 織田信中 伊藤香里菜
先生たち 姫ちゃん 八重桜(敷島) 松平(生徒会顧問) 朝倉美乃梨(須磨の元同級生) 大久保(生指部長)
惣堀商店街 ハイス薬局(ハゲの店主と女房のエリヨ) ケメコ(そうほり屋の娘)




