表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
オフステージ(惣堀高校演劇部)  作者: 大橋むつお
106/156

106・再びの真田山高校

REオフステージ (惣堀高校演劇部)


106・再びの真田山高校  







 今日は『夕鶴』の稽古が無い。



 明後日から始まる第六地区のコンクール予選、その打ち合わせがあるので、部員全員で会場の真田山高校に向かう。


 地区総会に来たのは暑い盛りの七月だった。


 車いすというのは姿勢が低い。


 座っているんだから当たり前なんだけど、頭の位置は地上から一メートルも無くて、幼稚園児が歩いている頭の高さぐらいしかない。


 わずか四五十センチの違いなんだけど、アスファルトの照り返しが尋常じゃなく、健常者よりもうんと暑い。


 背もたれやシートが邪魔で、すっごい熱がこもるんだよ。背中もお尻も汗びちゃになった。



 それが懐かしく思えるくらいに、今日は寒い!



 健常者は歩いているから、ホコホコと温かい。


 でも、わたしって座りっぱなしだから歩行によって温まるということが無いので本当に寒い!


 寒いとトイレが近くなるので、昼ご飯のあと水分を摂っていない。


 内緒だけど五分丈のスパッツを穿いている。うっかりすると見えてしまうので、今日のわたしは大変お行儀がいい。


「ホットのお茶あるけど、少しだけ飲む?」


 介助をしてくれているミリー先輩が保温水筒を差し出してくれる。


「あ、かわいい」


 水筒はトトロの形をしていて、首を外すとコップになる。


「はい、どうぞ」


 トトロの形をしていなかったら、しなくていい遠慮をしてしまっただろう。


「かわいい」と反応することで先輩は「でしょ」とお茶を注いでくれる。普通の水筒だったら「あ、いいです」と返してしまう。


 元々の性格なのか、小六で車いすになってからかは分からないけど、人が勧めてくれたことには一歩引いてしまう臆病なところがある。


 むろん、こんな体なので、いざという時には見ず知らずの人にもお願いしたり頼りにしたりしなくちゃならないので、差し迫った時でなければ、つい遠慮してしまうのだ。


 ミリー先輩は、ついこないだまでは車いすだった。


 捻挫をこじらせての短期間だったけど、いっしょにゴロゴロと車いすを転がして、ずいぶん距離が縮まった。


 七月は、須磨先輩が解除してくれていたけど、今日の須磨先輩は自然な流れで付き添いの朝倉先生と喋りながら、わたしたちの最後尾を歩いている。その声が聞こえてくるんだけど、なんだか友だち同士みたいなノリだ。噂では、二人は同級生同士だったらしいんだけど、どうなんだろ?



 真田山の会議室。



 みんな「こんにちわ!」と明るく挨拶してくれる。こちらも「こんにちわ!」と返すんだけど、七月の時のようにキャーキャー言われることは無い。


 七月は部室棟のことで演劇部は有名になった。SNSだけじゃなくテレビのニュースなんかにも出たので、なんだかアイドルの握手会みたくなってしまった。


 まあ、一種のノリだったんだろうなと納得。


 でも、ミッキーは新顔のアメリカ人、でもって、演劇部というのはどこの学校も女ばっかなので、チラチラとチラ見されている。


「『日本の学校って、みんなきれいだね……校舎も生徒も』って言ってる」


 ミッキーの独り言をミリー先輩が同時通訳。


「how about SOUHORI?」


 惣堀高校はどうよ? とミリー先輩が聞き返す。この程度の英語は分かる。


「オフコース!」


 分かりやすいカタカナ英語で答えるミッキー。日本語はまだまだだけど、分かりやすい言葉で意思を伝えようとするのはグッドだと思う。


 こないだA新聞の取材で、舞台で稽古の一部を披露するのに舞台に上がるのに間近にいたミッキーがピクリと動いた。

 瞬間で分かったよ、わたしを介助してくれようとしたんだけど――これは啓介先輩の役目――だと思ったんだ。


 啓介先輩だって、成り行きで一回やってくれただけだから、特別な気持ちとかがあってのことじゃないんだよ。あんまり気を回されるのは好きじゃないけど、こういう思いやりは悪くないと思う(^_^;)。



 会議の終わりに受付業務の説明を受ける。



 惣堀は出場はしないけど、受付の仕事をすることになっている。


「これをPRして売って欲しいねん」


 役員校の先生が、ドサリと紙包みを置いた。


 中身は週刊誌大の立派なパンフレットだった。ざっと百部ほど、これを五百円で売る。売り上げはコンクールの運営費用の一部にあてられるそうだ。


 バカにできない売り上げになるそうで、頑張らなくっちゃと思った。


「で、空堀高校の部員は何人?」


「五人です」


「じゃ五冊、どうぞ。代金は今日でなくてもいいけど2500円ね」


 え、わたしたちからも取るの?


「連盟も金ないさかいなあ」


 啓介先輩が忖度すると朝倉先生が茶封筒からお金を出して払う。パンフのことは分かってたんだね。あらかじめ用意していたんだ。


「どうもすみません(^_^;)」


 お礼を言いながら領収書をくれる役員校。


 あとでググってみると、大阪の倍以上の加盟校のある東京以外は苦しいみたい。

 

 会議というか打合せの内容は一年のわたしには難しいのでニコニコ座っているだけ。まあ、空気に馴染んでおくのも大事だからね。


 て……あれ、演劇部は学校辞めるための方便だたんだけどね。


 演劇部に潰れる気配はない。


 え、あ、いやいや、いいんだけどね(#^_^#)。


 


☆彡 主な登場人物とあれこれ


小山内啓介       演劇部部長

沢村千歳        車いすの一年生  

沢村留美        千歳の姉

ミリー         交換留学生 渡辺家に下宿

松井須磨        停学6年目の留年生

瀬戸内美春       生徒会副会長

ミッキー・ドナルド   サンフランシスコの高校生

シンディ―       サンフランシスコの高校生

生徒たち        セーヤン(情報部) トラヤン 生徒会長 谷口

先生たち        姫ちゃん 八重桜(敷島) 松平(生徒会顧問) 朝倉(須磨の元同級生)

惣堀商店街       ハイス薬局(ハゲの店主と女房のエリヨ) ケメコ(そうほり屋の娘)




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 興味深い作品ですね! また読ませてください!
2020/09/05 07:58 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ