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月の滴  作者: あれっきーの
遥かなる家路
90/136

090 乗合馬車

 昨日より「月の滴 結合版」と称しまして数話を一まとめにして再UPしています。


 執筆の都合上1話毎の文字数が少ないので、初めての方や読み返す方はご利用ください。


 このページの下部にリンクを貼り付けてます。



 冒険者ギルドをでてから5分程経った。


「それで、どこにむかってるんだ?」


 荷物を抱えているが、何処に行くかはまだ聞いていない。何か補充するのか、それとも街を出るのか位は知りたい。このまま街を出る前に、道具の補充をしたいけれども無くても何とかなるので、必要というわけではない。


「ああ、言ってなかったわね。この街からは毎日乗合馬車が出てるのよ。本当は歩いていこうかと思ってたんだけど、この街の状況を早く何とかしなきゃ行けないと思って馬車を使うことにするわ。」


 指差すその先に砂埃の立つ場所がある。商人は朝から元気だ。


「なるほど。」


 アンナ達の事を考えるなら、早いほうが良いにきまっている。


鍛冶の街(ココ)から領主邸(ウチ)までどのくらいで着くんだ?」


 「ん~」っと指を折りながら日程を数えるサヤーニャ。


「乗合馬車だと途中で魔法のヤイヴァ港町ベレズニキを経由することになるから、大体3週間位かな。」


 大人数の移動が目的の馬車だから仕方が無いか。


「3週間か、結構掛かるな。」


鍛冶の街(ココ)から直行便があれば、10日前後で着けるんだけどね。」


「それに乗ろう。」


 直通便があるならそれに越したことは無い。


「ふふっ。そういうと思ったわ。」


「あるのか?」


 サヤーニャは秘策ありといった顔で続ける。


「判らないわ。直行便は1ヶ月に1度あればいい方なの。だから、直行する輸送馬車があればそれに乗せてもらいましょう。」


「停留所まで行かなきゃ駄目ってことか。」


「そういうこと。有っても乗せてもらえるかどうかって話もしなきゃいけないわ。」


 最悪3週間で領主邸(ウチ)に帰る。父上に公的な身分を保証してもらい、この街に戻るのに2週間ってところかな。遅くて5週間、早ければ3週間。少しでも早くあの親子を助けてあげたい。


 そうこう考えているうちに、馬車の停留所にたどり着いた。サヤーニャの説明では街から出る手続きもすべてできるらしく、すべての出発予定が窓口でわかるようになっているらしい。


「すいませーん。領主の町(チェルノ)までの直行便ってありますか?」


「はい、いらっしゃいませ。乗合馬車ですと、2週間待ちになります。それ以外で今日出発ですと、えーっと、2台予定が入ってますね。」


 受付の兄ちゃんは台帳を見ながら答える。


「乗っけてもらいたいんだけど、誰に交渉したらいいかしら?」


「それでしたら、1台はお薦めできません。」


 眉をひそめて小声で忠告してきた。


「奴隷馬車なんです。」


 言い終わると、周りに聞かれていないかキョロキョロと辺りの様子を疑っている。


「なるほど、もう1台は?」


「そっちは納品用ですね。御用商人さんの馬車なのでまだ交渉の余地があります。」


 サヤーニャと顔を見合わせうなづいた。


「決まりね。何処に行ったらいい?」


「まだアファナシーさんがお見えになってないので、3番車庫前でお待ちください。」


 そう言って方向を指差して教えてくれた。


「ちなみに乗合馬車の発車時間は?」


「そっちはお昼丁度の出発ですね。まだ3時間はあるので、交渉失敗してからでも間に合いますよ。2時間だけ席を仮予約で受け付けておきましょうか。」


 交渉失敗まで考えて予約受付してくれるのは嬉しい。


「そうして頂けるとたすかるわ。」


「居たぞ! こっちだ!!」


 無粋な声が停留所に響き渡る。やってきたのは4人の冒険者。猫の歩廊亭(アンナの家)で一悶着起こした冒険者だ。


 俺達の周りを囲むと、全身革鎧の男が1歩前にでる。


「へっへっへ、やっと見つけたぞ。街から出るならココだろうって踏んで正解だったな。」


「しつこいですね。」


 まったくもってしつこい。大人しく代官の所に帰って尻尾をふってろよ。


「うるせぇ、餓鬼が! さっきはこけおどしの刻印でよくも騙してくれたな。」


「領主様の命令書があるのは本当ですよ?」


 騙しては居ない。演出だ。この国の伝統芸能(バレエ)でも演出は大事だろ。


「うるせぇってんだろが!」


 怒りで顔が真っ赤になっている。ウォッカの飲みすぎかもしれない。まぁ両方だろう。ただでさえ脳筋なのに、語彙も少ないのは致命的だな。


「おい! お前!」


 今度は俺ではなく、受付の兄ちゃんに怒鳴りつける。


「この餓鬼共を馬車に乗せるなよ。乗せたら判ってるだろうな。」


「は・・・はい!」


「それでいい。」


 受付の兄ちゃんの反応に満足したのか、仲間の顔を見るとニヤリと笑った。すごい人相が悪いから笑うのはやめたほうがいいと思う。「笑顔」って言葉に喧嘩を売ってるぞ。


「ほら、兄ちゃん。どうするんだ? 馬車は乗せてくれないみたいだぞ。せっかく親から貰った足があるんだから自分であるけ。あっはっはっはっは。」


 下卑た声で笑う。他の冒険者も一緒に笑っている。この様子を見ている野次馬は「厄介なのに絡まれてかわいそう」と言う目で見ている。


「乗りたかったら、代官邸に例のブツを上納にきな。そしたら半殺しで許してやるよ。」


 そういい残すと、男達は笑いながら引き上げて行った。


 野次馬もいつの間にか居なくなり、残されたのは俺達だけになった。


「あ・・・あの。申し訳ないんですが、仮予約の件はなかったことにしてください。」


 受付の兄ちゃんは、本当に心苦しそうにさっきの言葉を取り消した。仕方が無いだろう。一般人があんなのに絡まれると想像したら、自分の身の安全を最優先に考える。


 さらに言えば、この状態で乗合馬車に乗ってもあいつらは追いかけてくる。下手をしたら馬車を襲撃する可能性もある。


「うん。判りました。」


 俺達の危険に一般人を巻き込むわけには行かない。


「何じゃそれは!! それではお前はあいつ等と同じではないか。」


 俺の返事と同じタイミングで、受付の兄ちゃんめがけて怒号が飛んできた。


「しかし、アファナシーさん。」


 受付の兄ちゃんは何か言い返そうとしている。その相手は、老紳士(アブさん)だった。

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