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シャングリ=ラ・ら・ら・・・  作者: 春海 玲
第七章 帰郷Ⅰ
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1996梅雨-2

中央駅から二つ目の、俺たちの【駅】で電車を降りた。

東京に慣れた俺の眼のせいでなく、駅前広場の周辺は妙に寂れた感じがした。バブルもこの辺りは素通りしたかのようだ。

新しくなった建物もほとんどなく、色褪せて活気が失せているのがはっきりとわかる。


商店街をぶらぶらと歩いて【ジャバウォック】へ向かって行くと、シャッターの閉まったままの店もちらほら見えた。

6年前には小さいながらもそれなりに活気のある商店街だったはずだ。


【ジャバウォック】も、まるでバブルなど関係ありませんでしたという風情で、覚えているよりずっと古びて外装のペンキも剥げかかっていた。

ドアを開けると、ウィンドチャイムはまだぶら下がっていたが、チンとも音は聞こえなかった。

「いらっしゃい~」

玄さんは変わらなかった。坊主頭はもうどう言いつくろってもハゲにしか見えず、幾分縮んだ気がしたが、相変わらず声だけはでかかった。


「元気そうだね、玄さん」

声をかけた俺を一瞬戸惑ったように見た玄さんだったが、すぐに相好を崩して抱きついてきた。

「ヒロ!元気だったか!よく帰ってきたなぁ!!」

「おふくろが入院したんで見舞いに戻ったんだ。6年ぶりだよ」

「6年か~、そりゃお前は大人になるし、俺は年を取るわけだ」

玄さんは俺の頼んだアイスコーヒーを入れてくれ、頼んでいないケーキの皿も運んできた。


「駅前はなんだか寂れたんじゃないか」

「ああ、バイパスにでっかいショッピングセンターが続けざまにできて、この辺りは閑古鳥が鳴く始末だ。やっぱり車で行ける郊外型の安売り店には敵わないよ」

「千種中の連中は来るのか?」

「まぁな」

玄さんは自分用のアイスコーヒーを持って、俺の向いの席に腰を下ろした。


「お前が東京に行った年から、中学は学校側の締め付けが強くなってなぁ。管理教育とかで、強面の体育教師がどこも採用されて、一年坊主から徹底的に管理して変形なんか着れなくなったよ。

まだ細々と反抗している奴らはいるが、もう昔の勢いはない。騎兵隊もハガの代が最大で、五代目はなかったな。南野中が悪いのだけは今も相変わらずだけどよ」


「紅蓮も終わったのか」

「暴走族も軒並み潰れたよ。たまに走ってるのも単独が多い。港の方でゼロヨンのレースしてる連中は残ってるみたいだが・・・・」

玄さんは黙りこみ、俺も返す言葉が見つからなかった。


「景気悪い話ばっかり聞かせてもしょうがないな。東京はどうだ。お前も垢抜けて都会の人間に見えるぞ」

すっかり氷の融けたアイスコーヒーを啜りながら、玄さんはあらためて俺を頭の先から眺めて下ろして笑った。

「東京もバブルがはじけて、景気はさっぱりだよ」

「大学はちゃんと卒業できたのか」

「六年がかりだったけどね。まあ、あんな三流、出たってだけだよ」

「それでもたいしたもんだ。あの頃の奴はほとんど中卒で終わっちまったんだから」

俺は残ったコーヒーの中に立てたストローを無暗にかき回していた――俺が投げ出してきたものを聞くのが怖かった。


「ハガはたまにコーヒー飲みに来るぞ。あいつはちゃんと工業出て、県外の自動車製造工場に勤めてる。トラは二浪して関西の大学へ入ったと聞いた気がするなぁ。

バタはあちこち仕事が変わってたみたいだが、最近はわからん」


「ケータやダブルは」

「ケータは前にホストやってるって聞いたけどな。ダブルは大阪へ出てったらしいわ。あとは・・・あさひは知ってるな?あいつは藤沢興業の組員してるぞ、チビのまんまなのにな」

コーヒーを飲み干して、玄さんは遠くを見る目で大きく息を吐いた。


「タクロウやショーヤの代からお前たちの頃までが一番面白かったなぁ・・・無茶苦茶だけど、いい時代だった。

タクロウは親父さんの後を継いで土建屋をやってるが、あいつが一番の出世頭になりそうだ。まあ、ヤクザの世界じゃショーヤが一番有望株だが」


「他の中学の奴らは・・・どうしてるか知ってるか」

玄さんはう~んと唸りながら考え込む。

「・・・・カイは?香西中のカイのことは聞いてないか、監物組にいたカイは」

俺は待てなかった。胸が苦しくて、息がつまりそうだった。


「・・・カイか。あいつはまだ監物にいるはずだ。肩で風を切って歩いてるって噂だ」

呼吸が上手くできない。

カイが無事なのが嬉しいのに――俺がいなくても、元気にやっているのが一抹の寂しさを感じさせる。




俺が帰る時、玄さんは店の外まで見送ってくれた。

コーヒーとケーキの代金を奢ってくれたのは、後にも先にもこの時だけだった。



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