091 仕事に対する矜持
「お前の仕事は何だ!? 言うてみろ!」
顔を真っ赤にしてすごい剣幕でまくし立てる。睨まれた受付の兄ちゃんは1歩下がって冷や汗を流してる。
「乗車希望のお客様に馬車を手配することです。」
「こやつはら何だ?」
「じ・・・乗車希望のお客様です。」
言葉に詰まりながらも問答を繰り返す。
「ならば、乗せるだけじゃないか。あんな冒険者崩れに言いように脅されるでない。」
「しかし、アファナシーさん。」
「しかしも案山子もない! さっさと手続きをしろ!」
老紳士の声が響き渡る。受付の兄ちゃんは黙って下を向いた。そのままの状態で沈黙が続く。
どれほどの時が経っただろうか。体感時間では5分は経った様に感じる。実際は30秒位かも知れない。その沈黙を破るように受付の兄ちゃんの口から言葉が漏れる。
「いえ、申し訳有りませんがそれは無理です。」
「なんじゃと?」
まさか、自分の発言が拒否されるとは思っていなかっただろう老紳士は、受付の兄ちゃんの言葉に眉をひそめた。
「そちらのお2人は確かに乗車希望のお客様です。そこに間違いはありません。しかし、冒険者崩れと訳ありの状態です。そんな方を乗せてもしもの事があったら、他のお客様の迷惑になります。心苦しいですが、そこの所ご理解いただきたい。」
「貴様!」
「アブさん、いいんです。」
俺達の為に激昂してくれる老紳士を止める。まったくもって、受付の兄ちゃんの言う通りなのだ。
「本当に申し訳ありません。」
受付の兄ちゃんの顔は本当に辛そうだった。老紳士に意見するのが怖かったというのも有るだろうが、自分の仕事を邪魔する輩に屈しなきゃいけないのが仕事に対する矜持を傷つけたのだろう。
「いいえ、気にしないでください。他の乗客の事を考えるのも貴方の大事なお仕事です。それに、代官の私兵と因縁を持ったのは俺達の所為だから貴方に非は無いですよ。」
「そう言って貰えると恐縮です。」
傷つけられた矜持は、残りの矜持で補うしかない。まっとうな領民がこんなくだらない事で悩むのは本当におかしい。今の俺にできるのはリップサービス位しかない。早くこの街に安寧をもたらさなくてはいけない。
「アブさんもありがとうございます。こんな状態でもフォローが貰えたのはすごい嬉しかったです。」
結果、乗合馬車に乗れなかったが、応援が貰えるのはやっぱり嬉しい。
「坊主は相変わらず甘いな。それで足が無いがどうするんじゃ?」
俺の言葉が負け惜しみで無いと理解したのか、心なしか老紳士の顔は綻んでいる。
「この様子だと、領主の町まで歩いて行くしか無いみたいです。」
「なんじゃ、目的地は領主の町か。」
「ええ。そうです。」
俺達の目的地を聞くと、老紳士の顔は、我天恵を得たりと輝いた。
「それを先に言わんか。問題解決じゃ。わしの馬車で行くぞ。」
「いいんですか?」
「なぁに、Sランク冒険者とEランク冒険者が只で護衛についてくれると考えれば安いもんだ。」
「本当にいいの? 今後代官に睨まれた生活をすることになるわよ。」
サヤーニャも心配して突っ込みを入れる。
「がっはっはっは。嬢ちゃんも気にするでない。あの代官は好かんでな、わしの作った葡萄酒を売ってやらんもんだから既に睨まれてるんじゃよ。いまさらじゃ。」
がっはっはと相変わらず豪快に笑う。
「それに、アンナから聞いたよ。お前さん方、領主様の命令で仕事をしとるんじゃろ? 1日も早くこの街が安寧を取り戻せるよう手伝うのは、老人の務めじゃ。」
俺達にだけ聞こえる小声で言うと。ウィンクして見せた。
「アブさん・・・。」
「ほら、さっさと行くぞ。今回は休みなしで飛ばして走るぞ。」
そういうや否や、老紳士は自分の倉庫に駆け出した。




