066 名物受付嬢の恋愛事情
たいへんです。先輩が荒らぶってます。「適齢期なんて関係ないわ」って普段から強がってる癖に、本当は誰よりも気にしてる先輩が荒らぶってます。
こう見えて、私達ギルドの受付嬢は出会いは有りますが、恋愛に発展する出会いと言うのがとんと無いのです。
なぜって? 応えは簡単です。いろんな冒険者の方とお会いし、事務手続きをする私達です。冒険者の方はこの街在住の方が大半でが、幼馴染の恋人が居る事が多く手を出せません。残り2割位の冒険者と言えば護衛依頼を生活のタネにしている人。女癖が悪く、私達を簡単に口説きに掛ります。他の街で同じような事をしていると考えると、遊ばれるだけって結果が目に見えているので問題外です。
そして先輩は、すでに護衛専門冒険者の方からのお誘いも着ません。私がナンパされていると鬼の形相で睨みつけます。先輩のお蔭で悪い虫は寄ってきませんが、同時に出会いのチャンスも失っています。早く寿退社してくれないかなぁ。
と言うわけで先輩が待っているのは
①生活が安定する高ランク冒険者
②この街に定住してもらえる・もしくは付いて行って守ってくれる人
③女癖が悪くない人
④美形である事
なのです。
さっきの冒険者さん達は①③④はクリアしています。定住は多分しないので、街を出るまでに恋仲になりついて行くことを了承させれば先輩の勝ちなのですが、お気に召さない様子です。
「でも先輩。Sランクですよ。Sランク! 大武辺者・頭脳明晰・美麗衆目の超優良物件ですよ。何の問題があるんですか。」
「大有よ!! Sランクでも女じゃない!!! 私に百合の趣味は無いのよ。」
すっごく不機嫌です。まさか助けてくれると思った先輩が敵に回るとは世の中理不尽です。
「それじゃぁ先輩。隣に居た男の子はどうですか?」
「はぁ? あなた馬鹿じゃないのかしら? Eランクよ!Eランク!! そんなちんけな稼ぎじゃ私が優雅な生活を送れないでしょ。」
もう駄目です。自分の欲望がダダ漏れです。定住している冒険者の皆様が先輩を誘わないのは、この性格がばれているからです。外では猫っかぶりしているし、付き合った人もいないのにどこから情報が漏れたかがすっごい疑問です。
「でも、将来有望株ですよ。彼はさっきEランクに上がったばかりなんですよ。」
「何それ? じゃぁ、さっきまでFランクだったってことでしょ。それが将来有望ってあなた何の冗談。」
哀れな生き物を見る目で私を見ています。でも違うんです。ちゃんと根拠はあるんです先輩。
「さっき上がったばかりなのは私が処理したんで間違いないんですけど、1度の依頼達成で上がったんですよ。それも、チャイコフスキー農場のアファナシー会長がマスターと直談判して、最後はワインを売らないぞって脅してマスターに認めさせたんですよ。」
「あそこのワインは美味しいからね。って、マスターがそんなことで規定を無視しちゃだめでしょ。」
冷静な突っ込みをありがとうございます。
「なんでも護衛依頼を受けてきたという事で、拘束時間と日数で通常Fランクのランクアップ規定分に合致させていましたよ。」
納得できないのか、ブツブツ言っているので畳みかけましょう。
「それに、Sランク冒険者が側にいるってことは、何らかの才能を見いだされてるんじゃないでしょうか? もしくは側に置きたくなる魅力があるとか。それなら、恋愛経験豊富な先輩の手にかかればコロっと落ちるんじゃないですか?」
「分かった! 青田買いね!! そうか、女性の高ランク冒険者達はそうやって自分好みの男を育て上げていたのね。だから高ランク冒険者の寿引退が多いのね。」
普通に考えたら、有る程度資産が溜まったから自分の土地を買って畑を耕す為に引退しているだけなんですけどね。その時に結婚をして引退って人も多いのは事実ですが、命のやり取りをする仕事ですから、助けてくれた男性と恋に落ちる事もあるでしょう。
「じゃぁ、今回のミッションは、『Sランクの魔の手から将来有望なEランク君を救って恋の炎を燃やす』ね。最初の頃は貧乏だろうけど、そこは私が年上女房的に養ってあげて、そしたら『ポーニャさん、俺、どうやってこの恩を返したらいいのか』『いいのよ、私は優秀な冒険者が増えたらそれでいいの』『そんなのじゃこの恩は返せません。僕の一生を懸けて返させてください』『それって』『ポーニャ!結婚してくれ!』きゃーーどうしましょう。」
先輩が自分の世界に出かけています。でもこれでやる気になったでしょう。私は自分の安全を守れたらそれでいいのです。
「じゃぁちょっと行ってくるわね。」
―バタン
ドアが閉まった。きっと先輩が暴走するかもしれないけどSランク冒険者ならきっと何があっても対処できるわよね。じゃぁ私は問題に発展する前にお爺ちゃんを探しに行きましょう。
久しぶりにダーシャ君以外の視点で書きました。
1人称は書きやすいけど、他のキャラの思考を表現しにくいのが難点ですね。




