150・タナカさんのお婆ちゃん
REオフステージ (惣堀高校演劇部)
150・タナカさんのお婆ちゃん ミリー
そのあと、ミチコさんが「ママ、ミリーがもどってきたわよ」と手をさすりながら呼びかけていると、意識が戻って、少しだけならとお婆ちゃんのベッドの横に座った。
「……あれぇ、ミリーやんか。冬休みにはまだ間があるやろぉ?」
頭はしっかりしている、わたしのことも、今の季節のことも分かってるみたい。
「あ、うん、ええとね……」
「そうか、だれかがミリーに教えたんやねぇ」
「え、あ、まあ……」
「いやあ、しばらく見んうちに女らしなってからに……嫁に来たころのソフィー(わたしのお母さん)にソックリや」
「え、あはは、そうかなあ(^_^;)」
「うん、そうやって恥ずかしがったら、眉毛が垂れるとこなんか、そのまんまや。怒ったら、逆に閻魔さんみたいに逆さになるんや、ようクラークがおちょくとった」
「うん、さっきリビングで会った。いっちょまえに司祭服とか着てて、笑えたわぁ」
「フフフ、クラークなあ、彼女がでけたんやで」
「え、ほんまぁ!?」
「うん、いっこ年上やけどなあハイスクールの同級生やったんや」
「へえ、姉さん女房なんや……て、ちょっと気が早いか」
「ううん、一回だけカノジョ連れてきよったけど、感じのええ子やった。ミチコも気に入って、カレッジ出たらうちの会社に入れよて言うてる」
「うんうん、ミチコさんも、ますます元気そうで」
「うん、ミチコは父親似やねんけど、うちに似たんか、あんまり太らへん体質でなあ、おかげでゴードンミルズ(お婆ちゃんの会社)の小麦粉で作ったパンやらケーキは食べても太らへんいう評判なんや。お金のかからん広告塔や」
「フフ、そうなんや」
「……懐かしいなあ、あんたの大阪弁」
「あはは、ついさっきまでは英語に戻ってしもてたんやけどね」
「……ミリーの花嫁姿見たかったわあ」
「ええ、まだ十七やでぇ、あたし」
「だれか、ええ人はおらんのんかいな」
「え、あ、それは……」
「友だちは居てんのんか?」
「あ、それはもちろん!」
スマホを出して、下宿先の渡辺さんの家族、演劇部のみんなや学校の仲間の写真を見せてあげる。
「あ……このニイチャンええなあ」
「え、あ……」
ええも悪いも無い、写真に写ってる男は、文化祭の時の以外は写ってるのは啓介ひとり。
「うちの演劇部、男子は一人だけやしなあ。けど、そんなええとこあるぅ?」
「パソコン前にして、なんや真剣に仕事してて、できる男いう感じやんか」
「あ、こいつがやっとおるのはエロゲ!」
「エロゲ?」
「あ、スケベエなゲーム」
「あはは、男はスケベエなくらいがええねん。男がみんな聖人君主みたいになってしもたら、人類は滅亡するでぇ……いやぁ……ほたえてる(ふざけてる)写真もあるやんかぁ……青春やなあ……この子の名前は?」
「あ、啓介。小山内啓介」
「小山内言うたら、小山内薫といっしょやなあ」
「オサナイカオル?」
「築地小劇場や、日本の新劇の父と言われた人や」
「え、そうなん?」
「名前は啓介……啓介は漫才師でおったなあ」
「プ、漫才師か」
「漫才バカにしたらあかんでえ、英語ではスタンダップコメディー云うて、高等な芸術やでえ」
「いやいや、バカになんかしてへんよ。啓介もそういうギャップがあって面白いところはあるんやけどね」
「あ、いつかミリーの髪の毛『冷やし中華』言うてたのん……」
「そう、この啓介なんやけどもね……」
それから、千歳の奮闘ぶりに感心し、須磨先輩はこれまた往年の新劇大女優と同じと同じ名前で、これで演劇をしないのはもったいないと面白がられ、ミッキーのことでも、意外なほど大きな声でケラケラ笑ったり。
ひょっとしたら、お婆ちゃんは、わたしを呼ぶためにひと芝居うったんちゃうかいうくらい元気やった。
けども、明くる朝、ミチコさんに手を握られ、みんなに見守られながら、お婆ちゃんは神に召されていってしまいました。
☆彡 主な登場人物とあれこれ
小山内啓介 演劇部部長
沢村千歳 車いすの一年生
沢村留美 千歳の姉
ミリー 交換留学生 渡辺家に下宿
松井須磨 停学6年目の留年生 甲府の旧家にルーツがある
瀬戸内美春 生徒会副会長
ミッキー・ドナルド サンフランシスコの高校生
シンディ― サンフランシスコの高校生
生徒たち セーヤン(情報部) トラヤン 生徒会長 谷口 織田信中 伊藤香里菜
先生たち 姫ちゃん 八重桜(敷島) 松平(生徒会顧問) 朝倉美乃梨(須磨の元同級生) 大久保(生指部長)
惣堀商店街 ハイス薬局(ハゲの店主と女房のエリヨ) ケメコ(そうほり屋の娘)




