69話 目覚め
顔を誰かに舐められている気がする……。
「みゃー?」
ゆっくりと目を開けてみると“大丈夫?”と言いたげな様子のみゃーこは、仰向けになっている僕のお腹の上に乗りながら小首を傾げ、顔を覗き込んでいた。
「大丈夫だよ」
心配を可視化したらこんな感じになるだろうと思うほどのみゃーこの表情を見て、少し前までの僕はさくら以外の誰かにこんなにも心配して貰えるとは露ほどにも思っていなかったので、不謹慎ながらも嬉しくなってしまった。
そんな理由から愛しさが更に増した愛猫の頭を安心させるように撫でながら、以前は話しかけても伝わらなかったことが、何故だが今は心が通じ合っているような気がしているので聞いてみる。
「フランさんはどこかな?」
(あそこにゃ)
頭に響いた問いかけに対するその情報は、いつもの聞き慣れている理性的で澄んだあの声と、後ろに猫よろしく付いた語尾は、完全に異なるものとしか思えなく僕の頭は理解不能を示した。
(……どうしたのかにゃ?フランはあそこにゃ)
僕のお腹の上で、爆発地点であろう場所付近を肉球で指す猫の顔には明らかな知性が宿っており、聞こえてきた声の語尾から目の前にいる猫――みゃーこがこの声の主だろうと、理解不能を乗り越え遅ればせながら考えが至った。
(えーっと、みゃーこで良いんだよね……?)
ナビーに念話で話しかけるのと同じ要領でみゃーこに向けて話しかけてみると、
(合ってるにゃ!にゃんだか原因は分からないけどご主人と話したいって思ったら、何か話せるようにゃったにゃ)
みゃーこはそう言いながら恥ずかしそうに肉球で頭を掻く。その仕草はまんま人間のそれと同じもので、ここまで来ると本当に人間化するのも時間の問題かと思われるが、それよりも爆発を引き起こし、その中心地点に誰よりも近かったフランさんが心配なので、みゃーこを退かし起き上がる。
そして、まだ砂煙が漂う空間をみゃーこの案内で進んでいくと、ぽっかりと口を開けた壁の前でフランさんが倒れていた。
「――だ、大丈夫ですか?」
姿が見えてからすぐさま近寄り、肩を揺すりながら声を掛けたら、
「…………う、うーん……真冬きゅ、ん……?」
「きゅん……?ってそれより大丈夫ですか!?」
目を擦りながら周りを見渡し、数秒の間状況を整理した後、フランさんはハッとした顔をし、次の瞬間には生まれてこの方見たことがなかった土下座をいきなりしだした。
「ご、ごめんなさい!こんなに爆発するなんて思わなくて……ごめんなさい!!」
平身低頭より更に畏まり、低身低頭をしながら何回も謝るフランさんに対して、一方の謝られている側の僕は失礼と思いながらも、思わず吹き出して笑ってしまった。
「ごめんな……さい……って、なんで笑ってるの?」
フランさんの印象は、最初に出会ったときは姉の姿をまんま体現したような感じだったが、徐々にそれが姉だがその中でも駄目な姉に変移していって、現在は頼れる時は頼れるけど、それ以外の時は姉の姿をした面倒を見なくちゃ危なっかしい妹のように思っている。
「すいません、フランさんが余りにも慌てているので」
――人を見かけで判断してはいけない。
フランさんのおかげで、普通の人は痛い目を見てから学ぶようなことを、僕は微笑ましい気持ちで終始を学べたのだから、フランさんには感謝しなくちゃいけないだろう。
「ちょっと……」
フランさんは僕の言葉で自分が起こしていた先ほどの言動を恥じているのか、顔を真っ赤にさせ俯きながら、僕の肩をぽかぽかと効果音が付きそうなほどの弱さで何度も小突いてきた。




