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月の滴  作者: あれっきーの
遥かなる家路
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098 往生際



「こいつらは動かないが大丈夫なのか?」


「ただの魔素中毒よ。魔力が飽和してる空間にしばらく居たからね。まぁ、魔力は体に取り込まれないから、一晩もあれば治るでしょう。」


 大人しくなった襲撃者(代官の犬)を引きずりながら相棒(バディ)が答える。


「ふむ。それならば問題ないか。しかしのぉ」


 老紳士(アブさん)は改めて相棒(バディ)をまじまじと見る。


「狼が人に化けるとは、ワシも長く生きたが世の中知らないことばかりじゃな。」


「人間がすべてを解明するのは、前時代(科学文明)でも無理だったのよ。この時代ならなおさら無理に決まってるわ。」


 同じく相棒(バディ)を見ながらサヤーニャが合いの手を入れる。


「それはそうじゃな。」


 襲撃なんてなかったように、和気藹々と鍛冶の街(キゼル)に入る。門番は捕獲された襲撃者(代官の私兵)を見ると俺達を取り囲もうとしたが、老紳士(アブさん)の「もうじき圧政から開放されるぞ」の一言で、検問すらせずに街に通してくれた。


 歩みを止めることなく代官邸を目指す。陽も昇りきってない所為か、通行人の姿はない。家の中で朝食を作る匂いだけが、人の気配を感じさせてくれる。


「お待ちしていました。」


 代官邸の前では、白髪の執事(バストル)が出迎えてくれた。文句言いたげな門番を一睨みすると、サヤーニャに何かを渡して俺達を案内してくれた。


「こちらへどうぞ。」


 屋敷の中は豪華というか、悪趣味というか表現に困る内装だった。簡単にわかるのは、集めた年貢を着服したか、支持以上の年貢を課して、懐を暖めたのだろうということだけだ。


 そんな中、廊下の花瓶を飾る満開の薔薇だけが妙に印象的だった。





「ブラト様、失礼いたします。『刻印の剣舞士』サヤーニャ様をご案内いたしました。」


 部屋の中から返事は来なかった。しかし、白髪の執事(バストル)はドアを開けると、俺達を中に案内した。


「こんな早朝に無礼な奴だ。」


 忌々しげに毒を吐き、俺達を睨みつける。


「もっと早い時間に、手飼いの冒険者に襲撃させた無礼者が良く言えるな。」


 俺の発言に代官(ブラト)の顔はさらに醜く歪んだ。


「何だ小僧。今誰に向かって口をきいた! 己の分を弁えて口を開け。」


「代官としての矜持を持たない豚に、何を憚る事があるんだ?」


「貴様!」


 少し煽っただけでこれだ。激昂して回りが見えていない。このくらい鉱山(クバハ)では日常会話だぞ。


 頭に血が上った豚(ブラト)は杖で俺に殴りかかった。しかし、それはサヤーニャに軽く止められてしまう。


 反射的に発動した俺の魔力は、哀れな豚(ブラト)の回りを取り囲む。


「それは、魔素の帯だ。抵抗すれば、そこの襲撃者(飼い犬)の様に無様に転げることになるぞ。」


 目の前に転がる襲撃者(自分の部下)の成れの果てを見て、脂汗を垂らしている。自分の状況を把握したようだ。


「要望は3つだ。1つ、領主グリエフより預かった、代官職の辞職。1つ、貴様の任期中に、貴様のエゴで裁いた民衆の解放。1つ、貴様が追いやった領主の息子(奴隷堕ちした貴族)に対する謝罪と贖罪を行うこと。」


 最初の2つは予想範囲だったのか顔色を変えなかったが、3つ目に対する反応は劇的だった。


「何の事を言ってるか判らん。領主の息子(奴隷堕ちした貴族)は自分のミスで責任をとったんだ。俺は一切関係ない。」


 喚く代官を尻目に、マント姿の男(パリトー)の前に立ち、告げた。


「おい、貴様。さっきの襲撃中に言ってた、お前の自慢の刻印のデビュー戦をもう一度言え。」


 既に心折られてるマント姿の男(パリトー)は、憔悴しきった顔を代官に向ける。


「わ・・・私は、代官様の命令で、恐れ多くも領主様ご子息の依頼(大型搬送魔具運用実験)を受け。この、刻印制御を阻害する(ジャマー)刻印を用いて命令を遂行しました。」


「その結果は?」


「任務は無事に成功し、被害者となる者もでっち上げ、領主様の財産を横領と、次期領主(後継者)様失脚となります。」


「再度聞こう。それは全てそこに居る代官の命令だな?」


「その通りです。」


 代官は顔面蒼白になり、全身から冷や汗を流している。


「知らん。俺は何も知らんぞ。」


 往生際悪く、後ずさりして、この場から逃げる手段を探しているのが良くわかる。


「じゃぁ、僕が教えてあげるよ。」


 代官が振り返る。さっきまで何もなかった空間には、悪戯成功って顔をしたシルクハット姿の人物が居た。

ココで問題です


「この人は一体誰だ!!?」


制限時間は次話更新されるまでです。


正解者の中から抽選で1名様に、チロルチョコを好きなときに食べる権利をプレゼントします。


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