062 アイコンタクト
「おや、アブさんじゃないですか。もうお戻りですか?」
入場チェックをしていた男が気安く声をかけてきた。
「えぇ。今回の湯治もまたよかったです。なんと言っても素敵な出会いがありましたからね。」
そう言って、俺とサヤーニャを視線で促す。
「『刻印の剣舞士』らしい。さっきまでワシもその名前は知らんかったが、アンナがそう呼んでおった。」
その名を聞き、門番は最敬礼をした。
「その節は命を救って頂き、誠にありがとうございました。」
いきなりの感謝表明にキョトンとしている刻印の剣舞士。この調子じゃ本人は覚えていないけど、いたるところで人助けをしているのだろう。悪には厳しいけど人情にはめっぽう弱いって感じの姐御肌だもんな。
「思い当たる節がたくさんあってどれか分からないけど、今が元気なら助けた甲斐があったってものね。はい、これが私のタグ。」
サヤーニャが渡したのを見て、俺も慌ててタグを渡す。俺の名前と冒険者ランクFとだけ書かれたカード。サヤーニャのみたいにSにはならなくて良いが、せめてD位無いと格好着かないな。
Fランクは誰でも登録した瞬間になれる。そこから地道に依頼を重ねるか、大型魔重を仕留める等の誰が見ても快挙的な事をするとランクが上がっていく。前者は徐々に上がり、後者は一気に上がる。その代わり掛けているのは自分の命だ。俺は間違いなく前者でがんばる。なんと言っても5年間鉱山で奴隷として働いた実績があるんだ。地道の大切さは肌で理解している。
「お、こっちの兄ちゃんはFランクか。最初から刻印の剣舞士の側で勉強できるとか幸せだな。彼女にできても、自分にできない事は山ほどあると思うから、1個しかない命を大切にするんだぞ。」
何となく説教されてしまったが、命の大切さを理解している。きっと、門番も辛い事があったのだろう。そこをサヤーニャに助けられ今に至る。それから今の職に就くまでも何かがあり、さっきの言葉につながるんだろう。生きていく上での言葉だ、ありがたく頂こう。
「はい、まだまだ若輩者なので、しっかりと学ばせて頂いてます。」
なぜか門番とアイコンタクトを取ると、俺達の入場チェックが終了した。
「それじゃぁ、このまま冒険者ギルドに行って、依頼完了書にサインしていこうかしらね。」
「それが良いな。坊主、最後位馬車を扱ってみるか?」
老紳士の横に座り手綱を握ると、ゆっくりと馬を進ませたのだった。
助けられた者と今助けらている者
きっと通じるものがあると思います。
日常業務も先輩・後輩とアイコンタクトできるようにがんばります。




