061 刻印の剣舞士
やっと城壁に辿りつきました。
馬車に揺られる事30分、近づいてきた城壁は威圧感を持って俺達を迎えてくれた。老夫婦は久しぶりに戻る家路にどことなく安堵の表情を浮かべている。
「さぁ、後ちょっとね。」
城門は意外と混み合っていた。全員が1列になって並んでいる。時折、その列を狙って、軽食売りの子が歩いている。
「そこのイカスお兄ちゃん、行列でお腹空いただろ? よかったらこのパン買わないかい?」
真っ赤なスカーフを頭に巻いた10才位の子供が威勢の良い声をかけてきた。
「あら、1個幾らかしら?」
その掛け声に軽く返事を返すサヤーニャ。食いついたとばかりに、最高の笑顔を返しながら応える売り子。
「長旅で疲れてるだろうから、2個で銅貨1枚でいいよ。」
「あら安い。」
大体が1個鉄貨80枚位だから、6割引位の価格だろう。
「そんなに安くして良いのかしら?」
その言葉に「へへっ」と鼻を掻き、照れながら応える。
「あんた、『刻印の剣舞士』だろ? 覚えてないかもしれないけど、昔助けてもらった事があるんだ。ちょっとした恩返しさ。」
有能な冒険者には、憧れと羨望を込めた二つ名が付けられる事が多い。もらった側が少し恥ずかしい名前をつけるのがカッコイイらしい。昔の極東なら『中二ネーム』と言われていたらしい。
「あら、そうだったの。」
「うん。はい、パン」
照れたのか、パンを2個手渡す少女。それを受け取り代金を支払う。
「そうだ、今日の宿は決まってるのかい? よかったら、うちは宿屋もしてるんだ。」
「そうね、護衛依頼がここまでだから、今日は確かに宿を取る予定なんだけど、泊まろうと決めてるところがあるのよね。」
「そうか。それはしょうがないよね。」
シュンと下を向いた少女に老淑女が声をかける。
「大丈夫だよ、アンナ。この子達が泊まるのは『猫の歩廊亭』だよ。」
その言葉に顔をはっと上げると、さっきの笑顔は商売用でしたとしか言いようの無い、もっと素敵な笑顔を見せた。
「わかった。それじゃぁ家に帰って最高の部屋を用意してるよ。絶対に来てよ!!」
そう言い残すと一目散に城門の中に駆けこんでいった。
「あの子は、『猫の歩廊亭』の1人娘なんだ。最近タチの悪い冒険者が居付いてるらしいから、良かったら力になってやってくれ。」
老紳士が俺達に懇願してきた。
「依頼の外にはなってしまうし、他人様の商売に口出しするのはご法度なのは承知している。しかし、あの子はよく家の店にも遊びに来てくれてな、あの笑顔を振りまいて帰るんじゃ。どうも孫が来た感じになってしまって困ったもんじゃ。」
「泊まってるときに、冒険者同士のいざこざならお店に迷惑はかからないでしょ。蜂蜜の為にはがんばるわよ。」
平和な睡眠を今夜もとれないかもしれない予想を立てていると、入場チェックの順番が回っていた。
ストックがこれを入れて後3本できてます。
いつも通り毎朝投稿が、翌々々日分の10時予約でとりあえずUP
当日修正→この時間に公開の流れになりそうです
ストックがあるうちが花なのです
この前の様な休載はもうやめたい




