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56話 清算Ⅳ

 目が覚めるとダンジョンから外に連れ出されており、聞いたところによると、寝ている間に行なわれていた冒険者ギルド所属の高ランク冒険者による調査の末に、ジン兄とシュン兄の死亡確認が為されたようだ。遺体と遺品はダンジョンに吸収された後だったので、持ち出されることはなかったが、その調査は確かなものらしい。


 それを聞いた時に、調査を行った関係各所に思うところが無かったとは言いきれないが、自暴自棄になり周囲に迷惑を掛けるようなことをしなかったのは、亡くなった兄二人の顔に泥を塗る訳にはいかないと思っているからだろう。

 その所為か分からないが、自責の念や罪悪感などの感情が発散されることは無かったため行き場を失い、健康な歯を犯す虫歯のようにじわじわと身体の内部を蝕んでいき、結果心の何処かに、ぽっかりと大きな穴が空けられているような喪失感をひたすらに感じていた。



 そうした空虚な心境からその後の日々は、何をしても、誰といても、どこか第三者的な立場に思えて仕方が無かった。


 兄二人が亡くなってから2年という長くも短くも思える月日が経ち、親に鍛冶関係ではもう習得するようなことば恐らく無いが、同世代の人と関わりを経て知見を深めるために、と銘打って入れられた鍛冶師学校でも、上手く言い表すことは出来ないが、自分は誰かに操作されていて、それを俯瞰しているような気持ちが、卒業するまで、いやした後でさえもこびり付いて拭えることは無かった。


 そして、鍛冶師学校では材料調達は自分たちで行なうのが原則となっており、ダンジョンに潜ると人に迷惑を掛けてしまうどころか、下手したら危険な目に遭わせてしまうことを説明すると、案の定一緒にいてくれる人など出なかったのも、心の穴を広げていく一因となった。


 仕方なく独りで潜っていると、声を掛けてくれる他の冒険者も多少なりともいたが、同行している最中で呪いの影響を体感すると、尻尾を巻いて逃げていった。尤も、説明の最中でジン兄とシュン兄の事故の大本の人物だと気付いて、顔を真っ青にして逃げた奴が大半だが。



 かくして孤独な一匹狼を貫いて鍛冶師学校を卒業した俺は、自分の所為で亡くなってしまった兄二人へのせめてもの手向け(罪滅ぼし)として、鍛冶師で大成するために冒険者ギルドに登録し、自ら材料を調達するようになった。

 この時は30層を独り(ソロ)で潜っているのは非常に珍しく、実力者だと思われたのかパーティーに誘われたり、独りの訳を説明したにも関わらず"気にすんな"と言われ、実際にパーティーを組んだりしたが、その直後に解散することになることが多かった。寧ろ、それが大半だった。


 残りの少数は、帰り道に付き合ってくれ、ということだったのでさしたる問題は無かった。


 そんな日々が続いたが、素材調達のついでにお金も稼げるクエストを受けようと冒険者ギルドでクエストボードを眺めていると、ある程度名が知れ渡っているパーティーから声を掛けられ、行動を共にすることがあった。


 もちろん呪いの事も、ダンジョン内で他の冒険者とパーティーを組んだ時の事など過不足無く懇切丁寧に説明したが、飛ぶ鳥を落とす勢いで乗りに乗っているそのパーティーは、ひたすら大丈夫の一点張りで押し切られ、割りの良いクエストを受けつつ、60層を目標に行軍を進めることになった。


 後にも先にも、この時何故誘われたかは判明しなかったが、決して興味本位では無いことは確かだろう。



 目標の半分を過ぎた辺り――30層後半から自分だけが狙われるという状況もしばしばあったため、過去のトラウマが蘇りつつあったが、有名なだけあって流石の立ち回りと呼ぶべきか、パーティーメンバーの5人は俺だけに魔物が向かわないように適宜調整してくれたおかげで、特筆してヒヤヒヤする場面も無く、安定して行軍を進めることが出来たので、この時の俺はトラウマを払拭できるかに思えていた。



 ――しかし、45層で砂の上に建てられた楼閣(ろうかく)は、呆気なく瓦解してしまった。


 

 細心の注意は払っていたが運が尽き果てたのか、モンスターハウスに足を踏み入れてしまったのだ。

 幸い、自分だけにヘイトが集まり、囮として引き寄せることが出来ると思ったが、魔物は各個撃破の態勢を取り、巧妙な連携で俺とパーティーメンバーは徐々に力を削られていった。


 辛くも分断されたパーティーメンバーと集結できた頃には全員息も絶え絶えな状況で、全滅必至だと誰もが理解しているような雰囲気さえ漂っていた。が、次のリーダーの一言で、それ(全滅)は免れることになった。


「――お前だけは逃げろ」


 リーダーが放ったその言葉は、何の因果か奇しくも、兄の言葉とほとんど差異のないものであり、あのときの事が目に浮かぶ。


 ――お前たちだけでも逃げろ。


 ”逃げろ”の一言と共に渡されたのは、たった1つだけで一生贅の限りを尽くし、遊んで暮せるような程高価な転移魔石だった。


 転移魔石とは、今居る階層を四捨五入した10分の1の階層まで転移できる、という緊急時にはとても重宝される物で、生産と管理がとても困難なことからその価値も比肩出来る物の方が少ないほど希少価値のある代物だ。


 そして、この高価な魔石は今俺が手渡された1つしか無い。


「お、おい!!これ使っちまったら――「じゃあ、達者で……な」」


 何かが割れるような音が、耳朶を打った。


 掌を開いて見てみると、先ほどまで握らされていた虹色に光る転移魔石が、見る影もなく粉々に砕け散っており、バラバラになった欠片たちは光を失っていた。


「――ま、待てよ!!!」


 最後に見たのは、短い時間だったが呪いを自覚してから誰よりも親身になってくれ、親切に接してくれたパーティーメンバー5人の、死を悟っているがそれを(おくび)にも出さないように必死に我慢して見せた笑顔だった。


 4層に景色が移った後、カイトは仲間を助けられない弱い自分を呪い、幸せの悉くを潰してくる運命も呪った。そして、何より自分より他人を殺す呪いを呪った。


 移動したその後、何があったかほとんど覚えていない。

 ただ、赤髪の青年が哭いているのを上から見ていたことだけは、今でも鮮明に覚えている。



 そして、気が付いたら自分は鍛冶師として働いており、冒険者ギルドには顔を出すことさえしなくなっていた。

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