081 弱いものいじめ
――時は暫し遡る――
猫の歩廊亭を出たサヤーニャは、代官邸へと歩を進めていた。行きがけに寄った情報屋からは碌な情報が手に入らなかった。
代官の名前は「ブラト・レフ・ストリギン」。年齢38才。ストリギン男爵家の次男で、赴任したのが8年前。その頃は代官代行として赴任しており、代官には男爵家長男の「アラム・レフ・ストリギン」が就任していた。
兄が実家の跡継ぎで自領に戻ると、自分の欲望を通すことを第一優先とした執政をする事に躊躇しなくなった。
過去に何人かが進言に行ったが、帰ってきたものは居ない。監視班の報告によると、奴隷商が鉱山まで送り届けているらしい。
他にも、「良い噂のない商人と繋がりがある」とか「街の視察と称して商店に入っては無理難題で文句をつける」等、判りやすい腐った権力者だ。
「さてさて、コレをダーシャ君が知ったらどんな反応をするかしら。」
現代では珍しい『|ノブレス・オブリージュ《高貴なる者の義務》』を体現する貴族。民衆に好まれ、他の貴族には疎まれやすい性格だが、サヤーニャは小さな次期領主を好ましく思っている。
判りやすい性格で、老獪な貴族には良いように使われる可能性は否定できない。しかし、志は民衆の為を第一に考えている。サヤーニャもまた、『強気を挫き、弱きを助ける』をモットーにして活動しているからだ。
そんな事を考えていると代官邸に到着した。格子状の鉄門扉は来る者に威圧感を与える。その所為か、勘違いした偉そうな門番が面倒くさそうに遣ってきて上から目線で物を言う。
「おい! そこの女! ここは恐れ多くもこの街の代官をされていらっしゃるブラト・レフ・ストリギン様の執務邸にあらせられるぞ。お前如きが直視するのも失礼にあたる。判ったら早く立ち去れ。」
『権力を傘に来た門番か、ならば力の差を見せてあげよう。』 信には信を、礼には礼を、されど悪意にはそれを伏する武力をもって対応するのがサヤーニャの信条だ。偉そうに踏ん反りかえる門番を一笑する。
「き、貴様! 何が可笑しい!! 事と次第では唯じゃ済まさんぞ!」
「いちいち叫ばなくても聞こえてますよ。それとも何ですか? 叫ばなければこんな小娘1人が怖くて怖くて仕方がないのでしょうか?」
代官邸の門番をしてるとはいえ1人の門番。見目麗しい女性に馬鹿にされ冷静で居られるわけがない。
「ふざけるな! 貴様の罪は代官侮辱罪だ!! 牢屋の中で反省するがいい! それが嫌なら裸になって頭を垂れるがいい。」
門番はどこまで行っても門番か。フゥとため息をつくとおもむろに自分の懐に手を突っ込んだ。
それを見た門番は下種な顔をして無礼な女が服を脱ぐと勘違いして、鼻の下を伸ばしている。
サヤーニャが懐から取り出したのは1つの板切れ。それを門番に見せ付け、今まで抑えてあった魔素を開放た。板切れを見た門番の顔は蒼白になり、恐ろしいまでの魔素に中てら手に持っていた槍を地面に落とした。
板切れに書いてあったのは「S」のマーク。すなわち、Sランク冒険者として証明する冒険者ギルド発行のギルド証だ。
「あなたの罪は冒険者侮辱罪ね。ランカーとして、売られた喧嘩は買ってもよろしくってよ。」
その笑顔は有無を言わさない迫力があった。
ポーニャ:冒険者を馬鹿にされた気がする!
後輩:先輩、またですか。そういってかっこよくてお金回りの良い冒険者探しに行く予定でしょ。
ポーニャ:素直に、ギルド員の心配をしているのよ。
後輩:本当ですか?
ポーニャ:あ!
後輩:先輩、どうしたんですか?
ポーニャ:やりこめた気がするんだけど、好感度でおいていかれた気がする。
後輩:大丈夫ですよ。先輩の高感度「0」ですから、生まれたばかりの鹿さんの方が高いですよ。ささ、仕事をしてください。
ポーニャ:あんたも大概酷いわね!




