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86話 付与

「さくら、僕が付与するのと同時に熱を入れてくれない?」


「どうして……?」


「えーっと――」


 僕がカイトの炉に付与しようとしていることは、真空という事象だ。真空とは空気が存在していないところ、分かりやすいところで言うと宇宙空間がその最たる例であろう。

 それが活用されている馴染みのある物で言えば、断熱性に優れている魔法瓶が一番身近な物だろうか。瓶の縁の内部に熱を伝えない真空状態を作り出すことで、その優れた断熱を可能としている。


 なぜ、真空かと言うと、カイトが前に言っていたように、ある温度よりも上に達することを考えて設計されていないので、それよりも上は耐久することが出来ない。そのためカイトの炉の内部に魔法瓶と同じように真空状態を付与することで、中に蓄えられている熱が真空よりも外側に伝わらないようにし、結果的に耐久温度が設けられている炉本体に、耐久を越えた熱が届かないようにすることが真空を選んだ大きな理由だ。


 それらをざっくりとさくらに説明すると、


「――ってことなんだけど」


「やるのはいいけどさ、一個だけ問題が無い?」


 予想していた通り、真空状態を付与することの欠陥をさくらは見つけたみたいだ。


「真空って言っても熱は通るよね?それはどうするの?」


 僕が先ほど真空にするメリットと相反する主張だと、一見したら思うだろう。だが僕の考えはもちろんのこと、さくらが言っていることもまた正しい。


 熱の伝わり方には3種類ある。


 一つ目は伝導。これは鉄の棒の片側を熱したときに熱した反対側までジワジワと熱が伝わること。

 二つ目は対流。エアコンを想像してみると分かり易いだろうか。エアコンの吹き出し口からは暖められた空気、あるいは冷やされた空気が出ていて、これが部屋の空気と混ざり、設定された温度まで部屋の気温が温冷されること。


 区別の方法としては、簡単に言うと伝導は固体の場合で、対流は液体と気体の場合と考えて差し支えないだろう。


 そして、最後は放射だ。放射は上記の二つより少しだけ特殊で、物質と物質の間を通って熱が伝わるわけではないのだ。


 太陽の熱が何故地球に来ているのだろうか考えたことはないだろうか。伝導と対流の場合、熱は個体間もしくは液体間、気体間で伝わっているのがさきほどの説明で話した通りだが、誰もが知っているとおり宇宙空間にはそれらがほとんど存在しない。でも、確かに太陽の恩恵はその宇宙空間を通って僕たち地球にいる生物にしっかりと届いている。


 その恩恵を伝えているのが、三番目の放射という熱の伝わり方だ。一番身近な例で言うとたき火や電気ストーブがその最たる例だ。それら二つに手をかざしてみると、ほんのりとかざした手に温かみが感じられる。それと同じで太陽に手をかざしてみても温かさが感じられるだろう。


 その仕組みは可視光線(目に見える光)、赤外線や紫外線などの電磁波が地球に、そしてかざした手に届いているからだ。これらは物質に衝突するとその物質を構成している分子に振動を与えるので、結果温かみを感じる。程度は違うが原理で言うと電子レンジが同じ物だろう。


 つまりさくらが言いたいことは、真空を付与しても材料を火の付いた炉の中に入れる入り口から電磁波が漏れてしまい、その付近にいる水分を含んだ生物はたちまち死に至ってしまう恐れがあるのではないかと言うことだ。


 しかしそれは先ほど言った通り僕も考えていたので、対応できるであろう適任も見つけてある。


「それはナビーにサポートして貰うから――」


 良いよね?というニュアンスを含ませた念話を送ると、ナビーからはため息が帰って来たので多分大丈夫だろう。


「分かった、危なくなったら早めに言ってね」


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