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月の滴  作者: あれっきーの
遥かなる家路
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080 幻想の光


 1分ほど待ったが、女将さんは固まった(フリーズした)ままだ。


「女将さん大丈夫ですか?」


 固まった人って、呼吸してるかどうか判り辛いんだよな。


「あ・・・あんた、こんな物人に見せたら駄目じゃないかい。」


 復活した女将さんに怒られた。まぁ一般的な反応だろう。


「アンナと女将さんだから見せたんですよ。」


 信頼の証だ。もう1つの一般的な反応だと、俺を殺して盗んでいく。


「いいかい、それが本当に『月の滴』なら、あんたを殺してでも奪い取ろうって奴らは腐るほど居るんだよ。それは努々忘れちゃ駄目だよ。」


 純粋に心配して言ってくれてる。うん、知ってます。炭鉱で俺を脅して奪おうとした腐ったオッサン(警備主任)がいました。


「ええ、分かりました。肝に銘じます。」


俺の返事を受けて、ほっと一息つく女将さん。そんな俺達を横目に、アンナが『月の滴』に触ろうとした。


「駄目だ!」


 伸ばした手を掴んで止めると、アンナは慌てて手から逃げる。


「ごめんなさい。見てたら触りたくなっちゃって。」


「ううん。こっちこそごめん、驚かすつもりは無かったんだ。」


「『月の滴(コレ)』はかなり危ないんだ。こいつの中には大量の魔素が含まれてる。俺も発掘した時、うかつにも触っちゃってさ、2週間ベットから動けない生活を送ったんだ。」


2週間寝たきりは本当につらかった。


「怖いのはそれだけじゃない。触れた人間の魔素受入容量(マナ・キャパシティ)が無い場合、最悪死ぬこともあるんだ。」


 魔道具開発前に読んだ資料に書いてあった。故に、刻印開発者は開発時に魔素に直接触れないよう専用の保護具をつけるか、適合者になるしか手が無いらしい。


「俺は偶然触ってしまい、『適合者(ザラジェーニエ)』になったから触れるんだけどね。」


 1つの石に『適合者(ザラジェーニエ)』は1人だけ。コレは月が降った日からの常識だ。『月の滴』は『適合者』の意志を汲取り自由に形状を変化させる。


 月の滴が高価になる理由はコレだ。美術品というのは希少価値が付く。では『希少(レア)な鉱石で作られた美術品』はどうだろうか。答えは『人生を何度も遊んで暮らせるお金になる』だ。もちろん芸術品として加工した場合は、内包されている魔素は抜いている。


 つまり『適合者(ザラジェーニエ)』は自身に芸術的才能が無かろうが、過去の偉人が残した芸術作品を模倣して『月の滴』を形状変化させて売るだけで遊んで暮らせる。もちろん売るためにはそれなりの人脈(コネクション)が必要にはなるだろうが。


 さらに『適合者(ザラジェーニエ)』の特殊能力として、他の『月の滴』が埋まっている場所を感知することができる。すなわち、『適合者(ザラジェーニエ)』はまさしく『金のなる木』なのだ。


Sランク冒険者(サヤーニャ)が護衛についてる理由が判った?」


 2人とも首を縦に振った。領主の息子と言う事は教えれない。どこから漏れるか判らないからだ。適合者(ザラジェーニエ)なら多少広まっても困らない。


 広まるときは、「鉱山から命令書が出ていてSランク冒険者(ランカー)護衛が付いてる適合者(ザラジェーニエ)」で広まる。つまり、襲ってきても勝てる見込みが無い。仮に誘拐に成功しても、この領地で売ることは少なくともできない。


 『月の滴』の加工品(高額美術品)を販売しているのは適合者(ザラジェーニエ)を保護できる者。つまり領主しかいない。


 買うのは貴族か金持ち商人位だろう。つまり、買う理由は見栄なのだ。買ったら見せびらかしたくなるのは彼らの業だ。見せびらかされた方は、誰が持っていたか等を社交界で広めるだろう。当然領主の耳にも入る。闇で加工されていればそのまま没収されてしまう。


 さらに言うと、領地のすべての物は領主の持ち物である。勝手に月の滴を発掘したからといって、それを勝手に加工販売しても、反逆罪で取られることができる。なので、月の滴などの希少鉱石が出た場合は所定の手続きをとり、領主からお礼として人生を謳歌できる金銭を貰う方が得なのだ。


 『月の滴』の加工品(高額美術品)は闇では下ろせない。


 そして今回の場合は、命令書が出ている月の滴に手を出さなければいけないのだ。それを持っていっても盗人として処罰される。それも領主の持ち物の手を出した罪で裁かれるのが落ちだ。


 そこら辺の盗人に他領地での販売ルートなど期待できないだろう。


 すなわち領主は、『自分の評判が落ちないようにわざわざ命令書を発行して届けさせてる』に過ぎないのだ。


 そんな政とは関係ない2人は、月の石の魅せられている。今後見ることは無いだろう。せっかくならもっと綺麗な現象を見せてあげたい。


 俺は、月の滴を掴み手に持った。


 アンナが「あっ」と声を漏らした、一瞬俺のことを心配したのだろう。しかし適合者(ザラジェーニエ)の俺は大丈夫だ。


 「見ててね。」


 アンナにウィンクして手にしたソレを陽の光にかざした。瞬間部屋の中が光の洪水に襲われた。陽の光を己の魔素と一緒に反射させ、今生の物とは思えぬ程の幻想空間を彩ったのだった。


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