表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
月の滴  作者: あれっきーの
遥かなる家路
79/136

079 驚いた人間は固まる様だ





 サヤーニャを見送った後、俺は部屋で相棒(バディ)のブラッシングをしながらお茶を飲んでいた。昨日洗っただけのことはあり、きつい獣臭は抜けて石鹸の良い臭いがする。ふわふわになった毛皮と尻尾を入念にブラッシングして一息つくと、ドアを叩く音が聞こえた。


「お兄ちゃん、遊びに着ちゃった。」


 来訪者はアンナだった。と言っても、他にノックする可能性があるのは女将さんだけだ。


「いらっしゃい。」


 俺は紅茶を飲みながら部屋に招きいれた。添えつけのジャムが程よい甘さで美味しい。


「お兄ちゃんの冒険者はいくつなの?」


 部屋に入るなり質問を受けた。


「俺はまだEランクになったばかりさ。」


 正確には、6日前にFランク(冒険者)登録をして、初依頼を達成したのが昨日。そして老紳士(アブさん)の好意でEランクにあがったのだ。


「えっ? Eランクなのにサヤーニャさんと一緒に居るって事は、恋人同士なの?」


 危うく飲んでる紅茶を噴出しそうになった。代りに器官に紅茶が流れ込み少しだけ溺れかけた。


「違うよ。サヤーニャは俺を護衛してくれてるの。」


 しっかりと訂正しておこう。


「この前まで、炭鉱で働いてたって言っただろ。」


「うん。そこでお父さんに会ったんだよね。」


 炭鉱の名前が出ただけで喜ぶ姿は、父親の事が大好きなんだろうと簡単に想像できる。


「お父さんかどうか確定じゃないけど、まず間違いないだろう。で、俺も炭鉱奴隷だったのさ。そこで発掘した月の石を領主様にお届けしてる最中。冒険者になったの、途中の身分証明書発行の為って所かな。」


 理解してるかどうかは不明だが、ウンウンと頷いている。


「本当はこの街も長居するつもりじゃなかったんだけど、訳有ってタダム達を待ってるって感じだな。」


「お兄ちゃんには悪いけど、タダムさん達のおかげでお父さんの無事が分かったのよ。私は嬉しいな。」


 少し申し訳なさそうにしながら笑顔は崩せない。うん、女の子は笑顔が一番だ。


「違いない。世の中何が起きるか分からないな。」


 顔を見合わせて、2人して笑った。


「でも、領主様にお届けって、代官様を素通りしても大丈夫なの?」


 アンナの疑問ももっともだ。通常鍛冶の街(キゼル)周辺の街の上納品は、一度代官がまとめて領主館に上納する。その方が移動コストが削減できるし、あらかじめ目録を作ることで、税収チェックも簡単だからだ。


「炭鉱責任者から直接領主に届けるように言われてるし、なんと言っても領主様からの出頭命令があるからね。」


 頭の上に『?マーク』が浮かんで見える。まぁ気にしなくていいことなんだけどね。


「そうだ。サヤーニャと代官の話が上手くいかなかったら俺が領主様におやじさんの件話すから安心しな。」


 難しい顔から一変して笑顔に戻った。うん、やっぱり笑顔の方がかわいい。


「それが、サヤーニャさんが言ってた、お兄ちゃんの切り札?」


「うん。まぁ、そんな感じ。他力本願で悪いな。」


 父親の帰還率がアップした事を読み取り、今までに無い笑顔を見せてくれた。


「ううん。してくれるだけで嬉しいよ。今まで私達に良くしてくれる人は多かったけど、お父さんの事を教えてくれた人は居なかったし、家に帰ってくるお手伝いする人なんて考えてもみなかったよ。」


 この子(アンナ)の笑顔をもっと見たい。もっと驚かして遣りたいと思った。


「そうだアンナ。珍しいものを見せてやろうか?」


「珍しいもの?」


「ちょっと待ってな。」


 厳重に包んでいる荷物を取り出す。


「うん。かーさんにも見せていい?」


「ああ。いいよ。」


「かーさん。お兄ちゃんが珍しいもの見せてくれるって。」


「はいはい。今行くよ。」


 女将さんが来るまでに、箱を用意する。この箱はふたを閉めた人間の魔素を記憶する刻印が刻まれていてそれ以外の人間は空けることができない。金属で作られているし、当然のように『強固』の刻印も通常以上の強度で刻まれているので破壊することもできない。あまりの重さに、普段は相棒(バディ)の引くソリに乗せてもらっている。いまさらだが、良くこんな重いものを引っ張ってあれだけ元気余らせてるよな。


「はいはい。お待たせしたね。」


 洗い物か洗濯か、水仕事をしていたのだろう。エプロンで手を拭きながら女将さんがやってきた。


「いえいえ、お気になさらずに。」


「それで、珍しいものって何?」


 視線はテーブルの上の箱に釘付けだ。焦らすように蓋をずらしてお披露目となった。


「これだよ。」


 蓋を開けると、暗い箱の中に太陽の光が吸い込まれ、鎮座している石の中で反射して虹色に輝いた。


「すっごい綺麗。」


「何だいコレ? 今まで見たこともないよ。」


 2人の反応は予想以上だ。女性は宝石が好きと聞いたことがあるが、ここまで好感触とは予想だにしなかった。


「見たことは無くても聞いたことはあると思うよ。」


 2人の視線が俺に集まる。「コホン」と咳払いをし、一言告げた。


宝くじの1等賞(月の滴)ですよ。」


 俺の言葉に女将は固まってしまった。あれ? 刺激が強すぎたかな。


自分のキャパ以上の衝撃を受けると固まります。

宝くじの1等賞を当てて固まりたいものです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ