85話 方針
みゃーこが人と言語によるコミュニケーションが出来ることになった件について、ウィルは案の定と訳知り顔をしていたが、猫が喋ることをスムーズに受け入れられなかった若干2名によって多少のいざこざはあったものの、各々のやるべき事、やらなければいけないこと、その方針が固く、そして強い意志の元定まった。
それぞれ目の前にある壁やハードルの高さや形状は違えど、サッカーならボールを相手のゴールに入れるように、野球なら自チームの選手がダイアモンドを一周して帰れるように、最終的な目標を一つにして一丸になった気がした。
「とりあえずカイトの炉を強化しようか」
直近のやらなければいけないこととして白羽の矢が立ったのは、カイトの炉に付与魔法で、ある事象を付与することだ。
全員が必須の事項はダンジョンの攻略だが、個人で見た場合、僕はアーティファクト改めエクスカリバーを取りに地球に戻ることと、先述の通り炉に強化を施すこと。カイトはエクスカリバーを修繕できるほどの技術を培うと同時に、魔鉱石錬成のために鍛冶師としての全体的なスキルアップ。さくらは僕が強化した炉に熱源を入れることが、各々が個人ですべきことだ。
それらを見たときに僕のエクスカリバーを取りに行くことは独立しているが、他の事は全部連立しているのでたった一つが欠けてしまうとその後ろが進行できない。そして僕が炉を強化する事こそがその一連の流れの最初の部分なので、全てが滞りなく各々の努力によって最短で成長できる様にするためには炉の強化が優先順位として一番なのだ。
「真冬、任せたぞ!」
カイトのその言葉には全幅の信頼が溢れんばかりに多量に乗っていた。その信頼はカイトの心から僕の手に渡った瞬間、意地悪にも重圧と化し、僕の肩と心に重くのし掛かってきた。
おそらくカイトはそんな腹づもりなど微塵もないのだろう。ただ単に応援してる、信じてると伝えたかったのだろうが、僕の心に棲まうまだ弱い僕のいたずらの所為で、悪辣な変換が為されただけ。
付与魔法のデメリットとして自分のスキルを過信し、身に余る物を付与しようとしてしまったら、付与先である物体は跡形もなく粉々になってしまう。その粉々になってしまった物はもちろん修復など不可能だ。
それでもカイトは僕が失敗することなど一ミリも、一ミクロンほども考えていないように思える。
――それでは失敗することなど出来ないではないか。
もし仮に失敗しても多分、いや十二分の確率でカイトはお疲れ、よく頑張ったな、と失敗して大事な思いが詰まった炉を壊してしまった僕を決して蔑むことなく、手厚く労ってくれるだろう。
そういう時はいっそのこと貶められて貶された方が幾分か罪悪感が紛れるのだろうが、カイトはそこまで優しくないし、なにより人を、僕を疑っていない。僕が炉を壊すことなどどんな平行世界を探しても無いとまで思って、言っているのかも知れない。だから僕はそんなカイトの策にまんまと乗ってやろうと思った。
「任せて!」
そして僕たちは、信頼を握りしめた拳でお互いの拳を突き合わせた。まるでもう既に成功した後の健闘を讃えるみたいな面持ちで。




