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2017冬-4

夜の六時過ぎから人が集まり始めた。

ほとんどは紅蓮の先輩たちだったが、誰が声をかけたのか、当時敵対していた族の中に寺の住職になった人がいて、白木に戒名を書いて経をあげてくれた。


【闇照院剛腕紅蓮居士】――正式の戒名は組の本葬儀でつけられただろうが、昔の仲間の俺たちにはこの戒名が照也にふさわしいと思う。


「なんだか、暴走族の無理矢理漢字当てみたいな戒名だな」 拓郎さんはそう笑って、すぐに泣きだした。

「あんなに頑丈な奴が、刺されただけで死んじまうなんてよぉ・・・」

照也の唐突であっけない死は、その場に集まった誰の胸にも喪失感が深かったに違いない。



大和は途中で席を立った。母親が体調を崩して寝ているから様子を見に戻るというのを俺が玄関まで見送った。

昔の俺が住んでいた千種中の学区にあった家が、今は大和たちの住まいになっていた。


「もう遅いから、タクシーを拾って帰れ」

俺が金を渡すと、ぺこりと頭を下げて、

「ヒロさん、俺、そのうち絶対東京へ行くから」まっすぐに俺を見る真剣な目も、照也によく似ていた。

「ああ・・・東京に来たら連絡をよこせ。待ってる」

嬉しそうな笑顔になってもう一度頭を下げた後、大和はドアを開けて走るように出て行った。


本当に、いつか大和に東京の土を踏ませてやりたいと思った。この町を出ることが叶わなかった照也の代わりに、広い世界を見せてやりたい。

閉ざされたドアの向こうに消えて行く大和の足音を聞きながら、俺はひたすらにそれを願った。



追悼の席は、酒が入っていつもの宴会状態になっていた。ただ時々誰かが号泣し、誰かがヤクザ稼業を罵った。

マリンさんが遺影代わりに、昔の紅蓮のメンバーが写った写真を持って来ていた。真っ赤な特攻服を着て、それぞれお気に入りのバイクにまたがっている。


中央にいるのが初代紅蓮ツートップの照也と拓郎さんだ。照也のバイクは後に俺に譲られたカワサキのZ400FX――憧れのフェックス。


写真の中の俺はまだ中三で250ccのザリにまたがって右端に並んでいる。特攻隊長を気取っていた頃だ。そして、左端には――カイがいた。



※ ※ ※ 



「そうだ、ヒロ。お前、昔、香西のカイとよくつるんでたな。あいつも死んだらしいぞ」

拓郎さんの言葉はあまりにも不意打ち過ぎて、一瞬何を言っているのかわからなかった。


「あいつ、昔、監物組にいただろ。15年前ぐらいに借金抱えて飛んだって噂があったけど。それっきり誰も見た者がいなかったらしい」

玄関で屈み込んで靴を履きながら、拓郎さんは大して興味もなさそうに言葉を続けた。


「なんで死んだってわかるんだ!誰も姿を見てないのに!」思わずあげた声が自分でも驚くほど大きかった。

拓郎さんは驚いた顔で振り返り、困ったように頭を掻いた。


「うちの若い奴からの又聞きだから俺もよく知らんが、なんでも、沖縄の飲み屋でカイの女だっていうのと会った奴がいたらしい。

出身地の話が出た時、その町なら南軍騎兵隊を知ってるかと女が聞いてきて、自分の男がその中学同盟のトップの一人だったって。

甲斐雅樹が3年前に死んだって故郷の知り合いに知らせてくれと言ってたそうだ」


「そんなの、でたらめだ!」

「まあ、そうだろな。なんせ2チャンネルの掲示板で見たって言う話なんだから」

「2チャン?」


膨大な匿名の投稿者が99%の捏造で作り上げる巨大掲示板。でまかせと誹謗中傷の渦巻く中に一筋の真実の針が落ちている混沌の場所。


拓郎さんの建設会社では、母校の千種中卒業生を何人も雇っていた。たいてい昔ヤンチャをしていた奴らだ。

2チャンネルに俺たちの町の『ワル列伝』という板(スレッド)があって、拓郎さんのところの若い従業員の一人が時々それを覗いていたらしい。



大和が言ったように、もう30年も昔の俺たちの代は、現在の不良(ワル)の間ではもはや伝説となっていた。

五つの中学が同盟した南軍騎兵隊。真紅の隊旗を翻して爆走する二代目紅蓮。そのツートップだったヒロとカイ。

No.1の強さを誇ったヒロとカイ。


拓郎さんはそいつに連絡を入れて、その掲示板のアドレスを教えてくれた。



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